2009年05月28日

◆ 発熱外来で診察可能か?

 普通の病院がインフルエンザの患者を診察すると、院内感染の危険がある。
 それを避けるために、インフルエンザ患者専用の「発熱外来で」という案がある。だが、可能か? ──

 秋には大量の豚インフルエンザ患者が発生する。これを普通の病院が診察すると、院内感染の危険がある。つまり、インフルエンザ患者が病院内でウイルスをまきちらし、他の患者にインフルエンザをうつす。
  インフルエンザ患者 → 病院内にいる他の病気の患者

 という形だ。人々は、病気を治してもらいに病院に行ったら、病気を治してもらうどころか、インフルエンザをうつされる、という結果になるわけだ。

 これは、まんざら冗談ではない。あまり話題になっていないが、同様のことは、季節性インフルエンザでもあった。
 「インフルエンザになった家族を病院に連れていったら、病院で自分自身がインフルエンザをうつされてしまった」
 という話。

 この問題は、これまではあまり話題になっていなかったのだが、豚インフルエンザの騒ぎのなかで、「自分は感染したくない!」と騒ぐ人が増えると、この問題が日の目を浴びるようになった。
 私としては、「何を今さら……」という気もしなくもないが、その問題自体はたしかにあるので、これを期に、問題が解決されるとしたら、好ましいことだ。

 ただし、注意。
 「院内感染を防ぐ」というのは、豚インフルエンザに限った話ではない。季節性インフルエンザだって同様だ。
したがって、 
 「インフルエンザについてのみ、病院内感染を防ぐ。季節性インフルエンザについては、ほったらかし」
 というような案は、認められない。病院内感染を防ぐことの必要性は、どちらのインフルエンザも同様なのだ。── そのことを念頭に置いた上で、このあとの話を続けよう。

  ────────────

 「院内感染を防ぐには、発熱外来をたくさん作れ」

 という案がある。これを提案した人はたくさんいるが、代表的なのは木村もりよだろう。次のように述べている。
 個室外来であれば感染を防げるが、カーテンで仕切っただけの外来診察室が、まだまだ少なくない。これまた、途上国レベルだ。また、陰圧室(病原菌が飛散しないように気圧を下げた診療室)を持っていない地方自治体も多数ある。横浜市すべてを網羅する横浜市立市民病院の陰圧室は、わずか二床に過ぎない。
 医療施設の改築には、時間も費用もかかる。プレハブ小屋をたくさん建てて、発熱外来にすればいい。
 感染防止体制が整っていない医療機関への受診強制は、患者を院内感染の危険にさらすようなものだ。また、三次救急を受け持つ大病院には、癌を初めとして免疫力が低下した医療的弱者が多数いる。わざわざ、なぜ命に関わるかもしれない重篤患者を院内感染の危険にさらす必要があるのか。この政策ひとつ見ても、厚労省が感染症対策に無知であることが分かる。
 街の駐車場や公園に、プレハブの診察室を建てればいいのだ。もっとも安全で、安価で、即効性がある。
( → 木村もりよ
 プレハブのかわりに「テント」を用いるという案もある。これはすでに実施されている。
  《 除菌テントも /栃木 》
 発熱外来診療所が26日、県内6カ所に開設された。感染拡大の防止と診療効率化を図るため、これまで対応してきた県内5カ所の感染症指定医療機関とは別の公的施設に設けられた。
 鹿沼市今宮町の県西健康福祉センター敷地内では、ウイルスを除菌するフィルターを備えた「陰圧式エアーテント」(縦5メートル、横4メートル、高さ2・8メートル)方式の県西第一発熱外来診療所が開設された。
 テント内は空気の圧力を下げ、ウイルスが含まれた空気が外に漏れにくい構造で、簡易ベッドやテーブル、検査キットなどが備えられている。5〜6人で約1時間で設置したという。
 発熱外来の受診は、発熱電話相談センターへの連絡から始まる。電話での問診で同センターの診察が必要と判断した患者のみが発熱外来診療所に来院。防護服を着た職員が問診を行い、アルコール消毒をしたうえで、医師らによる診察を受けてもらう。
 これを見ると、「プレハブ」よりは「テント」の方が適切に思えるだろう。プレハブというのは、かなり金がかかる。一方、テントは、ほとんど金がかからない。万一の場合(地震など)には、災害救助用に転用することもできる。国内各地や海外に送付することも可能だ。
 何より、数百万にも上る患者数に対応するには、プレハブではとても数が足りない。テントならば何とかなるにしても、プレハブでは全然不足するだろう。

 他に、「バス」という案もある。(これは私の案。)バスならば、地方の過疎地を巡回移動することもできるので、人口密度の低い地方では有益だ。

 なお、これらの施設で使うべき装置としては、陰圧室のような物々しい設備は必要あるまい。単に「換気扇による換気」で十分だろう。空気の流れをうまく制御すれば、どっちみち同じことだ。

 ただ、その際、次の装置があるといい。
 「プラズマクラスターイオンという空気清浄機」

 これはウイルスを除去する空気清浄機だ。詳しくは、下記。
 空中浄化技術「プラズマクラスターイオン」。浮遊するカビ菌やアレルギー物質を分解・除去する効果があり、08年には、浮遊する「H5N1型鳥インフルエンザウイルス」を99.9%分解・除去できる性能も明らかにしている。
( → business-i
( → 北里環境科学センターとの共同研究

 なお、三洋電機にも、「ウイルスウォッシャー」という機能の空気清浄機があるという。原理は別。(詳しくは自分で検索してほしい。)
 ──

 以上で、次のようなものを紹介した。
  ・ プレハブ
  ・ テント ,バス
  ・ 陰圧室,換気扇,空気清浄機(ウイルス除去機能)

 では、これらの設備を大量に用意すれば、大量の患者を処置できるだろうか? 

 その質問に、私は「ノー」と答える。なぜなら、いくら設備はあっても、医者がいないからだ。
 そもそも、今はただでさえ、医者不足だ。そこに新たに数百万人の患者が押し寄せたら、どうなる? とても処理できるはずがない。
 上記のように「発熱外来」というのを提案する人は、「日本は根本的に医療崩壊に瀕している」という事実を無視している。
 
 日本の病院は、慢性的に、医師不足だ。地方の中核病院や大学病院に至っては、本来の能力を超えて患者を処理しており、医師が過労死寸前だ。
 そういう状況のところへ、一冬に数百万人の患者が新たに押し寄せたら、どうなる? 医療は崩壊する。
( ※ この5月には、わずか 300人程度の感染者が出ただけなのに、大阪の保健所の担当者は勤務が限界に達した。秋冬になれば、それよりも圧倒的に多くの患者が押し寄せる。)

 このままだと、
 「インフルエンザ患者を診て、他の重症患者を放置する」

 ということになりかねない。それは、
 「頭隠して尻隠さず」

 というのと同様だ。

 ──

 だから、「発熱外来を大量に増やす」という案は、採用できない。医者の量という上限ゆえに。
 では、医者の量という上限の範囲内でやればいいか? それならば、プレハブやテントなどは必要ない。既存の病院で十分だ。

 ただし、既存の病院でやる場合、患者の院内感染を防ぐには、次の措置が必要だ。
 「発熱外来と他の診療科とを、(いくつかの)病院ごとに分ける」

 たとえば、地域内に三つの病院があったとして、一つは発熱外来専用にして、他の二つは他の診療科とする。
 医師の数に上限があるならば、このようにすればいい。そうすれば、プレハブもテントも必要ない。

 ただし、そのことが可能なのは、「医師に余裕がある」場合に限られる。もともと医師の量がたっぷりと余っていれば、新たに押し寄せた大量の患者を引き受けることも可能だろう。……よほど恵まれた地方ならば、それができる。
 一方、たいていの地域は、根源的に医師不足だ。そういうところで、発熱外来をつくって、新たに患者を大量に引き受ければ、通常の患者にしわ寄せが行く。あるいは、医師が過労で倒れる。
 
 だから、「発熱外来をつくって、そこでインフルエンザの患者を診る」という方針は、根源的に不可能なのだ。
 
 ──

 思い出してほしい。豚インフルエンザの患者と、季節性インフルエンザの患者は、医者に行くまでは区別がつかない。また、医者に行っても、まだわからない。たとえ検査を受けるにしても、ウイルスの遺伝子検査をするには、その設備が全然不足しているから、いつまでたってもわからない。わからなければ、季節性インフルエンザの患者も、豚インフルエンザの患者も、すべて発熱外来で診るしかない。
 では、どのくらいの患者を診るか? 季節性インフルエンザの罹患者は、通常、1500万人ぐらいになる。次の秋冬には、季節性インフルエンザが 1000万人で、豚インフルエンザが 500万人ぐらいになるかもしれない。そして、そのどちらにかかっているかは、医者に行くまでわからないし、行ってもわからない。となると、1500万人ぐらいの患者を、すべて発熱外来で診る必要がある。

 とすれば、
 「豚インフルエンザの患者を、発熱外来で診る」
 という方針は、物理的にとうてい不可能なのだ。
プレハブだろうが、テントだろうが、あるいは、医師を超過勤務させようが、それほど大量に押し寄せる患者をすべて発熱外来で診ることなど、とうてい不可能なのだ。

 木村もりよは言う。
 「感染防止体制が整っていない医療機関への受診強制は、患者を院内感染の危険にさらすようなものだ」

 こう述べて、一般病院による診療拒否を是認しているらしい。しかし、そんな理屈で受診拒否を是認するのであれば、これまでの季節性インフルエンザの患者についても、診療拒否が是認されるはずだ。さらに、季節性インフルエンザで肺炎を併発して重症化して死にそうな人についても、受診拒否が是認されるはずだ。医者が「私はインフルエンザを引きたくありません。休業で失う金が惜しいので」という程度のことで、重症で死にそうな人の命が見捨てられることになる。

 ────

 ここまでの話を整理すると、次のようになる。
 (1) 通常の医療機関で診察すれば、院内感染の危険がある。
 (2) 発熱外来で診療しようとしても、能力不足(医師不足)で不可能。
 (3) 何もしなければ、重症者が放置されて、死者多数。


 では、われわれは、どうすればいいのか? すべてを丸く収める解決案はあるのか?
 実は、ある。すべてを丸く収める解決案が。それを、次項(翌日分)で述べる。

( ※ その解決案は? 簡単に言えば、「パニックになるな」ということだ。……ここまで言えば、察しのいい人は、解決案に見当がつくだろう。)
 


 【 参考サイト 】


  → 医療現場大混乱 発熱外来はパンク状態
  → 発熱外来パンク 季節性並みの柔軟対応を
  → 発熱外来 設置準備は3分の1
    (初期のごく少数の患者を受け入れることすら困難。)
posted by 管理人 at 18:54| Comment(1) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
木村もりよは、発熱外来に関する見解を取り下げた。

 彼女の公式サイトは
http://www.kimuramoriyo.com/25-swine_influenza/
 ここにある次の記事が削除された。( 29日に確認 )
 「弱い者は犠牲になってもよいという事務連絡」
http://www.kimuramoriyo.com/25-swine_influenza/swine_flu10.html

 本項本文で言及した diamond のインタビュー記事はまだ残っているが、ともあれ、彼女の本拠地では、発熱外来に関する「診察拒否の是認」という見解を取り下げたと言える。
(ただし彼女の古いブログには、同じ記事がまだ残っている。  (^^); )
http://ameblo.jp/moriyon/entry-10256072641.html

 ※ 取り下げたわけは? 本項最後の (1) については知っていたが、
   (2)(3) については初めて知ったからだろう。
Posted by 管理人 at 2009年05月29日 19:30
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