国は、莫大な金を投入して、あえて炭酸ガスを莫大に排出させている!
サロベツ原野で、湿原の荒廃が進んでいる。そのせいで炭酸ガスの排出が増えている。理由は? 湿原を農地に変える 農業政策。そのためのコストは莫大。 ──
これは朝日(夕刊・2面 2008-10-20 )の記事から。以下、要旨。(転載ふう)
サロベツ原野では 60年代以降、湿原の面積は半分以下になった。湿原を農地に変えるため、排水路と放水路が無数に大規模な整備されてきたからだ。そのせいで(目標どおりに)湿原は乾燥化していった。
ここは泥炭という地層でできている。本来なら水で湿っているので、微生物により炭酸ガスが吸収されて泥炭になる。ところが乾燥化が進むと、微生物による炭酸ガス吸収効果がなくなる。それどころか、逆に、すでにある泥炭が分解されるせいで、炭酸ガスはどんどん空中に放出されていく。
なお、世界各地で同様に泥炭地から排出される炭酸ガスの量は年に30億トン以上で、これは化石燃料を燃やして発生する量の1割分になる。
《 従来 》 《 現在 》
CO2 ○○○○○○ ○○○○○○
↓↓↓(吸収) ↑↑↑(放出)
■■■■■■ ■■■■■■
湿地 乾燥地
湿地が乾燥化すると、炭酸ガスは「吸収」から「放出」に転じる。
──
ただ、話は、もっとある。
上記の記事は、問題点をうまく指摘しているようでいて、指摘しそこねている。
「湿地の乾燥化を阻止しよう。そうすれば、湿地で新たに炭酸ガスを吸収できる」
というのが記事の趣旨だ。(図の左側における炭酸ガス吸収効果に着目している。)
しかし、これでは、ピンボケだ。図の左側をなすよりも、図の右側をやめることの方が大事だ。
われわれは、何か良いことをなそうとするよりも、馬鹿げたことをやめることの方が、大事だ。
自分は善人だと思って、善行をするよりも、自分は馬鹿だと反省して、愚行をやめることの方が、大事だ。
なぜなら、善行を新たに始めるには大金がかかるが、愚行をやめるには一円もかからないからだ。それどころか、金が戻ってくるからだ。(正確には将来の出費を止めることができる。過去の赤字は減らせなくても、未来の赤字は減らせる。)
湿原の乾燥化(農地拡大)ということのためには、莫大な金が投じられている。こういう馬鹿げたことをやめることが大切なのだ。そして、そのために、大金をかける農業政策の愚かさを悟ることが大切だ。
上記の記事は、この大切なことを指摘していない。それどころか、新たに図の左側のことを始めようとして、大金を要求している。
しかし、そのようなことは、「湿原を壊すために金をかけて、湿原を回復するために金をかける」ということだ。
とにかく、「環境改善」に金をかけるよりは、「環境破壊」をやめる(無駄金をかけるのをやめる)方がいい。
──
さて。上記が結論だ。しかし、問題がある。
なぜ、現状ではその逆なのか? なぜ、現状では「環境破壊」が進むか? なぜわざわざ金をかけてまで、環境を破壊しようとするのか? その原理は明らかだ。
「社会に損失をもたらしても、自分さえ利益を得れば、それでいい」
つまり、現在の方針を取ることにより、農水省と土木業者は大喜びだ。「穴を掘って埋める」というような馬鹿げたことをすれば、金が無駄に消えていくが、そうすればそうするほど、連中は大喜びをするわけだ。
これが現状の原理だ。
[ 付記1 ]
「社会に損失をもたらしても、自分さえ利益を得れば、それでいい」
という上記の原理は、よくあることだ。別に、ここに限ったことではない。世間では広く見られる。
その典型が、金融工学だ。金融工学をやる連中は、社会を破壊して、自分だけがボロ儲けした。
より正確に言えば、連中は、人々をだましてボロ儲けしたあとで、その尻ぬぐいの形で、社会に莫大な損失をもたらした。それが現在の経済状況だ。
( → 詳しくは nandoブログ「金融工学の意味」)
[ 付記2 ]
こういう身勝手が横行する理由の一つとして、人々の愚かさがある。たとえば、レジ袋の有料化(削減)という方針だ。
人々はレジ袋の有料化(削減)をめざす。それで石油使用量ないし化石燃料の使用量を削減したいらしい。
しかし、データを見ると、日本では、レジ袋の石油使用量は石油使用量の全体の 0.15%程度。他の化石燃料も考慮すれば 0.1%程度。
一方で、人類の放出する化石燃料由来の炭酸ガスは 10%だから、これは 0.1%の百倍だ。レジ袋による炭酸ガス増加の百倍の効果を、上記の乾燥化という現象が単独で発生している。(世界中で。)
としたら、この方(百倍の炭酸ガス増加をもたらす方)に着目する方が、ずっと大切だ。しかしながら、人々はそうしない。発想が「頭隠して尻隠さず」。論理に穴があいて、底抜け。
( ※ そもそも、レジ袋を廃止してもゴミ袋が増えるから、レジ袋の使用停止は石油使用量をかえって増やす。だから、レジ袋というのは、もともと比較にはならないが。 (^^); )
[ 付記3 ]
とにかく、現代の人々は、方針を根本的に間違えているようだ。炭酸ガスの吸収の方法や、省エネの方法などを、莫大なコストで実行しようとしているが、そんなことに莫大なコストをかけるよりも、莫大な金をかけて炭酸ガスを増加しているのを、やめるだけでいい。
われわれは「善意をもって行動しよう」などと思うべきではない。善人ぶるよりも、おのれの愚かさに気づく方がいい。「世界の環境保護のために、あれこれと運動しよう」とするよりも、むしろ、自分たちの罪深さを理解するべきだ。
環境保護運動家の方針は、こうだ。
「自分は善人だから、善行をしよう」
「自分のなす善行に、他人も従属させよう」
「自分と同じ善行をしない人々に、罰を科そう」
こういう方針を取るべきではない。そういう連中は、レジ袋を節約するために、かえって無駄なことをしている。
・ レジ袋を節約しながら、自動車でガソリンを莫大に浪費する。
・ 高額のエコバックを買う。
・ IH 調理器や全館エアコンなどを使って、大量に電気浪費する。
では、なぜ、そうするのか? 彼らは、自分がいかに善行をしているかだけを見て、自分がいかに悪をしているかを理解しないからだ。
・ 「レクサス・ハイブリッドで、燃費が3割向上しました」
・ 「ベンツ・ディーゼルで、燃費が2割向上しました」
こういうふうに吹聴しながら、重たいレクサスやベンツに乗って、軽自動車よりもずっと石油を消費する。石油を消費すればするほど、自分が石油を節約しているつもりになる。
「レクサスハイブリッドで3割も省エネをしたぞ。もっと省エネをするために、どんどんドライブしよう!」
こういう馬鹿げた発想をするのも、自分が善行をしているつもりになって、自分が悪をなしていることに気づかないからだ。
結局、環境保護に夢中になっている連中こそ、最も環境に悪いのである。
人々は、むしろ、自らの悪に気づくべきだ。そして、それは、「省エネ」という発想よりも、「自然破壊」という視点から理解できる。
サロベツでも、「そこでいかに炭酸ガスを吸収できるか」を考えるよりも「そこでいかに炭酸ガス排出をしているか」を考えるべきなのだ。
そして、このような発想をするために大切なのは、数値の上の節約効果なんかではなくて、「現実に地球の環境がどれほど損なわれているか」に着目することなのだ。
サロベツ原野を見たら、そこで吸収・放出される炭酸ガスの量を計算するよりも、まずは、その美しい自然を見ながら、その美しい自然が損なわれつつあることを自覚するべきなのだ。頭で数字を読むよりも、心で自然の美を感じ取るべきなのだ。
そして、それができない朝日のような連中が多いと、数字を記した記事ばかりを出すことで、世界はますます状況が悪化していく。
( cf. 東京電力の太陽光発電のために、国が半額を補助金で援助するという。 → 読売新聞 )
( ※ この太陽光発電の補助金の件は「泉の波立ち」2008-10-22 でも言及している。)
【 関連項目 】
本項の結論と似た趣旨で、
「炭酸ガスよりも生態系の維持が大切だ」
ということを、前にも述べた。
→ Open ブログ 「生態系の維持」
【 関連サイト 】
(1) 画像
サロベツの写真は、ネットで検索すれば簡単にわかる。例によって、画像は livedoor がお勧め。
( → livedoor 画像検索 )
(2) 文字情報
サロベツの湿原破壊については、次のサイトが詳しい。
→ サロベツ自然再生事業 (環境省)
ただ、情報が多すぎて、読むのが大変だ。
それでも、ひとおおり読んだが、対して有益な情報はない。政府の情報であるせいかも。 (^^);
どちらかと言えば、朝日の記事だけ読む方が、必要な精選された情報を得られる。……やはり、情報に金を払わないと、まともな情報を得られないようだ。
2008年10月21日
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