2008年08月28日

◆ 洋上のエコ発電所

 洋上エコ発電(洋上で行なう太陽光発電と風力発電) というアイデアが報道されている。原発よりも大幅にコスト安だ、という触れ込み。しかしこれは正しくない。 ──

 この記事は読売(夕刊 2008-08-27 )で報道されたもの。一部引用しよう。
  太陽電池と風車を組み合わせた長さ約2キロ、幅約800メートルの巨大な発電装置を海に浮かべ、低コストで大きな電力を得る「新型エコ発電所」の開発を太田俊昭・九州大名誉教授らのチームが進めている。
 システムの発電能力は約30万キロ・ワット、三つで原子力発電所1基分になる。建設コストは1キロ・ワットあたり7〜14万円で、一般的な原子力発電所の同約20万円より安く、運転コストも修理や人件費のみ。
( → 読売のサイト
 これが本当なら、すばらしいことだ。原発よりもずっと安価で、ずっとクリーン。現在のあらゆる発電方法をはるかに上回る、夢の発電である。ノーベル賞級だろう。
 しかしこれは、まったく正しくない。

 ──

 まず、そもそもこれは、ニュースというようなものではない。基本部分は、ずっと前から研究されて、これまで何度も報道されてきたことだ。
  → 既報1既報2 (いずれも 2006年11月)
 さらに言えば、これはちょっと毛色を変えて、今年になって改めて報道されるようになった。その時期は、7月のサミット中のことである。(読売の記事はその二番煎じ。)
 さらに言えば、これらはいずれも、社民党の大々的な公約になっている。
  → 社民党 その1社民党 その2
 読売は、社民党の受け売りでもしたんですかね? 社民党のシンパ?  (^^);

 なお、2006年の記事は「風力発電」で、2007年の記事は「風力発電と太陽光発電(のハイブリッド)」というふうになっている。そういう若干の違いはある。

 ──

 さて。読売の記事はどこが正しくないか? それを示そう。
 社民党 その1によれば、次のようになる。
 「100万キロワット級洋上風力発電の初期建設コストは1キロワット当たり7〜12万円と格安で、」

 ここで注意。主語は「風力発電」である。社民党の記事によると、新開発の特別な風車を使うことで、そのような低コストで耐久性のある風車ができるはずだ、という。
 ただし、これは本当かどうかは、実証されていない。現在の風力発電の風車は、いずれも壊れやすい。台風で破損してしまう例が、引きも切らない。今回の風力発電は、頑丈にできているようだが、まだ実証されていないので、あやふやだ。
 とはいえ、それでも、ここでは額面どおりになる、と仮定して受け入れておこう。(あやふやだとしても、全否定する根拠があるわけでもないので。)

 問題は、主語だ。なるほど、風力発電ならば、そのようなローコストの発電も可能かもしれない。
 しかし、読売の記事では、「太陽電池と風力発電」となっている。これは「風力発電だけ」とは異なる。

 そもそも、太陽電池による発電で、そんなにローコストの発電が可能だろうか? まさか。
 先日の項目を見てほしい。( → 該当項目
 ここには、次のことが記してある。
 「太陽電池の値段は、平方メートルあたりで、8万円(シリコン多結晶タイプ)か、20万円(シリコン単結晶タイプ)」
 「太陽電池の発電量は、平方メートルあたりで、150w (0.15キロワット)」

 したがって、計算により、次のことが結論される。
 「太陽電池の発電コストは、1キロワットあたりで、50万円(シリコン多結晶タイプ)程度か、120万円(シリコン単結晶タイプ)程度」

 1キロワットあたりで、50万円か 120万円だ。ところが、記事にある数字は、7万円〜14万円である。つまり、1桁少ない。
 とすれば、記事の趣旨は、成立するはずがない。太陽電池だけでも 50万円か 120万円かがかかるのだ。なのに、洋上発電所ではその2割にしかならないという。そんな馬鹿げたことがあるはずがない。

 ──

 なお、読売の記事は、誤報というほどでもなさそうだ。社民党その2を見ればわかるように、発表者自身がその趣旨のことを発表しているからだ。とはいえ、間違いは間違いだ。

 では、正しくは? 次のいずれかであろう。
 (a) 「『建設費』には、太陽電池の値段が含まれない。太陽電池の値段を含めて考えると、実際にはその 10倍程度の価格になる」
 (b) 「発電に『太陽電池』を含めているのは勘違いで、正しくは『風力発電』だけ」(太陽電池は、あるにしても、ほんのオマケ程度。)

 そのいずれかであろう。

 とにかく、どっちみち、太陽電池というものはバカ高いのだから、そんな高価なもので発電する方法が、現状の原発よりも大幅安になるということは、原理的にありえない。(もしそんなことが可能であるなら、太陽光発電を、洋上でやる必要はなく、陸上でやればいい。)
 とにかく、太陽電池を陸上から洋上に移すだけで、コストが 10分の1に低下する、というようなことは、ありえない。当り前でしょうが。
 夢を見るのはいいが、夢を現実であるかのごとく吹聴するのは、困りものだ。



 [ 付記 ]
 では、風力発電に限れば、「原発よりも大幅に安価な発電」というのは、可能になるだろうか? 
 なるかもしれない。技術の進歩というものはあるから、将来的にそういうことができる可能性はある。そのことまで否定するつもりはない。
 ただし、それならそれで、ちゃんと「風力発電」というふうに表示してもらいたいものだ。社民党は、その1の方では、そういう表示をしている。しかるに、その2の方では、そういうふうに表示していない。読売も同様。……たぶん、発表者そのものが、間違った発表をしているのだろう。
 この発表者は、トンデモかもね。それにだまされたのが、社民党と読売。詐欺師に引っかかった手口か。
 本当はただの「風力発電」なのに、「太陽光発電」という言葉を出すと、素人があっさり引っかかる。そこで、引っかけるために、「太陽電池でも発電する」と言っているのだろう。上手な詐欺ですね。(なぜなら、本当に「太陽電池でも発電する」のなら、コストは馬鹿高くなるからだ。)

 【 教訓 】
 夢みたいなうまい話をする人がいたら、眉に唾をつけて話を聞こう。そのまま鵜呑みにするなかれ。……たとえ相手が、大学教授でも、大新聞社でも。
 


  【 追記 】
 この洋上発電という構想には、致命的な難点がある。それは「洋上でできた電力を、どうやって陸地に運ぶか」という問題だ。
 構想によれば、「いったん水素にする」と述べられている。なるほど、そうすれば、うまく行きそうだ。電力を水素にしてから、海上で運搬する。そして陸地でふたたび発電機を回して発電するわけだ。
 しかし、せっかくできた電力を、いったん水素に変換して、それからまた電力に戻す、というのでは、あまりにも無駄手間だ。効率も悪い。設備だって、無駄な設備が二重に必要だ。
 とすると、水素にしたあと、水素のまま使うしかない。しかし、水素のまま使うにも、(水素を使うような)水素エンジン車も、燃料電池車も、いまだに普及していない。現状では、用途のない水素が無駄に発生するだけだ。
 それでも、十数年後には、水素エンジン車も燃料電池車も、普及するかもしれない。しかし、だとしても、洋上発電の水素は必要ない。なぜなら、原発の深夜電力を使って、水素を生産できるからだ。原発の深夜電力は、現状では余って捨てられているだけだから、これを利用すれば、コストがゼロになる。また、どうせ深夜電力を使うのであれば、深夜電力で電気自動車を動かすのがベストだ。それゆえ、水素エンジン車や燃料電池車の出番はない。( → 水素生産のペテン
 とすれば、洋上発電がいくらコストを下げても、コストがゼロにならない限り、まったく勝ち目はない。要するに、必要な水素は、原発の深夜電力でいくらでも無料で生成されるのだから、いちいち水素を作る必要など、さらさらないのだ。(作っても無駄。)
 以上をかんがみると、「電力をいったん水素にする」という方針にこだわる限り、この構想は全然成立しない。

 となると、残るのは「電力をいったん水素にする」のをやめることだ。つまり、「海底ケーブルで送電する」ということだ。
 しかし、その方法もまた、いろいろと問題がありそうだ。(送電ロスとか、適切な砂浜がないとか。)
 また、たとえ海底ケーブルで送電するにしても、風力発電(や太陽光発電)というのは、自然任せだから、電力の変動が大きすぎて、一国全体の需要を任せるには足りない。せいぜい全体の1割ぐらいにしかならない。「原発に取って代わる」ということは根本的に不可能であり、あくまで「原発の一部を補完する」という程度のことにすぎない。

( ※ だいたいね。「いつも風や太陽があって、最大電力を常に発電できる」と想定して、「原発いくつ分」なんて計算しているような構想は、最初から信用できないんですよ。「風力発電や太陽光発電は、発電しないでお休み状態になっていることがとても多い」ということから議論を始めないと、ホラか詐欺話になってしまう。)
( ※ そもそも、「洋上の風力発電」なんて、ずっと前からある発想だ。上記報道の構想だけが特別なのは何かというと、技術的にすばらしいというより、ホラや夢があまりにも過剰で現実離れしている、ということだろう。……たぶん、あちこちから出資金を集めるのが狙いじゃないですかね? よくあるでしょ、こういう「うまい話」。)
posted by 管理人 at 19:17| Comment(4) |  太陽光発電・風力 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最後に 【 追記 】 を加筆しました。
タイムスタンプは下記 ↓
Posted by 管理人 at 2008年08月29日 00:04
洋上発電で検索し、このブログへたどり着きました。
なぜ洋上発電に興味が沸いたかと言いますと、
私が、「原発反対派」に現在のライフラインは原発が無いと維持できない。と主張したところ、
、「原発反対派」から今は洋上発電が開発されてるからすでに原発は要らない(社民党のリンクを示して)と言い返した来たからです。
しかし、検索により九州大学のプレゼン資料を見つけ中身を熟読したところ、
この技術はまだ実現してない(最速で10年後)のです。
しかも、社民党に至っては、この洋上発電を脱原発の切り札としてますが、九州大の資料には海水からウラン採取施設を造る足がかりとしても使えるとハッキリ書いてあります。
また、当ブログでの考察も参考にさせていただきました。

原発反対派はなぜしっかりと資料を理解し、自分で内容の妥当性を判断するということができないのでしょうか?
九大の資料を基に反論したら、その反原発の方は逃げていきました。
Posted by ok at 2008年10月24日 09:21
私もまぁ、この世界で14年ほど飯を食ってますけどね。

洋上風力なんて、詐欺ですよ(少なくとも、今の技術では)。

たとえば、こんなところも見にいきましたけど。
http://www.hornsrev.dk/index.en.html

水深数mしかない海で、モノパイル工法なのに、
・少しでも海が荒れると、船が着けない
・代わりにヘリといっていたけど、本当?
・したがって、故障してもなおせない
・漁業権で、めちゃくちゃもめた
                 など

相当、苦労している(はずです)。
Posted by 清水 幸九 at 2008年10月24日 18:58
なお、ここで取りあげられた記事は、そもそも重大な勘違いをしている。管理人さんはとっくにお気づきとは思うが、念のためコメントしておく。

>システムの発電能力は約30万キロ・ワット、三つで原子力発電所1基分になる。

kWとkWhの区別もついていないらしい。この間違いは、マスコミに実に多い。

風力の設備利用率:20〜35%程度(地点により大差)
原子力の設備利用率:70〜75%程度

つまり、同じkW(発電出力)でも、そこから得られるkWh(発電電力量)は、2〜3倍も違うのだ。

発電出力で両者を比較しても、何の意味もない。さらに、風力は風がやめば止まってしまうから、風力を増やしたからといって他の発電所はほとんど減らない。効果は、あくまでも火力発電所の燃料削減分+α程度に考えていた方が無難だ。


だからといって、風力発電が筋悪だということを主張するものではない。それは大切なものだ。

要するに、過度な期待は(現状の技術では)しないほうがいい、ただそれだけです。

自然エネルギーで大切なのは、詐欺的な数字ではなく、“夢”です。ロマンを大切にしましょう。
Posted by 電汽事業連合会会長 at 2008年10月24日 21:55
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