2009年06月04日

◆ 検疫の効果(検証)

 検疫(水際対策)には、効果があったか? 木村もりよ は「効果なし」と断言したが、「効果はあったぞ」と批判する人もいる。
 私としては、「効果はあったが、ごく小さかった」と結論したい。 ──

 木村もりよ は、「検疫の効果はなかった」と主張している。
   → リンク(インフルエンザ) (のリンク先)

 一方、「検疫の効果はあった」という見解もある。
 対策、対応が過剰ではないかという海外の反応はあまり気にすることはない。空港での検疫など水際対策は、感染症予防の鉄則である。情報が決定的に少ない以上、最悪の事態を想定するのも当然である。現時点での新型インフルエンザが弱毒性であるということがわかってきたのは最近のことである。確固たる証拠もなく、適当に大丈夫だ、大したことはないという勝手な判断は感染症予防を妨げるだけだ。後で大したことはなかったと笑い話になれば幸いであろう。インフルエンザ対策は偏執狂でもいいじゃないか。
( → 産経ニュース
 いかにも素人丸出しである。素人の見解をいちいち批判するのも大人げないかもしれないが、よくある間違いなので、具体的に難点を指摘しておこう。

> 対応が過剰ではないかという海外の反応はあまり気にすることはない


 「世界の常識」と言い換えるべき。「世界の常識を気にしないでいい」というのは、ただの常識知らずであることを自認しているだけだ。

> 弱毒性であるということがわかってきたのは最近のことである

 これはまるきり虚偽である。5月の初めにはすでに判明していた。本サイトで示したとおり。最初は検疫をするのもやむを得ないが、5月10日ごろにはもはや検疫をやめてもよかった。

> 確固たる証拠もなく、適当に大丈夫だ、大したことはないという勝手な判断


 WHO その他が「弱毒性である」と説明していた。危険性がよくわからなかったのは、4月中だけだ。

> 偏執狂でもいいじゃないか


 これは、狂人であることを是認しているのも同然だ。

 ──

 講評しよう。
 そもそも、今回の検疫は、効果がほとんどなかった、と判明している。大阪の高校生の流行では、かなり早い時期(4月中?)に、ウイルスはすでに日本に流入していたらしい。
  → ウイルスの遺伝子型からわかった、という報道
  → 厚労省による確認分の新規情報 ( 2009-06-05 )
 つまり、検疫をしはじめたころには、もはやウイルスはとっくに潜入していたのだ。なのに、侵入後の時点で検疫を始めても、「馬が逃げたあとで扉を閉める」のと同じで、無意味だ。
 ま、それでも、新規の感染者を食い止めた効果は、いくらかはある。しかしそれは、検疫で発見された分だけだ。その数は、(覚えていないが)数名程度ではなかったか? その一方で、潜伏期の感染者は、こっそりと検疫をすり抜けてしまった。
 ま、全体として言えば、検疫による効果は、皆無ではなかった。ただしそれによる効果は、全体の2割程度だっただろう。残りの8割程度は、(事前または事後に)すり抜けて、国内に入ってしまった。その8割が、国内で二次感染者をどんどん増やすから、検疫の効果はあまりない。

 特に、検疫の開始以前に入った分が、かなりある。これはけっこう多いらしい。検疫の開始以後で阻止した分もあるが、検疫の中止(22日)以後に国内で発生した患者数が少ないことから、検疫による効果はもともとたいしたことがなかったとわかる。海外から来た新規の感染者は、今でもチラホラと報道されるが、その間に、国内で二次感染した患者はどんどん増えているからだ。つまり、水際で食い止める量より、国内で二次感染する量の方が、ずっと多い。
 6月3日現在、(発見された)感染者の総数は 406人で、うち、検疫で見つかったのは 8人だけである。( → 毎日新聞 2009-06-04
 これをもって「検疫の効果は 8/406 で、5%だ」と決めつけるわけには行かない。検疫をしなければ、二次感染者数が 50人ぐらいは増えていただろう。とすれば、「検疫の効果は 58/456 で、13%だ」と考える方が正確だ。ま、ざっと見て、1〜2割ぐらいの効果はあったと言える。ただし、それだけだ。

 結論。

 検疫は、まったく効果がなかった、とは言えない。少しぐらいは効果があった。しかし、いったん国内に入ってしまえば、もはや何の意味もない。感染者数を2割ぐらい減らす効果はあっただろうが、そんなことにはほとんど意味がない。やってもやらなくても、結果はさして変わらなかっただろう。
 豚インフルエンザの収束をもたらしたのは、季節性の温暖化だ。たしかに、検疫をしたあとで、患者数の発生は抑制されたが、それは、検疫のおかげではなく、季節の温暖化のおかげなのだ。
 「検疫のおかげで被害はこれくらいで済んだのだ」などと、検疫を過剰評価してはならない。
 
  ────────────

 事実について認識したあとで、検疫という政策について評価しよう。

 評価。

 検疫には、少し(2割)ぐらいの効果はあったから、それなりに有効だったとは言える。特に、「自発的申告」は、いくらか有意義だったと言える。
 「熱のある人などを自発申告させて、医師が診察して、インフルエンザの疑いがあれば、薬剤を処方したり、自宅静養を勧めたりする」
 というようなことは、それなりに有益だっただろう。
 ただしその措置は、帰国者・入国者の感染者に限らず、国内にいる一般の感染者の場合と同様である。普通の市民にも、同じ措置を取るべきであって、それが帰国者・入国者似も当てはまる、というだけのことだ。その程度のことであれば、水際対策も有効だったと言える。
 しかし、そのことは、「水際対策が特に必要だった」ということを意味しない。「普通の措置が水際にも適用される」という程度のことにすぎない。

 一方、次のようなことは、あまりにも過剰だった。
  ・ 宇宙服みたいな服を着る。(物々しい様子を見せる)
  ・ 10日間(のちに7日間)の隔離。(ホテルへのカンヅメ)

 このようなことは、まったく馬鹿げている。たとえば、現在、感染者にそんなことをしたと考えたら、その馬鹿らしさはわかるだろう。
  ・ 今どき、医師は宇宙服みたいな服は着ない。(マスクで十分。)
  ・ 強制隔離などはまったく不用。(自宅静養で十分。)

 これが今では常識だ。(季節性インフルエンザ並みの対処。)

 このインフルエンザが弱毒性であることは、5月初めにはわかっていた。なのに、5月08日ごろから21日まで大々的な検疫や隔離が続いた。だからこそ私は5月10日以降にこれを批判した。

 感想。

 木村もりよ が大々的な検疫を「パフォーマンス」と表現したのは、まったく正しい。スズメの涙のような成果を挙げるために、大臣が大騒ぎしたが、あれは、国民の命を救う結果をもたらしたのではなく、「私は国民の命を救うために努力しています」という宣伝効果をもたらしただけだ。
 そして、その宣伝効果は、まさしく大成功した。それを証する実例が、冒頭の記事のような、馬鹿な素人の見解だ。「インフルエンザ対策は偏執狂でもいいじゃないか」というふうに、まるきり洗脳されてしまっている。
 真の政治家は、「人命を救うパフォーマンス」でなく、「人命をまさしく救う」という措置を取る。

 提言。

 検疫をしたことには、ほとんど意味がなかった。公衆衛生の面で見れば、患者がちょっとばかり減ったということには、ほとんど意味がなかった。
 では、かわりに、何をするべきだったか?
 どうせやるならば、同じ金をかけて、医療体制全般を充実させる方が、よほどいいだろう。そうすれば、かなり多くの人命を救える。
 では、具体的には? 
 一つは、医療崩壊を防ぐために、金をかけることだ。特に、救急医療の充実が必要だ。ここには生命の危機に瀕する人が大量に来る。そこで生命を救おうとすることが何よりも大切だ。何をしようがしょせんは食い留めることのできないのに、あえて無理に食い止めようとして、やたらと金を費やすというのは、ただの無駄にすぎない。
 もう一つは、ウイルスの耐性化を阻止することだ。そのためには、「抗ウィルス薬の乱用を防ぐ」ことが何よりも大切だ。これには金はかからない。というか、かえって金を節約できる。
 以上に、なすべき二点を示した。ところが、現状は違う。日本には、(人命を救うフリをする)パフォーマンスをする政治家はいても、本当に人命を救おうとする政治家はいない。悲しいことに、それが現状だ。
 


 [ 付記1 ]
 「検疫をしたから、日本の被害はこの程度で済んだのだ」
 という素人の主張がある。(冒頭。)
 これが本当なら、秋にもふたたび検疫をすることで、日本の被害を大幅に縮小できるはずだ。そうなるか? 
 オーストラリアの状況を見るといい。そんな生易しいものではない、とわかる。最初にちょっとでも国内に侵入したら、そのあとはウナギ登りで感染者数が増えていく。実際、オーストラリアでは、こうだった。
 
 5月 22日に 10人。25日に 23人。26日に 44人。
 29日に 168人。30日に 254人。31日に 302人。1日に 401人。
 2日に 501人、3日に 634人、4日に 876人。
 ( → オーストラリアの状況

 こういうふうに急増していく。こういう状況で、検疫などをやっても、ほとんど意味はない。急増するのを数時間か半日程度遅らせる、という程度のことにすぎない。1カ月もたてば、検疫の効果は(誤差のなかで)雲散霧消してしまう。
 検疫というものは、やるなら完璧にやる必要がある。特に、秋冬の急増期には。……もし完璧にやらなければ、しょせんは結果は同じだ。
 要するに、検疫にはほとんど効果はない。そんな検疫にやたらと期待をするのは、無意味だ。それよりも、水際対策としては、ずっと有効な方法がある。それは、「入国者の自宅静養(三日間)」だ。……こちらをやる方が、圧倒的に効果はある。( → 潜伏期と保菌者
 検疫というものに過剰に期待をすることは、かえって「自宅静養」という大切なものから目を逸らさせる効果がある。
 何事であれ、「大変だ、大変だ」と大騒ぎすると、本当に大切なものを見失ってしまうのだ。……それがパニックの弊害だ。

 [ 付記2 ]
 先の項目では、次のように述べた。
 「米国は、感染者が1万人で、死者が 19人となったそうだが、それでもパニックになっていませんね。日本とは大差。」

 こういう米国と、上記の日本人の話を比べると、差の大きさに愕然とする。
 日本は、ゴキブリを見て、「猛毒だ! 大変だ! バイ菌で死んでしまう!」と大騒ぎする奥さんみたいなものだ。騒ぎすぎ。
 
( ※ 最新ニュース では、米国では、死者が 20人、感染者 1万人強、計数されない分を含めて 推定感染者 10万人、とのことだ。日本から見ると、ものすごい数に思えるかもしれないが、季節性インフルエンザに比べれば 2桁小さい。)
( ※ 冬になれば、豚インフルエンザの患者は、日本では 1000万人程度になると予想される。今のうちに、覚悟しておいた方がいい。そして、そのことを、マスコミはちゃんと今のうちに報道するべきだ。そのときになって、「大変だあ」と大騒ぎするよりは、今のうちにちゃんと知らしめるべきだ。……そして、そうすれば、感染者が数百人になったことなど屁のカッパだ、とわかるだだろう。)

 [ 付記3 ]
 いまだに状況がつかめていないマスコミもある。
 《 本当に「騒ぎすぎ」だったのか 》
 新型インフルエンザの感染の広がりも、少しずつ落ち着いてきたようだ。「騒ぎすぎだ」「もっと冷静に」と指摘する声があちこちから聞こえるようになった。
 しかし、4月末に新型インフルエンザの発生が確認された当時から現在までの状況を「騒ぎすぎだった」と一言で総括するのは非常に危険だと思う。
 こうした批判は、「ウイルスの毒性が比較的弱く、感染者の症状もそれほど重くない」という事実が分かった今だからこそ言えることだ。いわば“後出しジャンケン”である。
( → IT pro
 日付も忘れてしまったらしい。弱毒性だとわかったのは、今ではない。1カ月前だ。そのあと、約1カ月間、勝手に大騒ぎしていたのが日本である。その間ずっと、「弱毒性だとわかっていて」大騒ぎしたのだ。
  → 新型インフルエンザ、弱毒性か…WHO委員見解
 「後出しジャンケン」なんかではない。弱毒性だとわかっていたから、世界の各国は平静だった。日本だけが勝手に騒いでいたのだ。その事実を誤認して、「あれは正しかった」と自己肯定するのは、ひどすぎる。「過ちて改めずこれを過ちという」だ。
 何でも過剰に行動すればいいのではない。科学的・合理的に行動するべきなのだ。この件は、先にも述べた。次の言葉で。
 「善良であろうとするな。合理的であろうとせよ」

 ( → (対策は) 何をなすべきか?



 【 関連サイト 】
 
  → 『水際検疫が効果』厚労相 (5月9日)

  → 「空港での検疫、効果なし」、WHOが指摘 (4月28日)



 【 関連項目 】

 → 潜伏期と保菌者 (4月29日)
   ※ 今にして気がついたが、私は WHO より1日 遅れていた。  (^^);

 → 強制的な隔離は必要か?

 → 秋には何もするな
posted by 管理人 at 19:25| Comment(1) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
新聞(5/21)からの引用。
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200905210069.html

 《 インフルの水際対策に「穴」 検疫偏重に批判も 》 '09/5/21

 「検疫での流入阻止は不可能」。専門家が指摘するように、既にウイルスは水際対策をすり抜けて国内に侵入し、大阪、兵庫で感染が拡大。政府が全力を挙げたはずの検疫の穴があらためて浮き彫りとなった。
 機内検疫は海外で新型インフルエンザウイルスが確認された四月末、成田など三つの空港で始められた。自衛隊や全国の大学病院などから応援を得て検疫態勢を増強。最も多い日では通常の二倍に当たる四百人超の検疫官で米国やメキシコなど、まん延国からの航空機の直行便には機内検疫を実施した。
 しかし、インフルエンザには七日間程度の潜伏期間があるうえ、感染していても簡易キットでの検査では一定程度は陰性となることから、一部の専門家は「検疫でチェックするのは不可能。ある程度の段階で国内の医療態勢整備に軸足を移すべきだ」と指摘していた。
 検疫偏重は国際基準にも逆行しており、世界保健機関(WHO)は検疫の効果に否定的見解を示している。
 十三日に開催された政府の専門家諮問委員会。報告書案には「水際対策については徐々に通常のレベルに戻す」と盛り込まれていたが、最終案では削られていた。
 厚労省の対策メンバーの一人は「われわれも水際対策の効果が少ないのは知っている。やめたいが官邸の判断になっているので、勝手にやめられない」と打ち明ける。
Posted by 管理人 at 2009年06月05日 21:29
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