2008年04月26日

◆ 有害サイト規制

 有害サイトの規制について法制化の動きが出ている。ソフトバンクの孫正義社長が、「フィルタリング」サービスという営利事業を重視する立場から、これに反対しているが…… ──

 詳しくは、朝日新聞の記事。(朝刊・第三社会面・小さなコラム記事 2008-04-26 )
 その趣旨は「有害サイトの規制が必要だからといって、国が手を出すな。おかしいぞ」というもの。孫社長の言葉によると、「包丁が有害だからといって、包丁を禁止するのはおかしい」という比喩。
 なお、ネット状には、次の記事がある。
 ソフトバンクの孫正義社長は25日、記者団に対し、青少年保護を目的としたインターネットの有害情報を閲覧制限する「フィルタリング」サービスを「せっかく健全に(フィルターを)掛けていこうという努力を積み上げている段階」にある中で、一部で出ている極端な法制化を目指す動きを「危険な議論だ」と語った。国が検閲に踏み込むことになり、憲法の議論を呼ぶことになると指摘した。
( → 
 ま、彼の狙いは、「営利事業に国は口を出すな。おれたちの金儲けを邪魔するな」というものだろう。そのために「規制緩和」や「自由経済」を名分にしているわけだ。

 ま、たしかに、「一部で出ている極端な法制化を目指す動き」というのは、問題がある。ネットの本質も知らないIT音痴の議員が、「何でも規制してしまえ」というものだから、これはまったく困ったものだろう。その意味では、孫社長の趣旨は正しい。
 しかし、だからと言って、彼の言うように、「すべておれたちに任せれば問題なし」というのも、独りよがりすぎる。我田引水ふう。
 要するに、IT音痴の議員も、IT営利企業の社長も、どっちもどっちだ。目くそ耳くそのようなもの。五十歩百歩。

 ──

 では、正しくは? 
 「有害サイトの存在は困る」
 というのは、まぎれもなく事実である。次のような例がある。
  ・ フィッシング詐欺
  ・ メールで勧誘した詐欺
  ・ ウィルスの頒布
  ・ 児童ポルノ

 
 もちろん、これらだけでなく、類する違法なサイトはたくさんある。
 なお、似ているが、メールによる勧誘をする迷惑メールもまた、有害メールとして、いっしょに考えていいだろう。
 これらの「有害サイト」や「有害メール」は、なるべく排除するべきである。しかるに、民間の営利事業の業者に任せている限りは、それはおぼつかない。

 ──

 となると、当然、何らかの規制が必要となる。
 そこで、「法で規制を」というのが、一部のIT音痴の議員の方針なのだろう。しかし、迷惑メールの規制法案で見てもわかるように、「罰金百万円」というぐらいの法規制では、迷惑メールはちっともなくならない。罰則ぐらいでは駄目なのだ。

 では、どうするべきか? 私は次のことを提案する。
  ・ インターネット上に、仮想的な「安全ネット」を構築する。
  ・ 「安全ネット」への接続(受信)は、プロバイダがその設定を提供する。
  ・ 一般利用者は、「安全ネット」だけに接続するのを原則とする。
  ・ 「安全ネット」は、登録制とする。
     …… 普通の大学や官庁や企業などは、個別に登録する。
     …… 個人は、プロバイダを経由して、登録する。
  ・ 個人が「安全ネット」から発信するのは、プロバイダ経由。

 以上のようにして、安全ネットに対しては、しっかりと「登録制」を維持する。その上で、次のような罰則を設ける。
 「有害なコンテンツを含むサイトがあれば、保証金の没収」

 
 この保証金は、かなり高額にする。最初は高額で、2年ぐらいたったら、半額ぐらいを返済して、5年ぐらいで全部返済する。これで、有害なコンテンツを防止できる。

 なお、各サイトには自主的に「成人指定」などのレーティングを表示させる。その表示があればポルノの発信も可能だが、その表示がなければ「違法表示」として保証金が没収される。
 ただし、表示の違反ぐらいならば、悪質性は低いので、罰金はあまり高額ではない。

 また、「ついうっかり」のこともあるので、最初の十日間ぐらいは、猶予を認める。継続的に有害情報を発信する場合のみ、罰金を課する。

 ──

 実施例。
 プロバイダは個人顧客に、次のことを求める。
 「有害なコンテンツを含まないこと」
 「ポルノなどのレーティングを表示すること」
 いずれも、その通りにしなければ違約金を請求する、と契約する。

 プロバイダは定期的にサイトをチェックして、有害サイトを見つけたら、強制的に削除し、かつ、顧客から違約金を徴収する。
 それが十日間以内であれば、プロバイダは罰金を課されない。それが十日間以上も放置されれば、プロバイダが安全ネットから罰金を課される。

 個人顧客は、有害情報を流さなければいい。また、ポルノ情報を流す場合には、きちんとレーティング表示をしておく。

 一般の家庭では、次のようになる。
  ・ 安全ネットに接続するだけなので、有害サイトには接続されない。
  ・ ポルノなどな、発信者自身によってレーティングがされているので、
   好みにより、遮断するか、または、こっそり見る。

 ──

 要するに、こうだ。
 「情報の制御は、情報技術による。法によって一律に規制するのではない」

 これがIT時代の方法だろう。「とにかく規制」という保守派政治家の発想も、「とにかく自由化」という孫社長の発想も、IT時代には遅れているのだ。
 「ITの問題が生じたら、新たなIT技術で解決する」

 というのが、新時代の発想だ。



  【 追記 】
 質問があったので、答えておこう。

 Q 有害か無害かの判断は、誰がするのか?


 基本的には、組織の「判断委員会」みたいなものが判断する。内容は、「合法か否か」である。フィッシング詐欺や、ウィルス頒布のような、明白な犯罪性を持つものを規制する。

 Q 違法ではないもの(性的ないし暴力的なもの)は?

 
 規制はしないで、レーティング表示のみを義務づける。
 それを見るか否かは、各人が自分の設定で決める。(例。「暴力は非表示、ポルノは表示」)
 レーティングに違反した場合のみ、表示違反の罰金がかかる。

 Q ミクシィのようなものか?


 大幅に違う。特定会員の限定組織ではなくて、原則としてすべての人が加入する。ここに加入しない人の方が例外的である。(大学や企業のネット研究者など。)
 普通の人は、プロバイダ経由なので、自動的に安全ネットに加入する。安全ネットではなく、裸のままのインターネットに加入するのは、相当に難しい。今だって、たいていの人は、プロバイダ・会社・学校などを経由しているはずだ。これらの組織が安全ネットにつなぐので、普通の人は誰しも安全ネットにのみ加入する。
 ただし、安全ネットに加入する組織(会社・団体・プロバイダ)にとっては、ミクシィのようなものに感じられるだろう。一方、普通の人にとっては、単に「インターネットが安全に使える」というだけのことだ。

 Q 直感的にわかりやすく言うと?


 自由放任の原始社会に変わって、近代的な国家社会を作る、ということに相当する。
 自由放任の原始社会では、各人がどんなエゴでもやり放題である。そこでは弱肉強食の原理で、悪人が弱者を食い物にする。一方、近代社会では、法と秩序が社会を支配する。誰もが法と秩序を守る必要がある。しかも、そこには、いちいち加入する手続きは必要ない。そこに生まれた時点で、もともとそこに加入することになる。そこから離脱して、自分勝手なことをすることは可能だが(たとえば漂流して無人島で勝手なことをするなど)、そういうことをするには、特別な手続きが必要である。
 「もともとある無秩序な世界のなかに、秩序ある社会を形成すること」
 これが安全ネットの意義だ。一方、今のネットは、無秩序な原始社会である。そこには法もないし、他人に迷惑をかける悪人を罰する仕組みもない。だから、フィッシング詐欺やら、スパムメールやら、他人に迷惑をかけて金儲けしようとする連中が現れる。

 ──

 現代社会は、ネット時代に追いついていないのだ。「だから追いつけるようにしよう」ということが、本項の趣旨だ。
 現代では、ネット上には、バーチャル世界もバーチャル悪党も存在するが、バーチャル警察やバーチャル裁判所は存在しない。悪はあっても、正義はない。そのような未発達な状態にある。現代のバーチャル社会は、おおよそ歴史における中世に相当する。
( ※ 中世という言葉の意味を理解するには、歴史をきちんと勉強しておく必要があるのだが、今の若い人には無理でしょうねえ。)
posted by 管理人 at 18:10 | Comment(8) | コンピュータ_01 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ミクシイのようにするわけですね。ウイルス、フィッシング、
児童ポルノのような、誰が見ても有害なサイトへのアクセスを
機械的に取り除くことが出来る点で、無駄の無い非常に良い
案だと思います。

ただ、最大の問題は、有害無害の判断は誰が下すのか。
この点の解決方法としては微妙な所だと思います。
特定の政治志向(左、右、極左、極右)や、
趣味嗜好(車はトヨタかホンダか、など)については
判断をする主体によって変わるものと思います。
もちろん、根拠の無いバッシングは有害だと思いますが、
単純な好き嫌いを書いただけであれば有害とは言えない
でしょう。

有害か無害かがすぐに判別の付かない、グレーゾーンについて
どう扱うのかについて、国やプロバイダ、ユーザも含め、
ある程度コンセンサスを取る必要があると思います。
Posted by tanimura at 2008年04月27日 20:37
上の質問にお答えする形で、【 追記 】を記しておきました。
 タイムスタンプは下記。   ↓
Posted by 管理人 at 2008年04月27日 22:13
南堂さんの提案する「安全ネット」の部分なのですが、
「ホワイトリスト型フィルタリングサービスの義務化」と結果はどう違ってくるのでしょうか?
実装方式が違うのは想像出来ますが、結果自体は同じではないかと私には思えます。

一番の特徴は登録制の部分かと思われますが、その形式だと海外サイトが一律に非登録状態になりかねないと思われます。

そうなった結果
・海外サイトが見れない「安全ネット」
・海外サイトも見れる通常のインターネット
になってしまい、結局後者を選ぶ人が多くなって無意味になりそうに思うのですが……。
(後者を『選べない』となると、もはや某国の情報規制付きインターネットと同じになり、間違いなく大反対されます)

危険(?)サイトの管理者も、海外サーバーに設置して「登録義務」から逃れそうですしね。
Posted by pochi-p at 2008年04月28日 20:58
> 「ホワイトリスト型フィルタリングサービスの義務化」と結果はどう違ってくるのでしょうか?
 
 結果はほぼ同じですね。ただし、「全員一律に参加する」という点が異なります。

> その形式だと海外サイトが一律に非登録状態になりかねないと思われます。

 「ホワイトリスト型フィルタリングサービス」ならばそうですが、全員一律タイプならば、海外サイトもすべて網羅的に参加することになります。今だってWWWには全員が網羅的に参加しています。それと同様な「新WWW」を作成するわけ。ただしそこでは、ある種の規制が働いている。
 本当ならば、現在のWWWそのものが規制を持てばいいのだろうが、そういうわけには行かないから、WWWの内部に「仮想WWW」を作るわけ。この「仮想WWW」が「安全ネット」と呼ばれます。
Posted by 管理人 at 2008年04月28日 21:44
違法コンテンツを除去するシステムでは、ニコニコ動画のMADのように、著作権法上問題があるが全部禁ずると重大な文化破壊の恐れがある代物はどうすればいいと思われますか?
Posted by Chic Stone at 2008年04月28日 22:12
解説ありがとうございます。
なるほど、国内限定ではなく全世界で参加するわけですね。
Posted by pochi-p at 2008年04月28日 23:35
著作権法違反のサイトは、利用者にとっては有害なサイトではないので、ここでは考慮していません。国内法で対処するしかないのでは? 全世界規模で対処するのは難しそうですね。

ついでに言えば、JASPAC というのも合法的に他人の著作権を食い物にする団体です。こっちを処罰する方が先決だと思うが、天下りの場所だから処罰されない。道路族も似たようなもの。

経済犯罪にまで踏み込むのは大変そう。
Posted by 管理人 at 2008年04月29日 00:24
興味深く拝見させていただきました。いくつか質問があります。

@安全ネットを構築して、そこを通過する必要がある以上、ネット検閲になると感じたのですが、そこは容認するという考えでしょうか。安全ネットというのは、規制の存在しない原始ネット上に存在させるネットということですよね。となると、安全ネット上に個人がサイトを新規立ち上げしようとすると、検閲を受けてから立ち上げとなるのでしょうか。

A日記から4年経った現在ですが、考えが変わった点や、補足する点などがあればお伺いしたいです。
Posted by Satoshi at 2012年05月12日 01:35
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