農業でもエネルギーを使う。特に、ハウス農業がそうで、暖房のために重油を使う。これが石油価格高騰の直撃を受けているという。記事を引用しよう。
「安い石油」に依存しきってきた世界が、温暖化と石油需給の厳しい見通しに動揺し、対応を迫られている。──
トマト農家も重油の値上がりに苦しむ。11〜3月は重油で暖房する。
トマト1個(L玉 200グラム)に使う重油は、年平均で約 80ミリリットル(約 65グラム)。重さでトマトの3分の1ほどが油の計算になる。
一般のトマト農家では暖房が必要な月に重油代だけで売り上げを上回ったところも多い。
( 朝日・朝刊・1面 2008-07-02 ,朝日のサイト )
さて。このハウス農業では、燃料は「熱」のために使われる。しかし、熱のためであれば、発電でなどでできた残りの「排熱」を有効利用することで、熱の使用効率を劇的に高めることができる。
通常、発電設備では、30〜45%ぐらいの効率で発電がなされ、残りは排熱として捨てられる。捨てられるうちの半分ぐらいを給湯のために使うのが普通のコジェネだ。そのことで熱効率は 80%近くになる。そこでは残りの 20%ぐらいは無駄に捨てられる。
しかし、捨てられる分のエネルギーをハウス農業の暖房として使うのであれば、捨てられた分を有効利用することになるので、熱効率はほとんど 100%だろう。つまり、非常に効率が高い。
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ちょっと面倒だが、コスト計算してみよう。(面倒なので、読み飛ばしてもいい。)
単にハウス農業で重油を燃やすだけだけだと、燃焼炉に 10万円ぐらい(?)がかかる。
かわりに、空冷ディーゼル発電機を設置すれば、価格は 30〜50万円ぐらいだ。(発電規模により異なる。)
燃焼炉の費用が浮くから、価格から 10万円(ぐらい)を引いた差額が、発電費用となる。
これを太陽光発電と比べよう。 まず、発電規模は、上記の空冷ディーゼル発電機の方が大きい。100ボルト 18アンペアぐらいが最低限で、もっと大型のもある。ま、おおざっぱに、太陽光発電(晴天時 4kW、平均2kW)と同程度(1.8kW)と見ていい。
それでいて、価格はほぼ 10分の1である。
なお、寿命はほぼ同程度と見てもいいだろう。ディーゼルエンジンの寿命は 10年以上ある。
では、維持費(ランニングコスト)は?
・ 太陽光発電は、原則として維持費ゼロ。ただし汚れを落とすための費用がかなりかかる。これをやらないと、効率が低下する。
・ ディーゼル発電は、重油代に金がかかる。ただし、ハウス農業の場合、熱はもともと必要だったから、ハウスを温めるための熱の分の重油代は、かかっていないのと同じことになる。とはいえ、熱にはならずに電気になる分が 40%ぐらい。とすると、「重油代 × 40%」というのが、ランニングコストになる。(残りの 60%は、ハウス農業の熱として利用される。無駄に消える分はない。)
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以上をまとめると、次のようになる。
「ハウス農業でディーゼル発電機を使うと、熱効率が非常に高まる。そのことで、効率が 100%ぐらいの火力発電をしたのと同じことになる。通常の火力発電の効率が 40%ぐらいだから、火力発電の効率を 2.5倍に高めたのと同じ結果が得られる。つまり、(発電量あたりで)火力発電の炭酸ガス排出量(燃料使用量)を6割減少させる効果がある」
このことを、コストとの比較で言うと、次の通り。
・ 太陽光発電 …… 300万円で、2kWの効果。
・ 農業コジェネ …… 20万円で、1.1kWの効果。
( 1.1kW≒ 1.8kW × 60% )
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結論。
本気で炭酸ガスの排出を減らしたければ、農業コジェネをやればいい。太陽光発電とかレジ袋削減とか、そういう気休めみたいなことをするよりも、確実に炭酸ガスを大幅削減できる。
つまり、一挙にゼロにはできないが、ローコストでほぼ半減できるので、大規模に実施することが可能になり、炭酸ガスを減らす効果は多大になる。
( ※ ただし、現実には、そういうことをするほど、政府は賢明ではない。「炭酸ガスを出す方式の効率を高める」ということを大量になすよりは、「炭酸ガスをまったく出さない」ということを微量になすことの方を好むだろう。中規模の善行を大量になすよりは、大きな善行を微量になすことの方を好むだろう。比喩的に言えば、多数の貧者にパンを与えて多数の命を救うよりは、少数の貧者にぜいたくをさせて大富豪にさせてやることを好むだろう。……なぜなら目的は、「自分は善行をした」というふうに思うことだからだ。自分がいい気分になることだからだ。地球を救うことではなくて。)
[ 付記 ]
ディーゼル発電機による炭酸ガス発生がどうしても気になるのであれば、次の方法もある。
「水素エンジンによる発電」
たとえば、水素ロータリーエンジンによる発電だ。BMWの水素レシプロエンジンもある。
水素エンジンの場合は、水素燃料を使うので、炭酸ガスを発生しないで済む。その点、燃料電池と同じである。しかも、燃料電池よりも圧倒的にローコストで、かつ、実用化は容易だ。(発電機のように回転数が一定ならば、ほとんど問題はない。)
というわけで、気になるのであれば、「水素エンジン発電機」を使ってもいい。
( ※ ただし、水素エンジンの場合、その場所では炭酸ガスを発生しないが、水素ガスを生産する時点で、炭酸ガスを発生させる。たとえば、天然ガスによる水素生産で、同時に炭酸ガスを発生させる。これでは元も子もない。何やっているんだか。 → 次項 )
逆に既存の工場や火力発電所などのボイラーやコジェネの廃熱を使って、空き地でハウス農業をして安価なトマトを作るのはいかがでしょうか?
ここでは排ガス中の炭酸ガスをそのまま植物育成用のために使います。そのせいで、炭酸ガスの利用も可能なので、「トリジェネ」とも言われます。
発電が第1目的ではないので、暖房の必要な冬場しか使いません。夏場は使いません。冬場のみの効率アップが目的です。あくまで補完的。
> 既存の工場や火力発電所
排熱が巨大すぎ。一点集中で巨大な排熱があっても無意味。あくまで広大な農地に小さな発電所(というか熱源)がポツポツと散在するる程度でないと。
また、膨大な土地費用がかかるので、まず無理でしょう。気休め程度にハウスをひとつ作るぐらいならば可能ですが。……「省エネのフリ」ですね。
LNGを使った小型ガスタービンを使うそうですが。
情報ありがとうございました。なるほど。
ガスタービンによる発電というのは、本項を書いた時点で私も考えたのですが、現状のガスタービン技術を見ると無理だ、と判断しました。
・ ガスタービンのコストは高い。(ディーゼルは大量生産品。)
・ ガスタービンの発電効率は低い。(25%。ディーゼルは 40%)
(ただし大量の排熱が出るので、廃熱利用ならばいい。)
後者が問題です。熱利用効率は高くとも、発電効率が低いのだったら、本来の目的が達成できないからです。だったら「最初からそのまま燃やしてしまう」というのと、大差ありません。
たしかに、LNGによるガスタービンはクリーンで、ディーゼルよりもきれいなのですが、ディーゼルだって地上固定式ならば、「排ガスを水に通して、排ガスをクリーンにする」という方法が利用できます。(自動車だと無理だが。)
コスト的に言っても、ディーゼルの圧勝だと思います。
でもまあ、「クリーンな環境保護」というお題目にとらわれると、「コストは高くて効率の低い」という方式をとるかもしれませんね。今の省エネはただのファッションですから。
ただし……
将来的には、ガスタービンも有力でしょう。今は小型ガスタービンの需要がないので高価格ですが、小型ガスタービンが普及したら、「効率よりもコストの低さ」で普及することは考えられます。何しろ部品の数が少なくてシンプルですから。効率が低くてもいいのなら、大幅なコストダウンも可能だと思えます。
( ※ 問題は効率なんですよね。効率を高めるには、かなり高温にしないといけないが、そうすると部品が高価格になりがち。)