一般に、電力の需要と供給について、「供給不足」を想定するときには、夏のピーク電力を想定する。(それ以外のときは、無視していい。供給の上限に達していないからだ。)
さて。夏のピーク電力への対策としては、現状では、揚水発電や旧式の火力発電などが用いられているが、これらはかなりコストが高い。また、そもそも供給量に限度がある。
そこで、「太陽光発電がいい。ピーク電力の夏場の昼にちょうど発電力が最大になるからだ」という説が出てくる。
これは、一見、妥当に思える。では、本当にそうか?
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仮に、その説が正しいとしよう。もしそうならば、夏場のピーク時には、かなり高額の料金を払って、(家庭の)太陽光発電の電力を購入してもいいはずだ。たとえば、通常の 10倍ぐらいの料金を(電力会社が家庭に)払う。それでも、「電力不足で停電」という緊急事態よりは、はるかにマシである。
だから、「太陽光発電の電力には 10倍の金を払って、太陽光発電を促進する」という方針も、あながち間違いではない。
ただし、注意。そのことが成立するのは、「夏場のピーク時」に限られる。具体的には、一年のうちのほんの数日に限られるし、しかも、時間帯にして数時間に限られる。その間だけは、通常の 10倍ぐらいの料金を払ってもいい。だが、それ以外の大部分では、通常の料金と同じ料金となる。(さもなくば経済原理に即しない。)
では、そのわずかな時間だけは、ともかく 10倍ぐらいの料金を払ってもいいだろうか? ま、何もしないよりはマシだ。だが、実は、それよりずっといい方法がある。頭のいい方法が。
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それは、電力不足をなくすための方法で、次のことだ。
「供給を増やすのではなく、需要を減らす」
具体的には、次のことだ。
「電力の大口購入者に、電力の使用をやめてもらう」
実は、このことは、すでに実現している。これは、「緊急時調整契約」というものだ。東京電力によると、次の内容をもつ。
契約電力 500kW 以上のお客さまで、7 月から 9 月までの期間において、当日の 1 時間前の当社からの依頼により、契約電力の 5%以上の電力を抑制していただきます。(従来:契約電力の 10%以上の電力)なるほど、これはこれで有効だ。ただし、これで有効なのは、「瞬間的なピークを避ける」ということだけだ。夏場の数日間で、数時間だけの電力停止。それ以上は無理だ。
※ 調整をお願いする場合は、1時間前までに電話等によりご連絡いたします。
( → 東京電力 (PDF) )
たとえば、電力不足の見込みが2%ぐらいならばそれで済むだろうが、発電所がいくつもストップしてしまって、電力不足の見込みが 10%ぐらいになると、「8月中いっぱい、午後の3時間は電力不足」というふうになりかねない。そうなったら、上記のように「ピーク時だけにちょっとストップする」という対処では、足りなくなる。
( ※ なぜなら、大幅に電力を減らして、業務が途中で止まってしまったら、業務に差し支えが出るからだ。たとえば、多少の電力を減らすために、自動車工場をストップさせたら、自動車工場は多大な損失が出る。だから、工場停止など、できない。従業員は、出勤したあとで、無駄にブラブラ休んでいるだけだから、人件費が無駄にかかって、大損だ。)
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そこで、抜本的な対策が考えられる。次のことだ。
「長期の夏休みを大幅に普及させる」
つまり、バカンスだ。この場合、電力会社が指定したときだけに電力を減らすのではなく、たくさんの企業がそろって休みを取って電力を大幅に減らす。
たとえば、トヨタは7月22日から8月20日までの 30連休。日産は8月01日から8月30日までの30連休。……こういうふうに大幅な夏休みを取る。(現実にはそれは夢物語となっている。学校関係を除いて。)
そして、ここが肝心なのだが、そのように大幅な夏休みを取った大口需要家に対しては、電力会社が大幅に割引をすればいい。
「おたくは夏場に 30連休なのですか。ありがとうございます。それでは、夏場以外の電気代を、大幅に割り引きます」
というふうに。
そして、そのためにかかるコストは、太陽光発電池のために払う金よりも、ずっと少なくて済むはずだ。
太陽光発電では、供給増加のために、通常の 10倍ぐらいの金を払う必要があるかもしれない。しかし、需要を減らすためであれば、そんなに莫大な金を必要としない。「夏場に1カ月停止してくれたなら、夏以外の 10カ月では電気代をタダにします」ということは、必要ない。
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結局、ピーク電力の対策としては、「供給を増やす」よりも、「需要を減らす」方が、はるかに効果的なのである。つまり、太陽光発電をどんどん推進するよりも、バカンスを普及させる方が、はるかに効果的なのである。
( ※ ピーク時電力を水準化する、という目的のためである。電力使用の総量を減らすため、という目的のためではない。混同しないように注意。)
( ※ なお、30連休というのが非現実的だというのなら、15連休でもいい。それさえ無理だというのなら、「午後だけの連休」でもいい。たとえば、工場で二交替制のときに、午後の暑い時間帯を「午後休み」にする。その間は、工場の稼働を停止する。それ以外の時間に、工場をしっかり稼働する。……これなら、工場としても特に問題はないし、また、ピーク電力対策も劇的に進む。)
【 関連項目 】
「長い夏休みを普及させるべし」という件は、下記でも述べた。
→ サマー休み
※ ここでは、太陽光発電と比較するのではなく、サマータイムと比較している。
[ 参考 ]
ついでに余談ふうに述べておこう。
太陽電池の向きは、真上に向けるよりも、少し南に傾けておく方がいい。このことは、広く知られている。
ただし、もう一つ、重要なことを示す。実は、南に向けるよりは、南南西
に向ける方がいいのだ。つまり、真南よりも、いくらか西向きにする。
なぜか? ピーク時電力は、午後だからだ。そのためには、午後の太陽(少し西に傾いている)に対して、最大の発電効率を発揮するようにさせるべきなのだ。
ここでは、次の発想が必要となる。
「一日のトータルの発電量を最大化するのではなくて、電力需要のピーク時の発電量を最大化する」
やたらと太陽光発電をしても、ピーク時対策にはならない。それよりは、ピーク時の午後にこそ、発電能率を最高にするべきなのだ。つまり、少し西に向けて設置するべきなのだ。
( ※ このことはあまり理解されていない。たいていの人は、「真南に向ければいい」「一日の発電量を最大化すればいい」と思い込んでいる。)
【 追記 】
ピーク電力の対策が大切だ、と述べたが、その理由については述べなかった。そこで、その理由を説明しておこう。
( ※ 以下に記すが、当り前の話なので、特に読まなくてもよい。本来は書くつもりはなかった。ただし、いちいち説明されないとわからない人もいるようなので、念のために書くだけだ。)
まず、個人レベルで言えば、ピーク電力の対策など、必要性はさらさらない。それよりは、自分の発電量を最大化することの方が利益になる。
一方、国家レベルで言えば、話は異なる。ピーク電力を下げることが、何よりも最優先の目的となる。発電量を少しぐらい増やすか減らすかしても、たいして大事件にはならないが、ピーク電力を越えたら、国家規模で大問題が発生する。
ピーク電力を越えると、通常、停電が起こる。現在のシステムでは、地域別に停電が起こる。病院などでは、緊急電源が入るだろうが、それまでの間は、数分間の停電が起こるだろう。そのせいで、手術や麻酔の失敗が起こって、人命が失われる可能性もある。また、各地のパソコンがストップして、データ損失やシステムダウンなどの損害も起こりそうだ。(システムダウンはさらに波及的にあちこちで大問題を引き起こす。情報化社会のアキレス腱。)
ともあれ、停電というのは、非常に大問題である。はっきり言って、「発電所テロ」よりも、はるかにタチが悪い。「発電所テロ」ならば一箇所で済むが、ピーク電力の突破は「発電所テロ」が同時多発生したことに相当する。国家的に大々的な損失なのだ。
だからこそ、政府や電力会社は、ピーク電力の対策をする必要がある。そして、その一助として、太陽光発電を援助することもできる。というわけで、太陽光発電の推進者が「ピーク電力を下げるために太陽光発電は有効だ」と述べることには、それなりの根拠があるのだ。
※ 注記
以上では、太陽光発電の推進者が「ピーク電力対策に役立つ」と述べたことの根拠を示した。ただし、これはあくまで、国家規模の利益のためである。一方、個人の利益を重視するなら、あくまでエゴイズムとしてふるまうことになるので、自家の発電量の最大化が優先するだろう。
「国全体で停電の損失が数千億円規模で発生しても関係ない。自分が売電で千円ぐらい増やすことの方が大切だ」
という発想だ。つまり、
「他人の千億円よりは、自分の千円の方が大事」
という発想だ。こういうエゴイズムを信奉する人も多いだろう。
(しかし、そういうエゴイストが太陽光発電という損する行動を取るというのも、自己矛盾だが。 (^^); )
なお、こういうエゴイストに対しては、特に国家が援助する必要はあるまい。エゴイストのために補助金を出すなんて、馬鹿げている。泥棒に追銭、みたいなものだ。
【 関連項目 】
→ 太陽光発電の嘘(ピーク電力)
私が関わったのは4年ぐらい前なので変わってるかもしれませんが、上記の発想は、企業は需要を押さえにかかるのでいいように思います。
ピークが出そうなときは、全社に連絡が入って節電するのと、設備電力で実害がないものを自動抑制します(確か)
タイムスタンプは 下記 ↓