2008年11月25日

◆ 省エネの夢と現実

 「省エネをせよ」と語る人は多い。しかし夢と現実を区別するべきだ。夢ばかりを語っても、現実に省エネができるわけではない。むしろ、夢を語れば語るほど、現実の省エネは遅れる。 ──

 「省エネをせよ」と語る人は多い。特に、省エネの夢を。現実にはできない未来の夢を。その典型が朝日新聞だ。社説を引用しよう。
 《 不況と温暖化―「緑の内需」の出番だ 》
 オバマ次期大統領は新たな発想で不況に挑もうとしている。 道路やダムをつくる従来型の公共事業ではなく、脱温暖化ビジネスを広げていくことで環境と経済の危機を同時に克服する、というのである。オバマ氏の政策は「グリーン・ニューディール」とも呼ばれる。
  米国にとどまらず、世界各国がグリーン・ニューディールを実践するべき時代に入った、といえる。
 たとえば、自動車メーカーは、電気自動車や水素を使う燃料電池車を市場に送り出しつつある。ただし、これら次世代車を普及させるには、充電施設や水素スタンドといった社会的な条件整備が欠かせない。
「チェンジ」が早ければ早いほど、少ない投資で大きな効果が期待できる。政府はその先頭に立たねばならない。
( → 朝日深部・社説 2008-11-25 )
 もっともらしい話に聞こえるが、ただの「ホラ話」である。文系に特有のことだが、「夢と現実を混同している」のである。技術的な実現可能性を無視している。

 ──

 ここでは根本的な錯誤がある。朝日は、「政府は金を出せ」と主張する。なぜなら、
 「金さえかければ夢が実現する」
 と思い込んでいるからだ。朝日は、
 「技術に必要なのは、金よりも知恵だ」

 ということが全然わかっていない。たとえば、太陽電池や燃料電池なら、それらを普及させるには、
 「新たな技術開発が必要だ」

 というのが現実だ。なのに、それを無視して、
 「政府は巨額の金を出せ。そうすれば、量産効果で、太陽電池や燃料電池が普及する」
 と思い込んでいる。狂気の沙汰だ。

 たとえば、自動車とかケータイとかを生産している会社があるとする。その会社の技術者が会社から、「大幅にコストダウンせよ。コストを半分以下にせよ」と命じられたとする。そのとき、どう答えるか?
 「量産してください。量産すればコストダウンします」
 と答えるか? それとも、
 「まったく新たな技術開発に取り組みます」
 と答えるか? 
 言わずもがなだ。しかるに、朝日は、「大幅にコストダウンするためには、大量生産すればいい」という方針を取る。馬鹿げている。
( ※ 「大量生産でコストダウン」ということしか学んでいないのだろう。哀れ。小学校で勉強をやり直すべき。)

 ──

 太陽電池や燃料電池には、もう何十年もの研究開発の歴史がある。それでも大規模な普及には至っていない。太陽電池は補助金で、小規模の普及が進んでいるだけだ。燃料電池はまだ実験室段階だ。……ここで補助金を出しても、ほとんど効果はない。できもしないことのために金を払っても、不可能が可能になるわけではない。不可能を可能にするのは、新技術であって、金ではないのだ。
 簡単に言えば、新技術の開発は、実験室の問題であり、大量生産の問題は、工場の問題である。実験室に金をかけるべきときに、旧技術の工場(の大量生産)に金をかけても、何にもならない。
 結局、「良いことをしよう」という善意だけで金をかけても、金をかける場所を間違えれば、金をドブに捨てるだけなのだ。

 ──
 
 では、どうすればいいか? 金をかける場所を間違えなければいい。その方針は、二つ。
 (1) 未熟な技術ならば、工場よりも実験室に金をかける。
 (2) ほぼ完成した技術ならば、工場にも金をかける。


 具体的には、次のことだ。
 (1) 太陽電池や燃料電池は、未熟な技術なので、普及のために補助金を出すよりも、開発する実験室に金を出す。
 (2) ハイブリッドやコジェネは、ほぼ完成した技術なので、普及のために補助金を出す。


 要するに、省エネ技術の(開発でなく)普及のために補助金を出すなら、(未熟な)太陽電池や燃料電池のための基盤整備なんかよりも、(ほぼ完成した)ハイブリッドやコジェネのために出す方がいい。
 ハイブリッドは、今や「売れて売れて仕方ない」という状態だし、特に補助金を出す必要があるとは思えない。それでも、もっと普及させたいのであれば、補助金を出してもいいだろう。(といっても、国が金を出す必要はない。その分、非ハイブリッド車を増税することで、資金をまかなう。)

 ただし、本当を言えば、ハイブリッドにする必要もない。いちいちハイブリッドにしなくても、マツダのデミオみたいに省燃費の車にすれば、ハイブリッドの半分以上の省エネ効果がある。
 要するに、ハイブリッドでなくてもいいのだ。ただのガソリン車であってもいいのだ。大事なのは、省エネ自体であって、ハイブリッドや燃料電池という方法ではないのだ。結果さえ出れば、方法はどうでもいいのだ。
( ※ これを理解できない連中が、ガソリンをやたらと食う大型のハイブリッド車を推奨して、ガソリンをあまり食わないリッターカーを冷遇する。)

 ──

 技術音痴の人間ほど、新技術を過度に信奉するものだ。「すごい新技術を使えば、世の中がバラ色になる」と思い込んでいる。
 違う。世の中を変えるのは、画期的な夢のような技術ではなくて、現実に可能な「少し進んだ技術」である。

 例示的に言おう。
 コンピュータの黎明期に「エニアック」というコンピュータが登場したが、これを同じものを補助金で世界に普及させても、世界は何も変わらなかっただろう。しかし、PC9801 や アップルII は、世界を少し変えた。その後、Windows95 以降では、世界を劇的に変えた。世界を変えるものは、実験レベルの新技術ではなくて、安価な製品の大量普及なのである。
 デジカメもそうだ。当初のデジカメは、色が大幅に薄くて、色の薄いパステル画か水彩画みたいなみたいな写真しか撮れなかった。それを補助金で世界に普及させれば、世界は変わったか? いや、何も変わらなかっただろう。しかし、20年ぐらいたつうちに、画質は大幅に向上し、価格は大幅に低下した。そして、それをもたらしたのは、大量生産技術ではなくて、半導体の新技術だったのだ。補助金が新技術をもたらしたのではなくて、研究者の知恵が新技術をもたらしたのだ。

 ──

 金ばかりを重視して、知恵を重視しない態度。── こういう態度からは、何も生まれない。単なる浪費が生まれるだけだ。
 朝日のような「金で新技術」という態度は、「金の浪費」をもたらすだけで、結局は、人々の金を奪うだけの意味しかない。それは、
 「金を出してください。幸せになりますよ」
 と告げて、金を奪って、人々を不幸にするだけだから、「詐欺」と同じなのだ。
 こういうペテン師の言葉に引っかかってはならない。

 詐欺師は夢を語って、人々の金を奪う。




 [ 付記 ]
 「じゃ、どうすりゃいいのさ」
 という質問には、こう答える。
 「夢ばかり語らず、地道な努力をせよ」
 と。つまり、次の二通り。
  ・ メーカーならば、補助金に頼らず、技術開発をする。
  ・ 消費者ならば、補助金で夢の新製品なんかを買わず、地道に省エネする。


 消費者の努力については、本日別項を参照。
  → 正しい資源節約の方法
posted by 管理人 at 17:39| Comment(2) | エネルギー・環境1 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
太陽電池には耐久性の壁があり、燃料電池には水素燃料製造コストに克服不可能な壁があり、核融合発電に至っては「夢見る夢子チャン」の技術だと思います。
Posted by スパイラルドラゴン at 2008年11月26日 19:04
朝日云々はともかくとして、趣旨には100%同意します。

特に、燃料電池にはまったく未来がなさそう。

ヒートポンプの実効COPが3を越えた時点で定置型はもう完全に勝負ありだし、陸上運輸だってFCEVより電気自動車や鉄道のほうがずっと。
Posted by 深海 誠 at 2008年11月26日 23:33
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