2009年05月20日

◆ パニックと司令センター

 政府はパニック的な対処を改めることにした。では、これで、パニックは収束するか? 否。
 パニックの収束には、政府・厚労省は当てにならない。むしろ、(医療政策のための)「司令センター」を設立するべきだ。

 政府の方針変更

 政府は豚インフルエンザに対し、従来のように大騒ぎするのをやめて、季節性インフルエンザ並みの対処に改めるという。
 先の項目(病気よりもパニックの拡大)の 【 追記 】 でも、政府は方針を変更しかけているという話を紹介したが、政府はいよいよ本格的に、方針を変更するようだ。
 《 専門家、治療方針転換迫る 》
 新型インフルエンザの国内対策切り替えに向け、舛添要一厚生労働相は19日、感染症の専門家4人から意見聴取した。感染症法上の扱いを季節性インフルエンザと同じにすることや、機内検疫の即時中止など、根本的な方針転換を迫る声が相次いだ。4人は厚労相のアドバイザーの立場。
 新型インフルエンザ患者の治療にあたっている神戸大大学院の岩田健太郎教授は「軽症であれば、インフルエンザは自然に治る病気。重症度を無視して一律の医療サービスを提供するのは理にかなっていない」と、問題点を指摘。その上で「自然に治る病気に入れ込み、命にかかわる心筋梗塞(こうそく)などの治療がおざなりになるのは本末転倒だ」と訴えた。
 自治医大病院の森澤雄司・感染制御部長は「一日も早く感染症法上の『新型インフルエンザ』の類型指定から外して季節性と同じ扱いにし、行動計画を新しく作っていくことが必要」と指摘した。
( → 毎日新聞

 《 機内検疫、近く終了…国内対策に重点 》
 官房長官は19日午前の記者会見で、新型インフルエンザ対策について「国内対策に重点を移すため、水際対策を縮小しなければならない」と語った。
 メキシコ、米国、カナダからの旅客便の機内検疫についても「現時点でタイミング等を検討している段階だ」と述べ、近く終了する方針を明らかにした。
( → 毎日新聞
 方針を改めるとはいえ、即時ではないようだ。一斉休校をやめるわけでもなく、感染者の隔離も一部ではまだ続いているらしい。

 私の評価

 政府の方針変更を、どう評価するべきか? 「すばらしい」と歓迎するべきか? 私の考えを述べよう。単純に言えば、「遅すぎる」かつ「不足だ」となる。

 そもそも、専門家の意見は一致しているということだが、それだったら、もっと前に専門家の意見を聞くべきだった。
 いったい、この一週間の対処は、何だったのか? 専門家の意見を聞かないで、勝手に暴走していたのか? それとも、専門家の意見が、ここ数日でコロッと 180度転換したのか? (まさか。)

 それにも増して駄目なのは、マスコミだ。政府の後追いをするばかり。いや、政府よりも先走って、「感染者が出た!」と大騒ぎするばかり。「専門家は大したことはないと言っている」と報道したマスコミはほとんどない。(一部の専門家は騒ぐなと言っている」という形で、賛否両論の一つとして示したので、その声はほとんど掻き消された。) 

 政府もマスコミも、専門知識のないまま大騒ぎした、ということが、はっきりと示されたわけだ。
 ついでに言えば、医者の多くも、騒ぎに加担していて、「たいしたことはない」とは言わなかった。(「大変だから診察拒否は正しい!」と言う医者はいたが。) 

 政府も、マスコミも、医者も、ほとんどは専門知識のないまま、大騒ぎしていたわけだ。今になってようやく、専門家の声を聞き始めたということだが、何とまあ、豚インフルエンザの騒ぎが始まってから、1カ月近くたっている。これほどの時間がたたないと、専門家の声を聞こうとしないわけだ。
 結局、「危険が起こったら、何も対処しないよりは、何か対処した方がいい」という方針のもとで、馬鹿げた狂想曲を繰り広げたわけだ。
( ※ 「火事になったら、何もしないよりは、踊り狂った方がいい」というのと同じ。)

 とすれば、その反省をすればいいのだが、その反省もできていない。それどころか、今なお過剰対策が進行中だ、ということに気づいていない。その過剰対策は、前項「次のパンデミックの予想」で述べたとおり。「やたらとタミフルを投与する」という今の対策をさっさと改めないと、将来、大変なことになるのだが。
 一つ反省できても、二つめを反省できない。「一つ反省したから自分は利口だ」と思っている。猿並みで、度しがたいね。
 

 司令センターの提案

 では、どうすればいいか? 猿みたいな政府に人命を委ねて、運を猿に任せればいいか? いや、それでは、次のパンデミックのときには、もっとひどい状況になりそうだ。

 《 シミュレーション(予想) 》
 「パンデミックです。大変です。大騒ぎしましょう」
 と政府が述べたあとで、マスコミが大々的に不安を煽り立てる。人々はタミフルとリレンザの奪い合い。健康な人々が奪い合ったせいで、備蓄のタミフルは底を突き、肝心の重症者に行き渡らなくなる。そのせいで、死者多数。

 ──

 こういう馬鹿げたことを避けるために、次のことを提案したい。
 「司令センターを設立する。そこで専門家が状況を評価する」


 これは、今回の専門家たち4人による参考意見ではなくて、正式な司令部とする。厚労相が意見を聞くだけでなく、政府の見解としてマスコミにも見解を示す。
 ただし、ここでは、注意するべきことがある。
  • 速報性を重視する。週に1回か2回の会議では駄目。原則、24時間開催。
  • ただし、現実の会議でなく、ネットの電子会議(バーチャル会議)。(速報性のため。できれば即時、ネットで公開する。)
  • 外部の専門家からの投稿を、受け付ける。(外部の見解を掲示板みたいなところに掲載する。ただし、査読者を設置して、査読者が精選する。)
  • センターが組織として意見を統一するのは後でいい。(正しい意見は通常、最初は少数派であることに留意する。まずは、多様な意見を並置させて紹介する。)
 このような形で、司令センターを置くべきだ。司令センターは、通常、複数の見解を紹介する。(意見の統一は後回し。統一する前に、とにかく見解をいろいろと紹介する。)

 今回で言えば、次の二通りの見解がある。
  ・ 恐ろしい新型の病気かもしれないから、十日間の隔離が必要だ。
  ・ 季節性インフルエンザと同様だから、十日間の隔離は必要ない。


 このように複数の見解を紹介する。その上で、議論の変遷を公開する。今回の例で言えば、私のサイトで示したような見解を、いろいろと交わす。それがネット上で公開される。
 こうして議論が進むのを世間の人々が見れば、勘違いによるパニックは収束するはずだ。

 ──

 現実は、どうだったか? マスコミと政府が、世間に向かって恐怖を煽り立てるばかりだった。そして、その理由は、彼らが専門知識を欠いていることと、専門家の意見を聞かなかったことだ。その理由は、専門家の見解を公的にアピールする場所がなかったことだ。つまり、司令センターがなかったことだ。
 
 今回のパニックからの教訓は、「情報のコントロールが滅茶苦茶だった」ということだ。
 現代社会は、情報社会だと言われる。だが、その情報は、誤ったデタラメ情報であることもある。誤ったデタラメ情報が社会を席巻すれば、社会は大混乱になる。
 だからこそ、「情報のコントロールを正しくなすこと」が必要なのだ。ゴミ事情法ばかりをやたらと垂れ流すマスコミと政府に変わって、専門家がきちんとした情報を流すセンターが必要なのだ。── これが教訓となるだろう。そして、その教訓から、「司令センターの設立」という結論が得られる。

 司令センターが今なすべきこと

 司令センターは、今すぐ設立されるべきだし、ただちになすべきこともある。それは、次のことだ。
 「豚インフルエンザにタミフルを処方するのはやめよと、勧告すること」

 (高齢者や病人を除く。)

 その理由は、すでに前項で述べたとおり。次の二点だ。
  ・ タミフルを乱用すれば、耐性ウイルスが出現する。
  ・ 政府やマスコミは、タミフルを使用するべきだと考えている。

 
 現状では、世間は間違った方向に進んでいる。だからこそ、司令センターが出現して、正しい方向を示す必要がある。(冒頭の記事の専門家4名は、力不足だ。「タミフルの使用禁止」を打ち出していないからだ。)

 ──

 実を言うと、前項の私の方針は、WHO が示している。すなわち、「薬剤の乱用は、ウイルスが耐性を持つ危険があるので、なるべく使用しないように」と WHO が示している。(読売・朝刊・特集面 2009-05-20 )
 世界の専門家は、妥当な方針を示している。にもかかわらず、日本だけは間違った方針を取っているし、専門家も黙っている。日本だけが世界の流れに反している。
 だからこそ、司令センターが必要だし、今すぐ働き出すべきなのだ。


( ※ そのためには、司令センターの設立を、医学関係者が打ち出す必要もあるだろう。)



 [ 付記1 ]
 司令センターの設立に当たっては、最も留意すべきことは、次のことだ。
 「正しい意見は通常、最初は少数派である」

 最初は素人がパニック状態で騒いでいるのが普通だ。専門家さえも、パニック状態になりがちだ。そこでは冷静な見解は掻き消されがちだ。
 このことを理解し、その上で、少数派の意見をきちんと紹介する必要がある。最初から多数決で決めると、少数派の意見はつぶされてしまうから、結果的に、正しい意見は封殺されて、日の目を浴びなくなる。それではまずい。
 いつの時代でも、新規の見解は少数派である。それをきちんと紹介する必要がある。逆に、
 「多数派の意見が正しいのだ。少数派の意見は間違いだ!」
 というふうに「民主的」に考えると、いつまでも間違った見解から抜け出せなくなる。( ※ その典型が、トンデモマニアだ。)
 真実か否かは、多数決では決められないのだ、ということを、きちんと理解しよう。どんなに多数が認めなくても、真実は真実である。そして、その真実に気づくのは、最初は少数派だ。……こういう発想を取らないと、「司令センター」の必要性は理解できないものだ。

 [ 付記2 ]
 本項の話を書き終えたあとで知ったのだが、「司令センター」に相当するものは、すでに欧州や米国にあるという。「欧州疾病対策センター(ECDC)」および「米疾病対策センター(CDC)」である。
  → http://www.ecdc.europa.eu/
  → http://www.cdc.gov/h1n1flu/
 後者は、今回の豚インフルエンザでも、指針を示しているという。読売の記事にいろいろと紹介がある。(読売・朝刊・特集 )
 なかでも、次のことが大事だろう。
 新型インフルエンザ感染者が出た学校の閉鎖を「推奨しない」とし、発熱や咳などの症状がある生徒や教職員らを、発症後7日間、寮や自宅などに待機させるべきだとしている。
 学校閉鎖は必要ない。全員を足止めするのでなく、発症者だけを足止めすればいい。……これがまともな対応というものだ。(普通の季節性インフルエンザの場合とほぼ同様。)
 欧米には、まともな組織ができている。「欧州疾病対策センター」も「米疾病対策センター(CDC)」も、すでにできている。いちいち私が言うまでもなく、彼らはちゃんとやっている。
 なのに日本だけは、やっていない。だから、私が「司令センターを作れ」と提言したとも言える。── そして、その司令センターの名前も、すでに予想がつくわけだ。「日本疾病対策センター(JDC)」だ。

( ※ なお、「日本疾病予防協会」というものはあるが、これは、医療の派遣業者だった。  (^^); )

 [ 付記3 ]
 欧米には司令センターがあるのに、日本にはない。……このことが、日本でだけパニックふうの大騒動が起こった理由かもしれない。日本では政府もマスコミも、正しい情報を知らないまま、右往左往するだけだった。
 欧米では、そうではなかった。正しい情報があったから、右往左往しなかった。
 また、現時点でも、「豚インフルエンザに薬剤を乱用するか否か」で、日本と世界(欧米)とでは異なった方針を取っている。この違いも、同じところが理由なのかもしれない。

 [ 付記4 ]
 本日(20日)になると、マスコミにもいくらか、まともな意見が掲載されるようになってきた。
 上記の読売の紹介も、なかなか有益だ。欧米の事情は、私は初めて知った。
 また、zakzak も、私の見解に近いことを言い出している。
   → 新型インフル対策は間違いだらけ?
 ただ一つ遅れているのが、朝日新聞ですね。朝日が zakzak よりも煽動的なイエロージャーナリズムだとはね。呆れた。

( ※ 朝日は先日の記事でも、「大阪で新型インフルエンザが蔓延したのは、保健所がきちんと検査しなかったからだ」と保健所のせいにしていた。検査対象が多数過ぎて、保健所がフル稼働で、超多忙で勤務している、ということさえ知らない。無知を蔓延させる病原菌。それが朝日。)

 [ 付記5 ]
 このインフルエンザは、最初の発生地のメキシコでは、すでに収束しているという。
 メキシコ保健省の発表では、新型インフルの発生が確認された4月23日以降に発症した例は6例のみで、死者も5月13日が最後だ。メキシコ紙によると、首都メキシコ市の国際空港では一時は20人いた常駐の医師を2人に減らし、利用客の体温を測る感知装置の常時運用も取りやめた。
( → 朝日新聞
 インフルエンザというものは、季節の温暖化とともに自然に収束していく、ということだ。人間が何をしても、何をしなくても、大差なく事態は推移する。
posted by 管理人 at 19:15| Comment(1) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
挙げられている専門家の一人岩田氏の著書によると、日本には感染症の専門医がほとんどいないので特に風邪、インフルエンザについて正しい知識を持っている医者がほとんどいないとのこと。
また、驚くことに医師の研修では入院患者の対応は学ぶが、外来の研修は全くないそうです。
Posted by sugichan at 2009年05月21日 09:23
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ