2009年06月07日

◆ 新・簡易検査キット

 豚インフルエンザであるか否かを検査するための簡易キットが開発中だという。( SmartAmp法 ) ──

 インフルエンザの患者がA型か否かを確認する簡易検査は、すでにある。(精度7割。)
 ソ連型か、メキシコ型(豚インフルエンザ)かは、PCR法で確認するしかなかったが、それだと、かなり時間がかかった。一番速い「リアルタイムPCR」という最新の検査装置でも3〜6時間かかる。
 一方、政府は理研の新技術によりl、1時間で容易に検査できる新技術の開発を推進するという。
  新型インフルエンザ対策で政府は22日、季節性のインフルエンザが流行する次の冬までに、新型用の簡易検査キットの実用化を目指すと発表した。国立感染症研究所や国立国際医療センター、理化学研究所、東京大学医科学研究所で共同の開発体制をつくる。
( → 朝日新聞 5月22日
 ──

 1億円で開発する予定というが、「そんなにうまく行くの?」と疑問に思った。話がうますぎる。そこで、調べてみたところ、この技術自体はもともと開発済みだとわかった。
 ただ、ソ連型や香港型に対応するタイプはすでにあるが、豚インフルエンザに対応するタイプはまだない。そこで、豚インフルエンザに対応するタイプだけを、新規開発する、というもの。

 情報は、理研のサイトにある。
  → 理研のプレスリリース

 これは「SmartAmp法」という名称。
 加熱して試薬を加えるだけで、結果がわかるという。検査時間は1時間。
 従来技術に比べると、圧倒的に有利だ。

 ……という宣伝だが、よく考えると、話がうますぎる。「試薬だけで遺伝子型がわかる」なんて、そんなこと、ありえない。PCR 法をしのぐ技術ができたら、ノーベル賞だろう。( PCR法自体が、ノーベル賞受賞だし、そのなかでも最大クラスの受賞だ。)
 そこで、よく調べてみたら、これは、PCR法の一種にすぎない、とわかった。ただ、温度の上下という基本を大幅に簡略化できるらしい。(等温処理。)
  → メーカーのサイト
      ( アニメ画像 も )

 とはいえ、「既存のリアルタイムPCR装置をそのまま利用可能」ということだから、リアルタイムPCR装置が必要だ。価格は 400万円弱。(試薬代は別途。)
 …高価すぎる。そこらの町医者が気楽に設置できるようなものではない。

 ──

 これは普及するか? そんなことはないだろう。価格の点でも問題だが、それを除いても、別の問題がある。
 検査時間は1時間だとすれば、患者は2時間も待たされることになる。そんなに待っていたら、その間に患者の病状は悪化する。インフルエンザの患者を院内に2時間も余計に待たせるなんて、とんでもない。
 「病気はわかりました、患者は倒れました」
 みたいなことになる。

 ──

 どうも、政府の方針は、次のことを前提としているようだ。
 「豚インフルエンザであることを確認してから、タミフルを与える」

 しかし、こんな方針は、必要ない。したがって、検査薬も必要ない

 この検査薬は、原則として、使われないだろう。インフルエンザの患者には、豚インフルエンザであるか否かの検査は必要ない。季節性インフルエンザと区別しないでいい。そのまま単に、リレンザを与えるか、何も与えないか、どちらかでいい。

 この検査薬が使われるとしたら、特別な場合だけだ。
 例。
  ・ 豚インフルエンザの感染者数を知るためのサンプル調査
  ・ 重症者について詳細を知る場合
  ・ どうしてもリレンザでなくタミフルを与えたい場合。
   (リレンザを使い果たした場合など。)

 逆に、次のことは、絶対に必要ない。
  ・ 豚インフルエンザか否かを、全数検査する。

 こんなことはまったく必要ない。金がかかるだけで、ただの無駄。いや、無駄であるだけでなく、患者の病状を悪化させる。だから、必要ないだけでなく、やってはいけないことだ。

 ──

 どうも、「すばらしい技術ができるから、素晴らしい結果になる」というふうに、政府や理研は宣伝しているようだ。(朝日新聞・朝刊 2009-06-07 の特集にも、この検査薬を宣伝する話が出ている。)
 しかし、こんな検査薬など、たいして意味はない。政府の統計のためには役立つかもしれないが、普通の患者にとっては、何の意味もない。というか、検査のために、病状を悪化させられる危険がある。

 医師 「国家的に統計調査する必要があるんです。検査を受けて下さい。お願いします」
 患者 「で、統計調査のために、おれに犠牲になれというのか?」
 医師 「あ、あなたが犠牲になれなんて、まだ言っていないんですけど……せっかく隠しておいたのに、どうして知っているの?」
 患者 「 Openブログに書いてあったのさ」  




 [ 付記1 ]
 この検査は、技術としてみれば有益だが、豚インフルエンザに関する限り、有益性はほとんどないと思う。
 なるほど、この5月に関してならば、実数調査が必要だったかもしれない。しかし、その場合も、既存の装置でとりあえずは間に合った。
 次の秋冬はどうかというと、初期には実数調査が必要かもしれないが、別に、実数調査でなく、サンプル調査であっても、ちっとも問題ない。どうせ毎日、急激に感染者数が増えていくのだから、その数値に(サンプルゆえの)統計誤差が1割ぐらいあったとしても、ちっとも差し支えない。
 また、いくら性能が優れているといっても、しょせんは6倍にすぎないのだから、早晩、全数検査はできなくなる。何だかんだ言っても、千万人以上の感染者をいちいち調べることはできない。また、調べても、何の意味もない。(どっちみち処置は、リレンザを処方すること[ or 何もしないこと]だから、結果は同じ。)
 全数検査をするには能力不足だし、サンプル調査をするには能力過剰。帯に短し、襷に長し。……ま、あってもいいが、特に必要だとは思えない。研究者には有益だろうが、実用性という点では、「ないよりマシ」という程度か。
 というか、「これで全数検査をしよう」なんて勘違いする人々が出たりすると、かえって有害だろう。……実際、そうなりそうだ。以下を参照。

 [ 付記2 ]
 この検査は必要ないが、現実には、導入されて、多大な検査がなされるだろう。
 なぜか? 医者としては、無駄な検査をして、保険点数を稼ぎたいという誘惑は生じるからだ。
 つまり、ただでさえ検査漬けの状況に、新たに検査漬けの手段が追加される。導入した機器を償却するために、無駄な検査をいっぱいやる。
 これは嘘ではない。私は歯医者に行くたびに、無駄な巨大レントゲン検査を受ける。他にも、やたらと血液検査をしたがる病院もある。病院はどこもかも、無駄な検査漬け。

 その費用は? 
 社会保障料をアップするために、消費税を上げましょう。10%じゃ足りないな。消費税を 20%にしなくちゃ。 …… あ、そう。(首相)

 [ 付記3 ]
 似たものを、ロシュも開発したそうだ。こちらは、時間が 1.5時間。
 ロシュ・ダイアグノスティックスはインフルエンザウイルスの中のA型/H1N1ウイルス(新型インフルエンザ)を選択的に同定する検査試薬「インフルエンザA型/H1N1ウイルス検出用試薬」を研究用として、大学や研究機関の研究者や製薬企業の研究分野の研究者を対象に販売する。
 H1N1ウイルスを選択的に同定する検査試薬で、簡便かつ多検体処理が可能なリアルタイムPCR法に対応する。従来のインフルエンザウイルス検出に用いられていた方法では3時間を要したが1.5時間に短縮できる。
( → ニュース 2009-06-04

 【 追記 】 ( 2009-08-19 )
  新たに詳しい情報が得られた。
 (1) 特殊な酵素を使って時間を大幅に短縮する。
 (2) タミフル耐性のチェックなどもできる。

 詳しくは、下記。
http://mainichi.jp/select/science/news/20090818ddm016040108000c.html

 記事によると、今シーズンには間に合わないそうだ。
 ただ、性能は良く、コストも大幅に低いらしい。

posted by 管理人 at 14:26| Comment(2) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最後に 【 追記 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2009年08月19日 22:40
新たな情報が出た。
  → http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2012/120126/detail.html

 やっと実現したか……と思ったら、いまだに実験だ。記事から2年半もたって、いまだに実験なんかをやっている。この分だと実用化は十年先か。

 ※ 簡便な器具ではなくて、かなり大がかりな高価な機械になるようだ。個人病院(診療所)で導入できるかは、疑問。
Posted by 管理人 at 2012年03月14日 12:24
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