常用漢字の改定が予定されているという。そのこと自体は問題ない。
問題は、字体だ。どういう字体を用いるべきか? ──
まず、ニュースを示す。(2008-05-13 )
基本情報は、朝日のサイトにある。(文字 220字の画像もある。)
「文化審議会国語分科会の漢字小委員会が12日、常用漢字に新たに加える可能性がある候補の素案として220字を公表した。これをたたき台として議論を重ね、10年に新常用漢字表(仮称)の制定をめざす。」
→ http://www.asahi.com/culture/update/0512/TKY200805120255.html
──
具体的な字種については、次を参照。
→ 新常用漢字2(第一次案)
→ 新常用漢字3(第二次案)
──
さて。ここで、字体について考察しよう。
すでにある常用漢字は、新字体(略字体)である。
一方、先に国語審議会が答申したのは、「印刷標準字体」であり、これは正字体である。
ここで、新たに追加する分については、どうするべきか? 次のように、二通りが考えられる。
(1) すべて略字体
すべて略字体にすれば……
・ 常用漢字としての統一は保たれる。
・ 世間にある既存文書やパソコンとの不一致が生じる。
(2) すべて正字体
すべて正字体にすれば……
・ 常用漢字としての統一は保たれない。
・ 世間にある既存文書やパソコンとの不一致が(ほぼ)生じない。
──
以上のように、長短があり、どちらとも決めかねるかもしれない。賛否両論だろう。
とはいえ、(1) のようにすれば、大混乱が起こる。すでに人々が使っている字体(しかも、国語審議会から「駄目」とだめ出しが出された字体)を使うことになる。朝令暮改だし、みっともないし、非合理的。
よく考えてみれば、「常用漢字内の字体の統一」など、何の必要もない、とわかる。なぜなら、もともと常用漢字の内では、字体の統一はなされていないからだ。
たとえば、 龍 は 竜 になるが、 襲 は正字のままだ。また、 晝 は 昼 になるが、 書 は正字のままだ。
とはいえ、(2) のようにするのも、具合が悪い。というのは、パソコンでは、正字がうまく使えるわけではないからだ。たとえば、「頬」や「剥」などは、正字が使えない。
( unicode では使えるが、シフトJISでは使えない。2004JISでも駄目だ。)
──
以上のことを勘案して、私としては、次のことを提案する。
「パソコンの字体に統一する」
正確に言えば、こうだ。
「シフトJIS(2004版の)の字体に統一する」
もう少しわかりやすく言うと、こうなる。
「たいていの字体は正字だが、シフトJISでは出せない字体については、略字体にする」
具体的にはどのような文字が該当するかについては、次のページを参照。
→ http://openblog.meblog.biz/article/55161.html
※ これを見ればわかるように、「ちょっと見て済む」というような
簡単な話ではない。じっくりと考慮する必要がある。
パソコンと国語との、双方の知識が必要だ。
担当の委員には、じっくり勉強してもらいたい。
【 追記 】
「パソコンの字体に統一する」
という方針を取った場合、次の問題が発生する。
「正字体(旧字体)の新常用漢字が誕生するので、字体の統一が取れなくなる」
たとえば、次の文字だ。
曾 嘲 溺 僅 惧 煎 憚 哨 彙 捗
僧 朝 弱 謹 具 前 単 肖 録 渉
( ※ 下段は、同一の部分字形をもつ文字 )
この問題を回避するには、次のようにすればいいだろう。
「正字体(旧字体)の新常用漢字については、『読めるだけでよく、書けなくてもいい』というものにする」
この案では、次の二通りになる。
・ 常用漢字の拡張(読めるし、書ける)
・ 準常用漢字。(読めるだけでよく、書けなくていい。)
正字体(旧字体)の文字は、後者に含まれることになる。
そして、このようにした場合のみ、特に混乱なく、新たな常用漢字を採用することができる。
一方、単に「常用漢字の文字数を増やす」というふうにした場合、次のいずれかの問題が発生する。
・ 正字体のままなら → 常用漢字の枠内で、部分字形が不統一になる。
・ 略字体にするなら → パソコンの文字との不整合が生じる。
なお、この二つのうち、後者は最悪だろう。というのは、先に 2004JIS で決めたのは、「印刷標準字体」であって、国語審議会の決めた国定の方針だからだ。それを朝令暮改することになる。いや、もっと悪い。
略字体 → 正字体 → 略字体
というふうに、無用の混乱を生むことになる。馬鹿馬鹿しくて、世界の物笑いになるだけだ。
しかも、「略字体 → 正字体」は世間の支持を得たが、今回の「正字体 → 略字体」は、「83JISの再来」とばかり、世間の批判を浴びるだろう。「同じ具を繰り返すつもりか!」と。
そういうわけであるから、「新常用漢字は、二つのものに分ける」(一方は重要感じにする)という方針は、必要不可欠である。
とはいえ、当の審議会は、第一次案ではその方針を取ったのにもかかわらず、第二次案ではその方針をひるがえしてしまった。(すべてを同一の「新常用漢字」という一種類のものにまとめる方針にしてしまった。)
こんなことでは、字体の混乱、というも問題が起こるはずだ。……その点、明白に注意を喚起しておく。
( ※ なお、上の「曾 嘲 溺 僅 惧 煎 憚 哨 彙 捗」という文字は、日常生活において特に必要性の高い文字ではない。あればあるで便利だが、どうしても使う必要があるというほどでもない。他の文字を使う単語で代用することができるものが多い。一方、「哺乳類」などは、他の文字や単語では代用ができない。したがって、「哺」は普通の常用漢字に是非とも入れるべきだが、「曾 嘲 溺 僅 惧 煎 憚 哨 彙 捗」などは準常用漢字であっても差し支えない。)
【 参考サイト 】
http://d.hatena.ne.jp/ogwata/20080514/p1
http://d.hatena.ne.jp/ogwata/20080516/p1
http://yeemar.seesaa.net/article/89733724.html
【 関連項目 】
これ以後も、常用漢字についての話を何度も書いた。
→ サイト内検索「常用漢字」
2008年05月13日
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