cf. → 第一次案
( ※ 本項の記述日は 2008-06-17 ) ──
新常用漢字の第二次案が公表された。188字。( 2008-06-16 )
これがおおむね最終案になりそうだ。(若干の変動はありそうだが。)
藤 誰 俺 岡 頃 奈 阪 韓 弥 那 鹿 斬 虎 狙
脇 熊 尻 旦 闇 籠 呂 亀 頬 膝 鶴 匂 沙 須
椅 股 眉 挨 拶 鎌 凄 謎 稽 曾 喉 拭 貌 塞
蹴 鍵 膳 袖 潰 駒 剥 鍋 湧 葛 梨 貼 拉 枕
顎 苛 蓋 裾 腫 爪 嵐 鬱 妖 藍 捉 宛 崖 叱
瓦 拳 乞 呪 汰 勃 昧 唾 艶 痕 諦 餅 瞳 唄
隙 淫 錦 箸 戚 蒙 妬 蔑 嗅 蜜 戴 痩 怨 醒
詣 窟 巾 蜂 骸 弄 嫉 罵 璧 阜 埼 伎 曖 餌
爽 詮 芯 綻 肘 麓 憧 頓 牙 咽 嘲 臆 挫 溺
侶 丼 瘍 僅 諜 柵 腎 梗 瑠 羨 酎 畿 畏 瞭
踪 栃 蔽 茨 慄 傲 虹 捻 臼 喩 萎 腺 桁 玩
冶 羞 惧 舷 貪 采 堆 煎 斑 冥 遜 旺 麺 璃
串 填 箋 脊 緻 辣 摯 汎 憚 哨 氾 諧 媛 彙
恣 聘 沃 憬 捗 訃
( → 参考: 読売新聞 2008-06-17 )
※ 字体については指定されていない。略字体になる可能性もある。
【 講評 】
おおむね妥当であろう。個人的見解を言えば、細かい難点はあるが、価値観の違いもあるだろうから、私としては前述の「第一次案」の箇所で述べたことを、ここでまた繰り返すつもりはない。
( ※ あとで調べると、かなり難点がある。後出の 【 追記 】 の箇所を参照。)
ただ、一つだけ重大な難点がある。次の文字だ。
鬱
なるほど、現代では、この文字は頻繁に使われている。鬱病気味の人も多いし。
しかし、これを「常用漢字」とすれば、子供たちはこれを「書くこと」を要請される。そいつはちょっと酷ではなかろうか?
ここはやはり、「準常用漢字」というものを用意して、「読めるけれども書かなくてよい文字」というものを定め、「鬱」はそこに含めるべきだろう。
ただ、 欝 という略字もあるから、こっちを使うという手もある。とはいえ、こっちも、易しい文字ではない。やはり、「準常用漢字」というものを用意するべきだろう。
だいたいね。鬱病の人が、こんな画数の多い文字を読まされたら、読むだけでうんざりするだろう。病気が治らなくなるかも。それでなくてもオタクは鬱病気味なんだし。 (^^);
パソコンで読むときだって、「鬱」や「欝」やブログの小さな文字ではつぶれがちだ。
だから普通は、「うつ」とひらがなで書くので十分。「うつ病」「抗うつ剤」で十分。それよりは、削除された「嬉」という文字の方を入れてほしいですね。
「嬉」を削除をして、「鬱」を入れるなんて、審議会の委員の精神傾向がわかりますね。 (^^);
だから、漢字オタクの委員はいやなんだ。
( ※ 私が思うに、ネットで「鬱だ……」という用例が多用されているのを、委員は重視したのだろう。ただしそれは、2ちゃんねらー系のサイトである。つまり、委員は2ちゃんねらーなのだ! (^^); )
【 追記1 】
どの文字が候補から脱落したかは、次に示すとおり。
(分類は第一次案に従う。)
(茶色の着色は、重要性の高い文字。)
■候補漢字S
叩 嘘 噂 濡 笠 嬉 朋 覗 撫 溜
■候補漢字A
鷹 揃 頷 掴 翔 喋 噛 洩 禄 栗 馴 駕
鴨 淵 駿 賭 蘭 胡 蘇 狼 蝶 掻 惚 蒼
腿 菩 吊 雀 樽 壺 祀 卿 歪 棲 釜 磯
樋 靴 柿 鷲 媚 寵 秤 遡 套
■候補漢字B
醤 疼 賤 顛 糊 毀 誼 截
■候補漢字C
綬
( ※ 同訓異字を区別するための文字は重要性が高い。
例。「覗 ,溜 ,馴 ,賭 ,掻 ,糊」)
( ※ KOTONOHA や Google で検索しても、重要性が高い理由はわかる。)
【 追記2 】
あとで調べたところ、第二次案には、妥当ではないと思える文字が五つ見つかった。次の通り。
勃 摯 瑠 璃 弥
( ※ 以下の用例検索では、別項の KOTONOHA を利用した。)
(1) 勃
「勃」という字の用例はきわめて限定されている。次のいずれかだ。
(i) 勃興、勃発
(ii) 勃起
前者は、歴史や戦争の分野に用例が限られている。ほとんど専門用語に近い。無視していいだろう。
後者は、多くの用例があるから、たぶんこれを念頭に置いているのだろう。で、「勃起不全」とかいう用例が多数あるから、これを漢字で書きたい、ということなのだろう。しかし、「勃起不全」ならば「ED」というふうにぼかすのが普通だ。要するに、あまり社会では使うべき文字ではない。こういうのを中学生に勉強させる、というのは、変ですね。
ま、どうしても入れたいというのなら、「膣」という字も入れるべきだろう。それでこそ男女平等だ。それならわかる。
しかし、「勃」だけあって「膣」がない、というのは、反対である。 ( イヤミですね。これは。 (^^); )
(2) 摯
この用例は「真摯」以外にはほとんどない。しかも、「真摯」という言葉は、頻度も低いし、重要性も低い。(「真面目」「誠実」というような言葉でほぼ代用できる。せいぜいニュアンスの違いでしかない。)
(3) 瑠 璃
この用例も「瑠璃」「瑠璃色」「浄瑠璃」「瑠璃光(寺・院)」ぐらいしかない。また、その用例も少ない。
(4) 弥
別項(文字用例の検索)で述べたとおり。
──
こうしてわかるだろう。
・ 用例の適用範囲が、きわめて狭い。(特に固有名詞が多い。)
・ 用例の頻度が、きわめて低い。
こういう理由で、以上の五字は、重要性が不足する。あえて新常用漢字に入れる必要はない。
どうせなら、もっと大切な字はたくさんある。
たとえば、「嬉」もそうだ。この用例は非常に多い。ものすごく多い。なのに、この字を排除するなんて、納得できない。
「ひらがなでも書ける」「熟語にはなりにくい」というのが、委員の言い分のようだ。だが、そんなことは全然関係ないはずだ。そんな言い分だったら、「僕」「俺」「私」もまた、常用漢字から排除されかねない。
「日本語は中国漢字(熟語)を書くためにあるのではなく、日本語を書くためにあるのだ」という原則を、委員は理解していないのだろう。これだから、漢字オタクっていやですね。
こんな五字を入れるくらいだったら、もっと重要性の高い文字はたくさんある。(上に示したとおり。茶色の文字。)
【 追記3 】
上の五字では記さなかったが、「緻」という文字もまた、重要性は低い。これは「緻密」「細緻」などの熟語で使われるが、いずれも形容詞である。形容詞というものは、他の言葉にいくらでも置き換えが可能なものだ。つまりは、趣味的な言葉なのである。その意味で、使用例の多少にかかわらず、重要性が低い。
一般に、日本語の漢字で重要性が高いのは、次のもの。
(1) 一字名詞で使われるもの。(嘘、俺 など。俺 は今回は採否未定。)
(2) 訓読み述語で使われるもの。(馴、掻 など)
重要性が低いのは、次のもの。
(a)特定の熟語でのみ使われるもの(瑠璃 など)
(b)形容詞(形容動詞)でのみ使われるもの(緻 など)
たとえば「冷や汗を掻く」という言葉ぐらい、ちゃんと常用漢字で書きたいものです。なのに、「掻」の字がないから、 (^^; のような顔文字がやたらと使われる。
もしかして、審議会の委員は、「顔文字の (^^; があるから、『掻』の字はいらないよ」と思ったんでしょうかね。
( ※ ついでだが、「掻」は略字。これの正字は、シフトJISでは出せない。本ブログでは表示できません。)
【 追記4 】
先に、「新常用漢字」の項目では、次のように述べた。
「字体はパソコンの字体に統一してしまえ」
たとえば、「嘘」「噂」などは、略字にするか正字にするかを、個別に考えず、パソコンの字体に統一してしまう。
( ※ 正確には、マイクロソフトの JIS2004対応タイプの字体)
この方針では、パソコンにある既存の略字は、略字となる。だからその分、採用しやすい。そこで、次の文字も、新常用漢字に入れた方がいいだろう。
「鴎 噛 掴」
これらの文字は、正字では書くのがしんどいが、略字では書くのがたやすい。また、略字のまま新常用漢字にしてしまえば、使うことにあまり抵抗感はないはずだ。(既存の常用漢字と同様。あちこちで見るようになるので、自然に慣れてしまうはず。)
そういうわけで、「鴎 噛 掴」の3字を新常用漢字に含めることを、私は提案する。実際、使用例も多いんだしね。
( ※ その一方、「鷲」は、字画が面倒で、書きにくいので、採用しない。「鴨」は、ちょっと中間的。採用してもしなくてもいい。「鴎」は「森鴎外」その他でよく使うので、是非とも採用したい。)
【 追記5 】
重大な問題点を発見した。「萌」という字がないのだ!
これは大変だ。世の中のオタクは憤激するべし! この世から萌えを排除していいものだろうか! 反対の声を上げよ!

( ※ オタクだけじゃない。皇后陛下の好きな和歌として、次のものが知られている。私もこれは好きです。
「石走る垂水の上の早蕨の萌え出づる春になりにけるかも」
…… 垂水(たるみ)早蕨(さわらび) )
【 追記6 】
「哺乳類」の「哺」という字も、是非とも必要だろう。
「哺乳類」という言葉は小学生でも頻繁に使うぐらい、よく使われる言葉だ。にもかかわらず、常用漢字に入っていないから、「ほ乳類」というような交ぜ書きが使われ、不便であることこの上ない。
「哺」という字は、別に難しい字ではない。「補」の方がよほど難しい。だったら、「哺」という字は是非とも入れるべきだ。「瑠璃」や「緻」なんていう文字とは、価値が雲泥に違う。
( ※ ただし、同じようでも、「爬虫類」の「爬」の字は、同様には扱えない。この字は、字画が難しい。また、使用頻度も低い。)
( ※ 「哺」の用例は、日常語の「哺乳(瓶)」もかなり多いようだ。)
【 追記7 】
漢字選定の委員は、たぶん、文字採択の基準を根本的に間違えているのだろう。それは、次の基準だ。
「使用頻度の高い文字を採択する」
これは根本的に間違った基準である。正しくは、次の基準だ。
「読者数の高い文字を採択する」
たとえば、「哺乳類」と「瑠璃」とを比較しよう。「哺乳類」という文字は、新聞や教科書で使われるので、読者数は圧倒的に多い。しかしながら、自分で書くときには、書く文字の量は少ない。また、「ほ乳類」というふうに書いて代用することも多い。結局、読者数は多くても、使用頻度は高くない。
一方、「瑠璃」だと、固有名詞に使われることが圧倒的に多い。すると、当人(または団体や法人)がその文字を頻繁に使う。文書を書くたびに自分のことを指すために何度も使う。こうして、書く文字としての使用頻度は高くなる。ホームページでも同様だ。一方、そんなマイナーな団体のホームページを読む人は少ないから、読者の数は全然少ない。
こうしてわかるだろう。「読まれる文字の量の方が、使用する文字の量よりも、大切だ」と。「哺乳類」と「瑠璃」とでは、Google で検索されるページ数では、「哺乳類」の方がずっと少ない。しかし、一般の人が目に見る回数では、「哺乳類」の方がずっと多い。
目に見る回数とは、ただの頻度数ではなくて、「重要度」のことである。読者数の多い新聞記事などは重要度が高く、読者数の少ない(スルーされる)宣伝広告などは重要度が低い。なのに、重要度を無視して、単に頻度数だけを考えても、物事の本質はわからない。
情報化時代においては、情報を正しく受け止める能力が必要だ。「多く使われているから重要だ」と単純に思うようでは、正しい認識とはならない。「評価する能力」こそがとても大切になる。…… Google の創業者は、そのことに気づいていた。(だからページ・ランキング技術を開発した。)
漢字選定の委員もまた、もうちょっとネット・リテラシーを身につけた方がいい。
[ 付記 ]
ともあれ、今回の提案には、難点が多々ある。
私としては、こんな下らない提案は、命を賭しても阻止したいところだが、そういうふうに書きたくても、「賭」の字がないので、それを新常用漢字で表現することはできない。
政府はこうして少数で密室で考案したものを、国民からのヒアリングを受け付けることもなく、強権的に制定する予定のようだ。とんでもない専制政治と言えよう。国民の国語文化の政策を、政府が頭ごなしに押しつけるわけだ。
戦後のどさくさならば、やむを得ないかもしれないが、今は戦後でもないのに、政府が勝手に強権的に押しつけようとする。とんでもないことだ。
今はインターネットというものがあるのだから、国民の声を十分に受け付けて、民主的に決めることもできるはずだ。たとえば、「文字の投票」というようなサイトを作って、国民の声を聞くこともできるはずだ。
なのに、そうしない。今回の委員はネットリテラシーが不足している。というか、民主主義の基本さえもわきまえていない。単に頭ごなしに強権的に押しつけるだけだ。
それゆえ、このような専制政治について、私は強く警告しておこう。「それは国語に対する破壊行為である」と。
要するに、愛がないんですよ。日本語への愛が。 (^^);
オタクの方が、萌えがあるだけ、まだマシです。
( ※ ついでに、イヤミを一言。 (^^);
「哺乳類」という言葉は、小学生でも多用する。そういう重要な単語のための漢字を排除するくらいだったら、「陛下」の「陛」の字を排除した方が、まだマシというものだ。どうせ皇室一族のためにしか使わないのだから。……ま、こんなことを言うと、保守派の憤激を買いそうだが。ともあれ、「陛」の字を排除する必要はないが、「哺乳類」の「哺」の字は絶対に必要だ。「ほ乳類」なんて書いたら、まるで乳製品の一種みたいだし。あるいは、オタクの趣味である「巨乳類」みたいに感じられる。 (^^); )
[ 補説 ]
漢字を考えるばかりでなく、漢字の書き方も考えた方がいい。というのは、漢字を仮名書きするときには、ひらがなよりもカタカナで書いた方がいい、と思えるからだ。
たとえば、鬱という字ならば、ひらががなでうつ病と書いても、埋没してしまって読みにくい。「私はいつもうつ病に悩まされています」と書いても、読みにくい。しかしカタカナを使って、「私はいつもウツ病に悩まされています」と書けば、読みやすい。
一般に、漢字を仮名書きするときには、ひらがなではなくカタカナにするのが原則だ。以前からずっとそうだった。ところが近年はどういうわけか、ひらがな書きにするのがはやっている。そのせいで、訓読み高音読み高も、わからなくなってしまっている。「うつ病」ならば「うつやまい」と読むのが妥当であろうが、「うつびょう」と読ませるのだから、困ったものだ。これでは「病」という字を見ても、「びょう」なのか「やまい」なのか、わからなくなってしまう。
だから、「漢字を仮名書きするときにはカタカナで」という基本原則に立ち戻るべきだ。そうすれば「鬱」という画数の多い字をいちいち使わなくても、「ウツ病」と書くことで、問題は解決する。
※ ついでだが、ATOK では、仮名書きは「ひらがな」に限られ、「カタカナ」は使われない。「うつ病」はあるが、「ウツ病」はない。他の語も、すべて同様。お馬鹿なソフトだ。(ソフトが馬鹿というだけでなく、馬鹿な原則が国民に流布しているのが原因だろう。いつからこれほど馬鹿になってしまったのか。……)
【 参考情報 】
詳細は、次のサイトに調査がある。
→ http://d.hatena.ne.jp/ogwata/20080616/p1
【 関連項目 】
→ 新常用漢字
→ 新常用漢字2(第一次案) (前項)
→ 新常用漢字の基準は中国語か (次項)
→ 文字用例の検索
で、「萌」の字がないことを指摘しました。
「萌え」と書けないんですよ!!!
タイムスタンプは下記。 ↓
「勃興」「勃発」「ほ乳類」
ま、「ほ乳類」なら、小学3年生でも知っているようですよ。ネットで見ると。
本サイトでも「哺乳類」は数え切れないぐらい多数現れますが、「勃興・勃発」は合計2回だけです。
最近、目に余りますね。こと国語に限らず。
関係者や一般国民の意見も聞かず、突っ走っている感があります。
優秀な官僚が居なくなっているのでしょう。