2009年06月17日

◆ 豚インフルエンザの強毒化 (?)

 豚インフルエンザは、弱毒性だが、強毒化したら、怖いか?
 「強毒化したら怖いぞ」という話が出回っているが、実は、(豚インフルエンザよりも)季節性インフルエンザの強毒化の方が怖い。そのわけは…… ──

 豚インフルエンザの大騒ぎが収まってきたと思ったら、大騒ぎを居直るような声も出てきた。
 「今回は、弱毒性だったから、大したことはなく済んだ。しかしそのうち、変異が起こって、強毒性になるかもしれない。そうなったら、大変だ!」

 つまり、いったん「大変だ!」と大騒ぎしたあとで、それでも懲りずに、「前はともかく、今度こそ、大変だ!」と大騒ぎするわけだ。
 「前はともかく、今度こそ、オオカミが来るぞ!」と。(懲りずに繰り返すオオカミ少年。)
 以下、記事の引用。
 (1) 《 新型インフル:強毒性ならば 》
 もし、強毒性だったら──。世界的大流行(パンデミック)となった現在の弱毒性より手ごわい強毒性の新型インフルエンザが流行し、鉄道の乗車規制をした場合、……(以下、略)
 世界保健機関(WHO)などが想定する強毒性インフルエンザは本来、鳥インフルエンザの分類。鳥が強毒性(H5N1型)に感染すると、ほぼ 100%死ぬ。H5N1型は世界中で400人以上に感染(4月8日現在)しており、全身症状を示して致死率は6割を超えている。
( → 毎日新聞 2009-06-13

 (2) 《 強毒性変異に注意 田代・WHO委員が講演 》
 新型インフルの流行が今後冬に入る南半球を経て、11月ごろから北半球を「第2波」が襲う可能性を指摘。「第2波で、伝染力が強く強毒性のインフルに変異する懸念がある」と注意を促した。
 「流行は、いつ起きてもおかしくない。今回(の新型)を教訓に、『最悪のシナリオ』と言える鳥インフルエンザ流行にしっかりと備えてほしい」と訴えた。
( → 毎日新聞 2009-06-13
 こういうふうに、「大変だ、大変だ」と大騒ぎして、人々をパニックにしようとする。現代のオオカミ少年。
 しかし、よく考えると、その話は自己矛盾がある。

 ──

 (1)  の記事で「ほぼ 100%死ぬ」と書きながら、「致死率は6割」と書いている。
 何じゃ、これは? 「ほぼ 100%死ぬ」なら、致死率は6割でなく 10割ではないの? 自己矛盾?
  【 追記・修正 】
 あとで読者の指摘を受けた。(コメント欄)
 「ほぼ 100%死ぬ」のは鳥で、「致死率は6割」は人間のことだという。なるほど、それならわかる。じっくり読むと、そのように読める。主語の抜けた文章がわかりにくいせいで、文意が伝わらなかったんですね。
 正しい文意は、上の通りです。


 なお、「H5N1型は世界中で400人以上」というが、あまりにも感染者数と死者数が小さい。この世では存在しないと見なしてもいいくらいの珍しい稀な病気にすぎない。(季節性インフルエンザの死者数と比べてみるといい。)
 そもそも、この病気は、すでに存在している病気だ。それでいながら、感染者数が少ないとしたら、感染力は非常に弱いことになる。最初は地域一帯で流行するとしても、すぐに拡散を防げる病気だ、ということになる。大騒ぎするほどのことはない。
( ※ この点は、詳しい話が必要なので、後日(7月半ば)で再論する。本項では、とりあえず、軽く触れておくにとどめる。)

 ──

 (2) の記事では、「豚インフルエンザが強毒化すること」が懸念されている。しかし、これもまた、オオカミ少年のたわごとだろう。
 なるほど、豚インフルエンザが強毒化する可能性は、皆無ではない。だが、その数値を、合理的に考えるべきだ。「ゼロではない」ということは、「たくさんある」ということを意味しない。(数を「1,2,3,4……」と数えられない人は、「1,2,たくさん」という三種類でしか認識できない。それよりひどい。「ゼロでなければたくさん」という発想。)

 合理的に考えよう。弱毒性のウイルスが強毒性に変異するのは、あくまで確率による。そして、その確率はほぼ一定であるから、それが現実に起こる可能性は、母集団の量に比例することになる。次のように。

   可能性 = 母集団の量 × 変異確率


 ここでは、母集団の量(個体数)が重要だ。それはは、感染者数のことだ。次の二つを比較するといい。
  ・  豚  インフルエンザの感染者数
  ・ 季節性インフルエンザの感染者数


 では、その値は? 
  ・  豚  インフルエンザの感染者数 …… 12日現在で3万人 (*
  ・ 季節性インフルエンザの感染者数 …… 毎年、千万人以上


 ついでだが、上段の「3万人」というのは、世界中における感染者数。下段の「千万人以上」というのは、日本だけの感染者数。  (^^);
 どちらの方が多いか、わかりますね? 

 だから、「強毒性に変異する可能性」を考えるのであれば、豚インフルエンザでなく、季節性インフルエンザの方を、考えるべきなのだ。危険視して騒ぐにしても、騒ぐ対象を間違えてはならない。

 比喩。
   ・ ガソリンタンクのそばで花火遊びをしている子供がいる。
   ・ 石だらけのがらんとした川原で火遊びをしている子供がいる。
 どちらの方が、いっそう危険か? もちろん、前者だ。ところが、後者の方を「危険だ!」と騒いで、前者の方を無視する阿呆がいる。……それが、冒頭の記事だ。
 要するに、何が危険かということを、まったく理解していないのだ。

 ──

 それでも、次の反論がありそうだ。
 「季節性インフルエンザには、ちょっとは免疫のある人が多い。豚インフルエンザには、免疫のない人が多い。だから、豚インフルエンザが強毒化した場合の方が、ずっと危険だ。発生確率はともかく、いっそう発生したあとでは、豚インフルエンザのほうがずっと危険だ」

 なるほど、そういう反論も、ありそうだ。しかし、これは、医学的には成立しない。なぜか?
 いったん強毒化したあとでは、対処の仕方が異なるからだ。というのは、一方には対処の仕方があるが、他方には対処の仕方がないからだ。

 《 強毒化した場合の対処 》

  ・   豚  インフルエンザ …… 備蓄のタミフルを処方すればOK
  ・ 季節性インフルエンザ …… 備蓄のタミフルを処方してもダメ

 このように、前者は「OK」、後者は「ダメ」。そういう差が出る。では、なぜか? その理由は、こうだ。

 《 薬剤耐性の有無 》

  ・   豚  インフルエンザ …… 薬剤耐性 なし
  ・ 季節性インフルエンザ …… 薬剤耐性 あり


 つまり、豚インフルエンザは、薬剤耐性「なし」なので、タミフルが有効だ。季節性インフルエンザは、薬剤耐性「あり」なので、タミフルが無効だ。
 したがって、豚インフルエンザが強毒化した場合は、タミフルで患者を治療することができるが、季節性インフルエンザが強毒化した場合は、タミフルで患者を治療することができない。
 結局、豚インフルエンザよりも、季節性インフルエンザの方が、強毒化した場合の危険性はずっと高いのだ。(治療法の有無ゆえに)

 ──

 結論。

 インフルエンザの強毒化は、あまり可能性が大きくないので、たいして騒ぐ必要はない。
 ただし、強毒化が起こる可能性は、なくはない。しかし、どうせ騒ぐのであれば、「インフルエンザの強毒化が怖い」と騒ぐべきではなく、「季節性インフルエンザの強毒化が怖い」と騒ぐべきだ。理由は、次の二点。
  ・ 季節性インフルエンザの方が、発生の可能性はずっと高い。
  ・ 季節性インフルエンザの方が、対処が困難。(処置なし)

 季節性インフルエンザの強毒化の問題をさておいて、豚インフルエンザの強毒化の問題ばかりを騒ぐなんて、あまりにもどうかしている。それは、世間の人々をして、パニックに陥れること以外、何の効果もない。世間の人々の不安を駆り立てて、社会を混乱させるだけだ。ありもしない危険をあるかのごとく称して、社会を破壊する。
 「天が落ちてきますよ、大変だ、大変だ」
 こういうふうに騒いで、世間の人々を混乱させる。それは、悪魔のやることだ。ゆえに、悪魔のやることに、だまされてはならない。──それが本項の結論だ。



 [ 補説 ]
 では、騒ぐかわりに、どうすればいいか? 本当になすべきことを教えよう。こうだ。

 (1) 備蓄

 「豚インフルエンザの強毒化」という問題は、無視していい。むしろ、「季節性インフルエンザの強毒化」という問題に、対処するべきだ。
 季節性インフルエンザには、タミフルは無効である。季節性インフルエンザが強毒化した場合も、タミフルは(たぶん)無効であろう。
 とすれば、タミフルを備蓄するのでなく、別の薬剤を備蓄するべきだ。それは、リレンザでもいいし、ペラミビルでもいい。とにかく、タミフルだけはダメだ。薬剤耐性ができているからだ。そんなものをいくら備蓄しても、「季節性インフルエンザの強毒化」への対処としては、何にもならない。

 また、「リスク管理」という発想からしても、対策は、一つでなく複数に分けるべきだ。「ある一つの対策に頼っておいて、その一つの対策がポシャたら全滅」というような方針は、リスクが高すぎる。リスクを分散させるべきだ。そのためには、薬剤を複数用意しておくべきだ。
 リスク管理の点だけなら、タミフルとリレンザとペラミビルを3分の1ずつにするべきだろう。ただし、現実には、タミフルは薬剤耐性ができてしまっているので、タミフルだけは備蓄を少なくした方がいい。
 ところが現実は、正反対。タミフル一辺倒といってもいいほどの、タミフルの大量備蓄だ。つまり、最悪。大量のタミフルは、ただのゴミになりかねない。
 政府も、 WHO も、医療関係者も、なすべきことを全然理解していない。

 (2) 耐性の阻止

 季節性インフルエンザについては、タミフルへの耐性はすでにできてしまった。これを阻止しようとしても、もはや手遅れだ。
 だが、次のことは、まだ可能だ。
  ・ 豚インフルエンザについて、タミフルへの耐性
  ・ 豚インフルエンザについて、リレンザへの耐性
  ・ 季節性インフルエンザについて、リレンザへの耐性

 これらの耐性は、まだできていない。だから、これらの耐性を、阻止するべきだ。そして、そのためには、「薬剤の乱用」を阻止するべきだ。
 今なすべきことは、それなのだ。しかしながら、政府は、逆のことをしている。次のように。
 「豚インフルエンザについて、タミフルをどんどん投与する」

 こんなことをやっていたら、かえって薬剤耐性ができてしまう。そのうち、豚インフルエンザにはタミフルが効かなくなるだろう。
 つまり、一度失敗した道を、ふたたび繰り返すことになる。学習能力ゼロ。猿ほどの知恵もないわけだ。
 
 結論。

 強毒化が心配ならば、「大変だ!」と大騒ぎするべきではなく、むしろ、そのときのために、対処するべきだ。
 そして、対処とは、「(タミフル以外の)備蓄」と「耐性の阻止」である。これこそ、なすべきことだ。
 なのに、現実には、そのどちらもやらない。というか、やるべきことと、正反対のことをしている。現状よりもかえって悪い状況に進もうとしている。自殺行為。
 これがパニックという現象の問題だ。人々は、大騒ぎしたあげく、「何かをなすべきだ」と突っ走って、そのあげく、危険を避けるかわりに、危険に正面衝突するのだ。自分が何をしているか、理解できないゆえに。
 この愚かさにこそ、注意するべきだ。

 [ 補足 ]
 「そのうち、豚インフルエンザにはタミフルが効かなくなるだろう」
 とすぐ上で述べた。その時期は、かなり早くなるだろう。というのは、「遺伝子の水平移動」という現象が起こるからだ。季節性インフルエンザのタミフル耐性因子は、豚インフルエンザに移動するだろう。そのことで、豚インフルエンザはまもなく、タミフル耐性を獲得するだろう。
 ただし、タミフルの乱用をしなければ、その時期をかなり遅らせることはできる。人々がタミフルを乱用していなければ、耐性ウイルスよりは、非耐性ウイルスの方が、たくさん流行しそうだからだ。……その意味でも、薬剤の乱用は、やるべきではない。
( ※ 薬剤は、真に必要な人のみが、使うべきだ。重症者や虚弱者など。一方、大多数の人々は、薬剤を使うべきではない。さもなくば、薬剤そのものが無効化する。)



 【 関連項目 】

 どう ふるまうべきか (何をなすべきか)
   「パニックの最中は、なすべきこととは逆のことをする」という話。

 タミフルの備蓄を増やすな
   「大量のタミフルが、豚インフルエンザには無効だ」という話。
     (検査薬がないので。)
posted by 管理人 at 20:12| Comment(2) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私も巷やマスコミにおいて
大騒ぎするのはどうか、と思っているのですが…
記事を拝見させて頂いて、幾つか気になったので…

まずH5N1の致死率は6割は人間の話で、10割は鳥の話ではないですか?また、このトリインフルエンザは人から人に感染しません。鳥から人だけです。
これが人から人に感染するようになることが恐ろしいのでしょう。

また、豚インフルエンザの強毒化については、一つの感染者に
複数種類の似たウイルスが同時に感染した場合、
両方の特性を併せ持つウイルスに変異したものが
生まれる可能性あります。
それは、何もない状態で変異するよりは遙かに高い可能性だといえるでしょう。
これはつまり、豚インフルから変異した現在流行中の新型が、
秋から冬にかけて、少なからず季節性と時期が重なってしまうのは、
国内だけでも感染者が3000人を越えた今、回避できない事態でしょう。
ということは、一人の人間に季節性と豚インフルが
同時感染し、更なる新型が生まれる可能性が高まるのです。

パニックは起こしたくないですが、
今までより確率が高いからこそマスコミが騒いでいるのでしょう。

また、遅かれ早かれタミフル以外の薬物でも
耐性をもつウイルスが現れるのではないでしょうか。
季節性でもC型には、リレンザは効きませんしね。
Posted by ml at 2009年07月20日 01:54
> 一人の人間に季節性と豚インフルが同時感染し

 これは別に問題ないでしょう。免疫システムが両方いっしょに撃破するだけです。(ともに H1N1 )

> 更なる新型が生まれる可能性

 したがって、これもまた問題ないでしょう。1つが2つになっても問題ないし、2つが3つになっても問題ない。

 数が倍に増えたからといって危険性が倍になるわけではありません。ほんのちょっと高くなるだけ。その小さなものを針小棒大に報道しているのがマスコミ。
 インフルエンザなんて、毎年毎年、新たな変異型が出るんだから、いちいち騒ぐほどのことはない、というのが、私の立場。
 豚インフルエンザが強毒化したからといって、特別なことが起こるわけじゃない。毎年少しずつ変化する季節性インフルエンザが強毒化する危険と、ほとんど変わらない。だからいちいち大騒ぎすることはない……というのが本項の趣旨。
 だいたい、豚インフルエンザなんて、H1N1 なんだから、季節性インフルエンザの亜型と見なして、何ら差し支えない。どうせ騒ぐなら、 H2 の新型が出たときにでも騒ぐ方がマシ。ま、それにしたって、たいしたことはないが。

> 今までより確率が高いからこそマスコミが騒いでいるのでしょう。

 マスコミが騒いでいるのは、自分たちがパニックを引き起こそうとしているということを自覚していないからです。自分の力に対して無責任だからです。
 比喩的に言えば、警官が自分の仕事に無責任で、「幽霊が出た」と思って、あちこちで拳銃を乱発している、という状況。妄想ゆえの狂気的行動。
 それを指摘しているのが本サイトです。危険性があるかどうかが問題なのではありません。新たな危険性は、あるにせよ、ごく小さな問題なのに、おおあわてして拳銃を乱発するようなマスコミを批判しているわけです。

 ──

> H5N1の致死率は6割は人間の話で、10割は鳥の話ではないですか?

 これは、その通りですね。ありがとうございます。ご指摘を受けて、訂正しました。
Posted by 管理人 at 2009年07月20日 09:14
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