有性生殖の意義は何か? 有性生殖は無性生殖に比べて、数を増やすという点では明らかに不利なのだが。……この問題では、「量」よりも「質」に着目するといい。 ──
( ※ 本項の実際の掲載日は 2010-02-02 です。)
有性生殖の意義は何か? ── この疑問は、しばしば唱えられる。なぜか? 数を増やすという点では、有性生殖は無性生殖に比べて、不利だからだ。
この件は、Wikipedia にも示されており、いくつかの仮説が紹介されている。
→ Wikipedia
しかし、そのいずれも、説得力を持たない。なぜか? そもそも、その根源が狂っているからだ。その根源とは、
「数を増やすものほど進化する」
という原理だ。
なるほど、この原理は、ダーウィニズムの原理であり、間違いではない。ただし、それが正しいのは、小進化の範囲に限られる。小進化では、数を増やしたものが進化する。しかし、大進化では、そうではない。
大進化で大事なのは、「数の増加」ではなく、「質の向上」をもたらすことである。そして、「質の向上」があれば、新しい環境に進出することができる。そこでは、もともとライバルはいないのだから、「優勝劣敗」の原理とは別の原理により、種を存続させることができる。
ダーウィニズムでは、「新しい環境への進出が進化をもたらす」と説明するが、クラス進化論の考え方では、「進化が新しい環境への進出をもたらす」と説明する。たとえば、翼のないものが空にむかってジャンプしたから翼を生やしたのではなく、翼を生やしたものがいるから空にむかって飛び立てたのだ。
ここでは、「数を増やすものが有利」(優勝劣敗)なのではなく、「質を向上させたものが新環境に進出できる」(分岐)というだけのことだ。(なお、分岐しないこともある。同じ領域に残ることもある。その場合には、旧種はやがて淘汰されてしまう。)
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では、何が大進化をもたらすか? それはクラス進化論でのテーマだから、ここでは論じない。ここで論じるのは、性の意義だ。
クラス進化論では、進化をもたらす原理としては、「性による交配」が重要となっている。そして、性による交配がなされるためには、「性」があらかじめ必要だ。
つまり、「性」こそは、大進化をもたらす基盤となる。「性」の意義は、「数を増やすことにとって有利である」ということではなく、「大進化をもたらす基盤である」ということだ。そして、「大進化」とは、「数の増加」を意味するのではなく、「質の向上」を意味する。
結局、「性」の意義は、「数の増加」でなく、「質の向上」のために、基盤を提供することなのである。
( ※ 「数の増加」は小進化の原理だが、「質の向上」は大進化の原理である、という点に注意。)
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こうして、有性生殖の意義はわかった。
有性生殖は、無性生殖に比べて、量的に有利であるわけではない。つまり、数を増やせるわけではない。実際、有性生殖の生物に比べて、無性生殖の生物は、圧倒的に数が多い。細菌類の数は、数えられないくらいに莫大な数になる。小さな容器に入っている細菌の数が人類の総数を上回る、ということすらある。
有性生殖は、無性生殖に比べて、量的に有利であるのではなく、質的に向上しているのである。そして、質的に向上するということの意味は、個体の高度化・複雑化ができるということだ。(たとえば、哺乳類のさまざまな器官は、多細胞でできていて、非常に複雑な構造をもつ。)
進化の本質は、質的な向上なのだ。
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ただし、質的に向上すると、エラーも起こりやすくなる。エラーとは、突然変異による有害な遺伝子の発生だ。
このようなエラーは、無性生殖の生物では、どんどん蓄積する一方だ。しかし、有性生殖の生物では、交配により、このようなエラーを減じることができるし、また、このようなエラーを隠すこともできる。(二つの遺伝子が対になっていて、一方がエラーを起こしても、それが劣性遺伝子となり、発現しないことが多いから。)
こうして、有性生殖の生物では、個体の高度化・複雑化にともなう弊害を、回避することができる。
一方、無性生殖の生物では、個体の高度化・複雑化にともなう弊害を、回避することができない。それゆえ、無性生殖の生物では、個体の高度化・複雑化ができない。(もし高度化・複雑化すれば、それにともなってたくさん生じるエラーを回避できないので、滅亡する。)
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結局、次のようにまとめることができる。
・ 有性生殖
…… 大進化が可能 (交配あり)
…… 個体の高度化・複雑化が可能 (エラーを回避できる)
・ 無性生殖
…… 大進化が不可能(交配なし)
…… 個体の高度化・複雑化が不可能(エラーを回避できない)
無性生殖は、数の増加を原理とする。有性生殖は、質の向上を原理とする。
この違いを理解することが大切だ。「進化の原理は、数を増やすことだ」と考えていると、根源的な勘違いをすることになる。すると、Wikipedia の疑問のように、出口のない問答のなかを、堂々めぐりすることになってしまう。(正解にたどりつけない。)
( ※ たとえば、ドーキンスがそうだ。「遺伝子は数を増やそうとする」ということを原理として、学説を組み立てた。その原理は、「数の増加」である。そのことは、無性生殖や小進化には適用できる。しかし、有性生殖の大進化には、適用できない。この点を勘違いしたから、「ミツバチは自分の遺伝子を増やそうとする」というようなトンチンカンな結論を出してしまうのだ。この件、あちこちで何度も述べたとおり。 → サイト内 検索 )
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最後に、まとめふうに言おう。
「数を増やすため」であれば、有性生殖を取る必要はない。むしろ、無性生殖の方が有利だ。そして実際に、この世界では無性生殖の生物の方が圧倒的に多い。単細胞の細菌類は、多細胞の有性生物よりも、圧倒的に多い。
しかしながら、この世界には、有性生殖の生物も誕生した。それらは、数を増やすことのかわりに、質を向上させた。そして、質の向上こそが、進化と言われる。
性は、進化をもたらしたのだ。進化の基盤は、性なのだ。この世界において、単細胞生物は「数の増加」ばかりをめざしていたが、有性生殖の生物は「進化」をめざしていた。そしてまさしく進化をなし遂げたのだ。
( ※ 逆に言えば、「数の増加が進化をもたらした」という説は成立しない。ただし、「数の増加が小進化をもたらした」という説は成立する。 → 進化と変化 )
【 関連項目 】
本項の内容は、これまでに述べた話を、簡単にまとめたものだ。詳しくは、次の各項を参照。
→ 生命の本質とは?(自己複製?) (生命の本質は「自己複製」でない。)
→ 有性生物と無性生物 (性の有無が決定的に重要なことだ。)
→ 進化の本質 (進化の本質は、質の向上だ。)
→ 小進化と大進化 (大進化の原理は、交配である。)
→ 性の誕生(半生物を越えて) (性は、質の向上と進化をもたらす。)
→ 近親婚と有性生殖 (性は遺伝子のエラーを回避させる。)
→ ほぼ中立説/ノイズ効果 (エラーは自然淘汰では除き尽くせない。)
→ 有性生物の本質 (利己主義とは異なる原理が働く。)
→ 性の誕生(半生物を越えて) (性の本質。さまざまな意義。)
2008年04月14日
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