2008年04月12日

◆ 近親婚による絶滅

 欧州の名家であるハプスブルク家は、近親婚ゆえに衰退していった、という話がある。 ──
    ( ※ 本項の実際の掲載日は 2010-01-26 です。)


 ハプスブルク家(→ 動画 )は近親婚を繰り返したが、そのせいで遺伝病にさいなまれた。特に、「血友病」で。これは有名な話だ。
  → Google 検索 「ハプスブルク家 血友病」

 ところが、血友病だけでなく、もっとひどい病気も含めて、さまざまな遺伝子疾患にさいなまれていたらしい、という記事がある。ちょっと古い記事だが、抜粋しよう。
 《 スペイン・ハプスブルク家、断絶の原因は「近親婚」か 》
 帝国の絶頂期にあったスペインに君臨したハプスブルク(Habsburg)王朝は、近親婚による遺伝性疾患が原因で断絶した可能性があるという研究結果が15日、米オンライン科学誌「PLoS ONE」に発表された。
 ハプスブルク家は血筋を維持するために、世代が下るごとに近親婚が増えた。11の結婚のうち9組が「3等親以内の親族」との結婚だったという。
 ハプスブルク家の歴代の王の近親交配の程度を表す「近交係数」をコンピューターで計算した。
 するとスペイン系ハプスブルク家の近交係数は、初代のフェリペ1世(King Philip I)では0.025だったのに対し、代を追うごとに上昇し、カルロス2世では0.254という数字に達した。0.20という高い数値を上回るメンバーが複数いたことも明らかになった。研究チームでは、近親者同士の度重なる結婚が、カルロス2世の遺伝性疾患の原因となった可能性があると結論付けた。
 同研究によると、カルロス2世は身体に障害を持ち、心身喪失状態だった。当時の文献には、カルロス2世が話せるようになったのは4歳、歩けるようになったのは8歳になってからだったと記されている。また晩年は立ち上がることも困難で、幻覚に悩まされ、ひんぱんにけいれんを起こしていたという。また性的に不能でもあり、結局はこれがハプスブルク家の断絶を招いた。
( → AFPニュース 2009年04月16日 )
 ──

 このことからもわかるとおり、近親婚というものは有害だ。では、なぜか?
 このような遺伝病をもたらす遺伝子は、劣性遺伝子であることが多いのだが、近親婚をすると、劣性遺伝子が二つ揃うので、遺伝子病が発現してしまうからだ。
 一説(の推定)によると、このような劣性遺伝子は、普通の人は平均して7〜8個ぐらいもっているらしい。ただし、ダブることはめったにないから、普通は発現しない。とはいえ、近親婚をすると、容易に発現してしまう。

 この逆が、「雑種強勢」である。同じ地域でなく遠く隔たった地域の個体と交配すると、その子は両親よりも強い形質をもちやすい。たとえば、同じ島や村の日本人よりは、日本人と西洋人の方が「雑種強勢」になりやすい。……こういうことは「近親婚」の逆概念だと理解するといい。

 ──

 ところが、ドーキンスの利己的遺伝子説だと、このことをうまく説明できない。それどころか、逆のことを結論してしまう。
 「生物は自分の遺伝子を増やしたがる。近親交配をすれば、自分の遺伝子を増やすことができるので、生物は近親交配をしたがるはずだ」

 たとえば、姉と弟が近親相姦をしたり、父と娘が近親相姦したりする。そうすれば自分の遺伝子を増やすことができるので、そうするのが生物として当然のことだ……という理屈。(げっ。気持ち悪い。)

 この件については、前にも同様のことを述べた。
  → 近親婚のタブー(自分の遺伝子)

 ドーキンスの利己的遺伝子説のように、「自分の遺伝子を増やそう」として生物が行動すれば、かえって「お家断絶」のようなことになってしまうのだ。
 なぜか? 「自分の遺伝子」には、欠陥遺伝子もまた含まれるからだ。そういうものを増やそうとすれば、確かに増えていく。(ハプスブルク家のように。)だが、欠陥遺伝子が増えすぎたせいで、かってお家断絶のようになってしまうのだ。(自分の遺伝子全体が絶滅、という結果。)

 ──

 では、どうして、こういうことが起こるのか? その理由は、ドーキンスの利己的遺伝子説は、基本的には「無性生殖の理論」だからだ。( → 生命の本質とは? (自己複製?)
 ドーキンスの利己的遺伝子説は、無性生殖の自己複製を前提とした上で、「遺伝子は増えたがる(そのために個体を遺伝子の乗り物にする)」という結論を下した。
 そこには、無性生殖の原理はあっても、有性生殖の原理はない。当然、「交配によって劣性遺伝子が隠される」というような原理はない。(それを否定しているわけではないが、「利己的遺伝子説」のなかには、「有性生殖」や「交配」という概念は含まれていない。)

 本当を言えば、生物は、自分の遺伝子(正確には自分の遺伝子セット)を保とうとはしていない。むしろ逆に、遠く隔たった遺伝子と結びつこうとしているのだ。つまり、近親婚とは逆のことをしようとしているのだ。
 そのことは、あらゆる有性生物に見られる。たとえば、ライオンの若いオスは、プライドという群れを離れて、遠くへ旅をして、遠くの集団にいるメスと交配しようとする。また、ミツバチのオスは、群れのメスとは交配せず、遠くのメスと交配しようとする。……要するに、なるべく自分の遺伝子セットを他のものとシャッフルさせようとしているのだ。

 ドーキンスの利己的遺伝子説は、ある点では正しい(特に「遺伝子淘汰」という点では。)しかしながら、血縁淘汰説を説明しようとして、「自分の遺伝子」という概念を導入したとき、彼は根本的に間違えてしまった。
 そして、彼の「自分の遺伝子」という概念がいかに間違っているかを、ハプスブルク家の衰退という事実が、私たちに教えてくれる。

 [ 付記 ]
 数字を使うと、いっそうよくわかる。記事では、
 「カルロス2世では0.254という数字」
 という例が示してある。この数字が高いほど、近親度が高い。そうなると、近親相姦に近くなり、遺伝病が発現しやすくなる。高ければ高いほど、その結婚は生物学的に悪い。
 ところが、この数値は、血縁淘汰説の使う数値にそっくりだ。この数値が高ければ高いほど、自分の遺伝子を多く残せることになる。それは、血縁淘汰説や利己的遺伝子説では、自分の遺伝子にとって有利だとされる。(アホくさ。)



 【 関連項目 】

  → 自分の遺伝子 (サイト内検索)
posted by 管理人 at 21:48| Comment(0) |  生命とは何か | 更新情報をチェックする
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