2008年06月16日

◆ アナクロな情報伝達

 現代では最新のIT技術を使った情報伝達の必要性が唱えられている。しかし、古臭い(アナクロな)情報伝達もまた、劣らずに重要だ。 ──

 秋葉原の殺人事件をめぐって、池上彰が興味深いことを書いている。(朝日・夕刊・コラム 2008-06-16 )
 事件の状況をケータイ・カメラで撮影して、新聞社に送ってくれる人が多かった。だから、現場の状況を生々しく伝える画像がたくさんあって、新聞社や読者はありがたかった。しかし、状況を伝えるよりは、現場の傷ついた人間を救うことの方が大事だったのではないか? ある記事によると、一人の素人カメラマンは、カメラが趣味で、現場にもカメラを携えていったが、一枚も撮影しなかったという。現場の人を救助するのに夢中だったからだ、と。

 ──

 これを読んで、「でもおれは救命法を知らないからなあ。現場にいても、何もできないよ」と思う人も多いだろう。
 しかし、である。現代において一番重要なのは、情報伝達だ。そして、現場で何よりも大切なのは、次のことだ。
 「周辺にいる医療関係者を捜し出して、現場に連れていくこと」

 つまり、現場において、「お医者さんはいませんか? ケガ人がいます」と大声で叫んで、医者を捜し回ることだ。そうすれば、医者か、看護婦か、救急関係者か、誰かが見つかるだろう。そういう人を現場に連れていけばいい。── そして、ここが大事なのだが、それは最新のデジタル技術なんかは使わず、古典的な(アナクロな)「人と人との近接的関係」によって情報伝達がなされる、ということだ。
 どうしても何か使いたいなら、紙を丸めて、メガホンにすればいい。そうすれば、声が空中に拡散することなく、遠方にまで届くだろう。メガホンを四方に向けて(上方には向けずに)「お医者さんはいませんか? ケガ人がいます」と叫ぶ。これなら、誰にだってできるはずだ。あなたの声が小さいのであれば、声を出しながら駆け回ればいい。特に、ビルのなかに入って、医者を捜せばいい。
 また、あなたに頭があるなら、ビルに入って、館内放送をしてもらえばいい。とにかく、是が非でも、医者を捜すことが大事だ。

 そして、そのことは、「被害者が自分の家族や恋人であったなら」と想像すれば、ただちにわかる。「何が何でも救わなくっちゃ」と思ったとき、あらゆることを考えようとするだろう。……少なくとも、「現場にじっと立っている」ということはありえないし、「現場でカメラで撮影する」というようなことはありえないはずだ。
 ちょっと想像してもらいたい。あなたの恋人が怪我をして、血まみれになって、誰かに介護されているとき、あなたは何もしないで横に立っていて、その状況をカメラで撮影する……およそありえないことだろう。

 ──

 現代において大切なのは、デジタルの最新技術ばかりじゃない。古典的な人間同士の直接的な関係こそ何より大切だ。
 そして、そこにおいて大切なのは、「情報を伝達すること」それ自体ではなくて、他人のことをわが身のことのように感じることのできる、心の感性だ。そして、それは、バーチャルなキャラとの間ではなしえず、現実の人間との間でのみなされる。
 オタクがバーチャルなキャラに引かれるということは、そのかわいらしさだけに惹かれるということであり、かわいらしさ以外の人間性を感じる能力を失うということだ。
 オタクが萌えキャラにのめりこめばのめりこむほど、彼は現実の人間への適応性を失う。そして、その結果が、「現場で人を救おうとせず、たくさんのカメラを向ける」という行動となって現れる。

 考えてもみてほしい。あなたが今、殺人犯に刺された。何とかして助けてほしい。最大限の努力をしてほしい。さもなくばあなたは死んでしまう。……しかし、回りにいるオタクは、あなたが死んでしまうことなど、どうでもいい。あなたの生命の価値は、萌えキャラの生命の価値ほどもない。「死んだら、再起動すれば」とか、「この人、ゲームオーバーだね」とか、そんな言葉がまわりから聞こえてくる。そして、瀕死のあなたのまわりで、あなたを撮影するカメラの音が聞こえてくる。そして、その音もまた、バーチャルふうの人工的合成音なのである。何もかもが偽物のなかで、ただ一つ真実である生命が、徐々に失われていく。そして、あなたがそのことに気づいたとき、あなたはもはや手遅れだった……

 ──

 人と人との人間関係において、何よりも大切なことは、「相手の身になって考える」ということだ。そして、それを、現代人は失いつつある。なぜなら、人と人との人間関係がバーチャル化されつつあるからだ。そして、その典型が、オタクという概念で表される。

( ※ とはいえ、オタクに限ったことじゃない。この傾向は、現代人の多くが共有する。オタクというのは、どこかの他人のことというよりは、「明日はわが身も」というふうに感じる方がいいのかもしれない。……オタクの危険性は、誰もが自分自身のうちに秘めているのだ。そうとは気づかないうちに。)
( ※ それを、私は警告する。しかし、たいていのマスコミは、正反対だ。「IT時代に乗じて、情報によって金儲けをしよう。情報をうまく操ることが金儲けのコツだぞ」という話ばかりだ。雑誌もそうだし、朝日新聞もそうだ。……そのなかで私だけが、「情報に振り回されるな」と警告する。そして、そのあげく、大儲けするのではなくて、オタクに攻撃される。 )
( ※ 悪人は人々をだまして大儲けし、善人は人々を救おうとして大損する。   (^^); )
posted by 管理人 at 20:17 | Comment(0) | 一般(雑学)1 | 更新情報をチェックする
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