2009年05月19日

◆ 次のパンデミックの予想

 豚インフルエンザばかりが話題になっているが、鳥インフルエンザ由来のパンデミックはどうか? こちらにこそ、警戒するべきなのだが。 ──

 豚インフルエンザばかりが話題になっている。だが、豚インフルエンザ(メキシコ風邪)は、弱毒性であるし、タミフルとリレンザが効く。とすれば、ありふれた季節性インフルエンザよりは被害は少なくて済むだろう。
 最初は慣れていない分、感染者は増えがちだろうし、病状も重くなりがちだろう(下痢など)。とはいえ、あくまで弱毒性だから、致命的になることはあるまい。致命的になるとしたら、体力のない高齢者や幼児が肺炎を併発した場合などだが、その点、タミフルとリレンザが効く分、季節性インフルエンザよりもはるかに安全だ。
 病状は別として、生命に関する限りは、豚インフルエンザは恐れることはない。季節性インフルエンザよりも軽い病気だと見なしていい。

 ──

 問題は、鳥インフルエンザ由来のパンデミックだ。本来警戒するべきはこちらだ。これは将来、どうなるか? 予測してみよう。(この話題は、話の取っかかり。このこと自体が主題なのではない。)

 (1)

 鳥インフルエンザは、呼吸器だけでなく、肺や全身にウイルスが回るので、危険性は高い。致死的になる率は、季節性インフルエンザや豚インフルエンザよりもずっと高い。

 (2)

 だが、そもそも、鳥インフルエンザは人間に感染しにくい。呼吸器だけでなく肺や全身にウイルスが回るということは、それだけ感染しにくいということでもある。( → 参考ページ別URL ) )
 つまり、「広く浅い」タイプの従来型インフルエンザに比べて、「狭く深い」タイプが鳥インフルエンザだ。
 したがって、「広く深い」というタイプのパンデミックを鳥インフルエンザに予想するのは、原理的にはおかしい、ということになる。だから、それをあまりにも深刻に予想するのは、かなり馬鹿げたことだ。ありもしないタイプの病気を、「来るぞ、来るぞ」と恐れるようなものだ。(オオカミ少年)
 つまり、鳥インフルエンザ自体は、「ペストみたいなパンデミックだ」と大騒ぎするほどのことはない。
 ただし、それで話が済むわけでもない。その先がある。

 (3)

 鳥インフルエンザがペストのように流行することはなくても、ある程度の流行が起こる可能性は否定はできない。特に初期は、注意が必要だろう。世界中にひろがる可能性はないにしても、数万人〜数十万人規模の感染者が出ることは予想の範囲内となる。(その後は衰弱するとしても、とにかく最初はいくらか感染範囲が出ることはある。)
 そのために、当初は、念入りに対策することが必要だ。そして、そういう対処を取れば、あまりおそれることはあるまい。
 実際、過去にも、鳥インフルエンザが出現したことはあったが、鳥の大量焼却によって人間への感染を防ぐことができた。そういう措置が初期には必要だ。

 (4)

 鳥インフルエンザ自体はともかく、別の形はどうか? 
 人間への感染力が弱い鳥インフルエンザが、豚の体内で混合して、人に感染するタイプに変化することが考えられる。今回の豚インフルエンザもそうだ。
 ただ、今回の例からもわかるように、本来の鳥インフルエンザである H5型,H7型のまま変化するのではなく、H1型,H2型のなかに、部分的に鳥インフルエンザの遺伝子が部分的に組み込まれるだけだ。
 その場合も、単に他の遺伝子が組み込まれただけなら、大騒ぎするほどのことではない。弱毒型(呼吸器に感染するタイプ)のままであるからだ。

 (5)

 問題があるとしたら、弱毒型であるH1型,H2型が、特別な危険因子をもつように変化が起こることだ。例は、スペイン風邪だ。H1型、H2型のまま、特別な危険因子をもつように変化が起こったらしい。そう強く推定されている。
 ( → 参考1参考2参考3

 (6)

 こうして、本来恐れるべきものがわかった。それは、「弱毒型であるH1型,H2型のまま、特別な危険因子をもつようになった」強毒型になった)というものだ。では、それは、どうすれば抑制できるか? これが問題だ。
 この件について、箇条書きでまとめよう。

 第1に、そのようなウイルスの発生は、自然界における現象であり、どうにもならない。ウイルスの発生そのものは、人間のコントロール下にない。
 第2に、そのようなウイルスに対抗する薬剤は、人間のコントロール下にある。また、そのための薬剤は、すでに開発されている。タミフルとリレンザだ。いずれも、有効であることが判明している。(H1,H2,H5,H7のいずれにも有効。)
 第3に、人間の開発した薬剤に対して、ウイルスは進化して薬剤耐性を持つことがある。人間よりもウイルスが一枚上手だ。とすれば、人間がで今なすべきことは、薬剤耐性を持つウイルスの出現を阻止することだ。
 第4に、薬剤耐性を持つウイルスの出現を阻止するには、薬剤をやたらと乱用しないことが必要だ。具体的に言えば、次の通り。
 まず、季節性インフルエンザにはタミフルを乱用するべきではなかった。(ただし、今さら手遅れである。)
 次に、豚インフルエンザにもタミフルを乱用するべきではない。(これはまだ手遅れでない。)
 こうして、「薬剤を乱用するべきではない」という結論が得られる。
 第5に、そのことを理解しないと、どうなるか? 将来、薬剤耐性をもつウイルスが流行するだろう。(すでにソ連風邪はそうなっている。)そして、そのように薬剤耐性をもつウイルスが、H1,H2型のまま、危険因子を持つ可能性がある。そうなった場合、人類にはなすすべがない。(他の新薬が生産されない限りは。)
 
 ──

 こうして、人類のなすべきことと、実際に起こることとが、予想された。
 人類のなすべきことは、薬剤の乱用をやめることだ。そのことで、耐性ウイルスの出現を抑止する。
 実際に起こることは、薬剤の乱用だ。そのことで、耐性ウイルスが出現する。そのうちの一部は、いつか危険因子を備えるようになって、スペイン風邪のようなパンデミックになるかもしれない。その危険性がある。

 ──

 つまり、人類は、あえて自殺行為をしようとしているわけだ。小さな危険を避けよう、避けよう、と努力することで、かえって大きな危険に正面衝突してしまうわけだ。
 下図参照。小さな  を避けようとして道をずらすと、その結果、かえって大きな  ●  に正面衝突する。

      ♀ ──→   
            └→  ●


 その意味は何か? 小さな危険を過大視しすぎて、視野が狭くなりすぎた、ということだ。視野が狭くなりすぎて、物事を広く見渡すことができなくなる。……これがつまり、パニック症状だ。
 豚インフルエンザを見て、「大変だ、大変だ」と大騒ぎすることは、(タミフルの乱用を通じて)、かえって将来のパンデミックを引き寄せる。
 逆に、豚インフルエンザを見て、「大したことはないな」と思って平然としていれば、(タミフルの乱用を抑止して)、将来のパンデミックを阻止する。

 人類はなすべきことを、根本的に勘違いしている。
 そしてまた、医者も、そのことを理解していない。目先の患者を救う臨床医学や、個々の病気について原理を解明する基礎医学については、医者は詳しい。しかし、「病気の蔓延を防ぐにはどうすればいいか」という社会医療政策(厚生政策)については、医者はまったく発想が抜けている。
 大切なことは、医学的な知識ではない。もっと別なことだ。そして、それを理解するには、「大騒ぎしてはならない」という根本的な態度をわきまえておく必要がある。

 人類にとって最も危険なのは、ウイルスの蔓延ではなく、恐怖の蔓延なのだ。ウイルスという毒が体に回るのよりも危険なのは、恐怖という毒が脳に回ることだ。それこそが人類を破滅させかねない。
 だが、そのことを理解している人は、あまりにも少ない。特に、医者がまったく理解できていないし、医者はむしろ我先に恐怖に駆られている。(だから診察拒否をしたりする。)
 人類はまさしく、大きな危険に正面衝突する道をたどりつつある。
 


 [ 付記1 ]
 本項で述べたことは、重要である。というのは、「危険に正面衝突する」という道を、現在は取りつつあるからだ。比喩をはずせば、こうだ。
 「豚インフルエンザの患者には、タミフルを処方して、自宅静養させる」

 この方針が現在、取られつつある。医学関係者はそう主張しているし、厚労省もまたそう主張している。
 当初、政府は「隔離」「強制入院」という方針を取った。だが、ここ数日、インフルエンザの蔓延を受けて、「通院治療」ないし「自宅静養」という方針を取るようになった。ただし、その際、タミフルを処方することになりそうだ。(医者が何もしないのでは具合が悪いからだろう。それでは治療も金儲けもできないからだ。)
 だが、このようにタミフルを乱用すれば、豚インフルエンザもまた薬剤耐性を持つようになる。たぶん、2年ぐらいで。いつか来た道。

 [ 付記2 ]
 本項で述べた問題は、医療政策としては当然の発想だ。しかしながら、医者はこの問題を理解できない。なぜか? ここでは、次のことが成立するからだ。
 「目の前にいる軽症の患者を治療しないことが、社会全体の重症患者の生命を救う」

 少数の小さな病気を治療しないことで、大多数の大きな生命を救える。そういう原理がある。しかし医者は常に、目先の一人を治療しようとする。目の前にいる一人を見捨てるという発想はない。(普通の治療行為では、トリアージのような原理は取られない。)
 だから、医者の発想を取るだけでは、社会的な問題は解決できないのだ。マクロの問題を解決するには、ミクロの発想だけでは駄目なのだ。

 [ 付記3 ]
 この問題(トリアージふうに重要性を付けることの必要性)を直感的に理解してもらうために、比喩的に説明しよう。「弾切れ」という概念を用いる。
 弾(特効薬)は、1発しかない。1発使えば、弾切れになる。その1発を有効に利用することが大事だ。
 太郎に猫が近づいた。太郎は恐れて、1発発射して、猫を仕留めた。そこへ、熊が押し寄せた。太郎は弾切れなので、熊に殺されてしまった。
 花子に猫が近づいた。しかし花子は、熊が近づいてくるのに気づいた。猫が花子に飛びかかって、花子を爪で引っ掻いたが、花子は気にしなかった。命には関係ないからだ。その後、熊が押し寄せたとき、1発発射して、熊を仕留めた。
 小心者の太郎は、弾切れで死んだが、度胸のある花子は、弾を有効利用した。
 そのあと、人々は結果を知って、不思議がった。「腕力のある太郎が死んで、腕力のない花子が生き残ったのは、どうしてだろう? 腕力でなければ、何が生死を分けたのだろう? 不思議だ、不思議だ」と。
 
 その答えは? 花子には、真の危険を見抜くだけの、度胸があったということだ。一方、臆病者の太郎には、それがなかった。だから太郎は、パニック状態になったあげく、自分を救うすべを、自分で捨ててしまったのだ。

( ※ この比喩の具体的な例は、二つある。一つは「耐性」のせいで弾切れになること。もう一つは、「備蓄」が底を突いて弾切れになること。すぐ下でも述べる。)

 [ 付記4 ]
 乱用の問題のほかに、備蓄の問題もある。
 豚インフルエンザが危険だからといって、タミフルをやたらと処方していれば、備蓄が底を突く。現在、3700万人分があるそうだが、「豚インフルエンザにかかったらタミフルを使え」という方針でどんどん乱用していれば、やがて冬季の流行期には、在庫も備蓄も食い尽くして、倉庫は空っぽになる。
 そして、そのあとで、パンデミックが来るかもしれない。最悪。……そういう危険性があるのだ。
 この件は、前にも述べた。
  → 豚インフルエンザ4 (耐性化の問題)
  → 豚インフルエンザの流行後の対策

 [ 付記5 ]
 政府は現在、タミフルの備蓄を増やそうとして、製薬会社に「早く寄越せ」と要求しているそうだ。呆れた。やることが正反対だろう。
 (1) 需要が逼迫しているときには、備蓄を増やす必要はない。世界各国で必要としている人の分を奪うことになる。人の生命よりも備蓄を優先する、という役人根性。おまけに、価格が上がっているときに買えば、損する。
 (2) 備蓄があるなら、備蓄を吐き出すべきだ。というのは、備蓄は古くなると廃棄するしかないからだ。だから、世界でタミフルが不足しているときには、備蓄を安価で中古販売した方がいい。かわりに、新薬を購入すればいい。(ただし、あとで。)
 (3) 現時点では、タミフルはまだ大量購入の必要はない。これから夏になるからだ。また、タミフルは、豚インフルエンザには有効だが、季節性インフルエンザには有効でないから、あまり購入する必要はない。下手をすると、豚インフルエンザに耐性ができたせいで、タミフルの備蓄はすべてゴミになりかねない。
 (4) むしろ、リレンザの備蓄を増やすべきだ。理由は、下記。

 [ 付記6 ]
 タミフルよりは、リレンザの方が、耐性ができにくいらしい。その理由は? リレンザは、飲み薬でなく、局所的に使う。そのせいで、薬剤濃度が濃くなり、ウイルスを撲滅しやすいので、耐性ウイルスができにくいらしい
 だから、政府が備蓄をするならば、将来の耐性ウイルス発生を考えて、タミフルよりはリレンザにする方がいいだろう。
 また、服用する個人としても、タミフルよりはリレンザを服用する方がいいだろう。(本人にとっては副作用の危険が少ないし、効果も高い。社会にとっては、耐性ウイルス発生の危険が少ない。)



 【 関連項目 】

 本項は、次の諸項目を引き継いでいます。そちらも読んでおいてください。

 → 豚インフルエンザ3耐性ウイルスの抑止
  ( 薬剤乱用は、耐性ウイルスを出現させ、パンデミック対策に有害 )

 → パンデミック対策と免疫力
  ( パンデミック流行前に、豚インフルエンザで免疫力がつく意義 )

 → [ 補足 ] 黄金週間の一斉休診
  (目先の患者を治療するのでなく、マクロの視点の必要性 )

 → 豚インフルエンザのワクチンパニックの戒め
  ( 重要性の順序を考えるという、トリアージの発想の必要性 )
posted by 管理人 at 19:56| Comment(0) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
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