「最初の生命はどういうふうに誕生したのか?」
この謎について、興味があれば、お読み下さい。 ──
生命の起源は、何か? 細菌以前には、いったい何があったか? これについて、本項は仮説を出す。それは
「ウィルスが起源だ」
というものだ。
ウィルスというものは、今日、非生物と生物の中間的な存在と見なされる。とすれば、進化の歴史でも、これが中間的な存在として橋渡しをしただろう、と推定するわけだ。
( ※ それだけを聞くと、いかにも素人っぽい発想だが、以下ではちゃんとした裏付けも示す。)
( ※ なお、ここで言うウィルスには、RNAウィルスとDNAウィルスの双方が含まれる。)
──
本項の仮説は、おおざっぱに言えば、「ウィルス起源説(ウィルス起源論)」と言える。
ただし、この手の理論は、すでに世間でも知られている。だから、私の独自の見解というほどではない。ただ、私なりにいろいろと考えたすえ、これと同様の見解に達した。ただ、世間ですでに知られた説と、私の説とは、いくらか違いもある。その違いについては、おいおい示すことにしよう。
とりあえず、ここでは、「ウィルス起源説」という大枠を示しておく。
このあと、いよいよ、詳細を論じよう。
─────────────────
まず、生命の起源については、謎があった。
「細菌のような生物がいきなり誕生するはずがない」
つまり、原始の海にアミノ酸があったとしても、そこから細菌のような生物がいきなり誕生するはずがない。水素と酸素を混ぜれば水ができるかもしれないが、アミノ酸を混ぜたって細菌はできない。生命の誕生は簡単ではないのだ。
生命の誕生には、何が必要か? 私なりに整理すれば、四つの条件がある。
・ 膜が必要だ
・ 膜を形成するDNAも必要だ
・ 自己複製能力も必要だ
・ 活動することも必要だ
この四つがいずれも必要である。仮に、どれかが欠けていれば、次のようになる。
・ 膜がないと、バラバラになる。(個体になれない)
・ DNAがないと、自己複製能力が(たぶん)ない。
・ 自己複製能力がないと、すぐに滅亡する。
・ 活動することがないと、死んだ状態
──
というわけで、四つの条件が必要となる。
しかしながら、この四つが同時にすべて成立するというのは、あまりにも虫のいい期待だ。このうちのただ一つでさえ、容易ではないのに、四つがすべて同時に起こるということは、ありえそうにない。四つとも同時に起こるということは、確率的に絶対ありえない、と結論してもいいだろう。
そこで、論理的に、次のことが結論される。
「生物以前のものとして、上の四つの条件のすべてを満たさず、(三つ以下の)いくつかを部分的に満たすだけの個体が、存在したはずだ」
このような個体を「前生物」と呼ぼう。
では、前生物とはいったい、何か? 私はそれをウィルスだろう、と想定する。(上記の論理から得られる、私なりの結論。)
──
先の四条件に照らすと、ウィルスは次のようになる。
・ 膜が必要だ → 膜はない。 (ただし殻はある。)
・ 膜を形成するDNAも必要だ → DNA または RNA がある。
・ 自己複製能力も必要だ → DNAならば可能。
・ 活動する → したり、しなかったり。
こうしてみると、四条件のうち二条件だけを満たす。この意味で、生物以前のものであり、「前生物」と呼ぶにふさわしい。
したがって、ウィルスを「生物の起源」と見なすことには、一応の妥当性がある。
──
ただし、ウィルス起源説には、難点がある。次のことだ。
「ウィルスは、生物に寄生するものだ。生物がいるから、生物に寄生するウィルスがいる。先にウィルスが登場するというのは、順序がおかしい」
これはこれで、もっともだ。ただし、現状がそうだからといって、過去でもそうだったとは限らない。そこで、理論の穴を埋めるために、次のような説が考えられた。
まず、「RNAワールド」説がある。次の説だ。
「当初は、RNAだけの世界があった」
( ※ ここでいう RNA は RNAウィルスと考えてもいい。)
また、「プロテイン・ワールド」説がある。次の説だ。
「当初は、タンパク質だけの世界があった」
──
しかし、この二つの説のどちらも、一長一短である。そこで私は、次のように考えたい。
「ウィルス(RNAウィルス ,DNAウィルス)およびタンパク質が、混在している世界。そこでウィルスが増殖する」
ここでは、生物はまだ誕生していないが、ウィルスは存在している。生物に寄生するかわりに、タンパク質の海を利用することで。
つまり、先の「生物のあとでウィルスが登場したはずだ」という否定的見解に、一応、対抗している。(信頼性が不十分なのは認めるが。)
さて。こうしてウィルスがいろいろと出現したとしよう。そのあとで、突然変異により、膜を形成する遺伝子ができたのだろう。いったん膜を形成する遺伝子ができれば、そこから膜ができるので、ウィルスから生物が誕生する。(一応)
なお、ここで必要なのは、「膜を形成する遺伝子ができる」という突然変異だけだ。そのことだけなら、特に難しくはないだろう。
──
ただし、注意。こうしてできた生物は、まだ自分でエネルギーを作り出す機能をもたない。
では、どうするか? 外部からエネルギーをもらうしかない。
そのような原始的な生物は「好熱菌」であったと思える。これは、現在の生物に当たる細菌とはまったく別のグループに属し、「古細菌」と呼ばれるものだ。
この好熱菌(古細菌)が、通常の細菌の前身であると思える。つまり、こうだ。
ウィルス → 好熱菌(古細菌) → 通常の細菌
──
以上をまとめよう。
進化の順序は、(新しいものから順に並べると)次のようになるだろう。
有性生物
無性生物(単細胞生物・半生物)
古細菌 (好熱菌)
ウィルス (RNAウィルス、DNAウィルス、タンパク質の混在)
アミノ酸のスープ (原始の海)
なお、従来の説と違うのは、次のことだ。
「生命の誕生は一本道で進んだのではない」
というのは、「RNAウィルス、DNAウィルス、タンパク質」という三つが並行的に混在しているからだ。
つまり、RNAワールド単独でもなく、DNAワールド単独でもなく、プロテイン・ワールド単独でもなく、その三者が混在していたことになる。その混在から、組み合わせの形で、初期の生命(好熱菌)が誕生したことになる。
なお、三者が混在において、主役はウィルスである。そこで、この仮説の名前は「ウィルス起源説」となる。
ただし、私の示す「ウィルス起源説」は、「三者の混在」を前提としているという点で、従来の仮説とはいくらか異なる。
(これにて、一応、おしまい。このあとは、オマケふうの話。)
[ 付記1 ]
本項の意図は、「仮説の提出」である。「これが絶対的に正しいぞ」と述べているわけではなく、「こういう考え方もできる」という提案だ。「学説」というよりは、ただの「思いつき」に近い。
本項に述べたことは真実であるか? 実は、私としては、あまり自信がない。ここには「絶対的な必然性」というものはなく、「それなりの必然性」があるだけだ。
おおざっぱに真実度を言うと、30%〜50%ぐらいだろうか。真実の 半分近くはつかんだと思えるが、残りの半分以上はまだ闇の中だ。
ただ、そうだとしても、それなりに合理的な説明ができる。その意味で、「生命の起源はまったくわからない」という状況よりは、少しは進んでいると思える。そのことだけが、本項の意図だ。
読者としては、「なるほど、そういう考え方もあるのか」と思うだけでいい。本項を丸ごと鵜呑みにして、「これぞ真実だ」と思うべきではない。「だいたいこんなものかな」と、おおざっぱに見当をつけるだけでいい。
[ 付記2 ]
なぜこのような仮説を出したか? その舞台裏を明かそう。この仮説を出したことには、わけがある。(考え方の必然性の理由。)
私の進化論では、考え方として、次のことがある。
「進化は段階的に進む。とすれば、過去の進化の痕跡は、類のレベルでは必ず残っている」
たとえば、「魚類 → 両生類 → 爬虫類 → 哺乳類」という進化の歴史があった。そして、それぞれの「類」は、過去のまま、現在に残っている。過去の生物は、「種」のレベルでは絶滅したものが多いが、「類」のレベルではしっかりと残っている。(なお、「種」のレベルでさえそのまま残っているものもある。シーラカンスなど。)
このことを前提とすれば、単細胞生物以前の原始的な生物も、今日の世界に残っていていいはずなのだ。そして、その具体的な例が、「古細菌」や「ウィルス」であった、と考える。
ダーウィン説によれば、あらゆる生物はどんどん突然変異していくので、「すべての生物は等しく進化している」ということになり、「今日でも昔の痕跡を残しているものはない」という結論になる。
私の説によれば、進化とは新種の誕生であり、あらゆる生物は進化がストップしている(小進化だけがある)ので、「すべての生物は進化しないでいる」ということになり、「今日でも昔の痕跡を残しているものはある」という結論になる。
このことから、先に述べたような仮説が得られる。
[ 補説 ]
ちょっと専門的な面倒な話。専門用語の理解が前提となる。(だから、読まなくてもよい。)
「自己複製」という機能だけについて言えば、生物の存在は必要なく、DNA の存在だけで可能だろう。
それを示すには「PCR法」の概念を用いればいい。
プライマーがたくさんある状況で、温度変化さえあれば、DNAはどんどん増殖していく。しかも、温度変化は、海底の熱水噴出孔のそばでは容易に得られる。(熱水噴出孔のそばでは温度が高く、離れたところでは温度が低い。水が循環していれば、熱変化のサイクルができる。)
こうして、「自己複製」という機能だけなら、「生物」はなくても DNAだけで可能となる。これが生物以前の「前生物」となりそうだ。
( ※ 生物の本質を「自己複製」と見なす立場からすれば、「DNAはそれ単独で生物だ」ということになりそうだ。特に、PCR法のタンクに入って自己複製をする DNAはそうだ。……しかし私の見解では「DNAは、生物ではなく、前生物だ」となる。その意味は「自己複製は、生物の本質とはならない」ということだ。むしろ、生物以前のものにある性質である。前生物やら、半生物やら。)
【 追記 】
すぐ上で述べたことは、のちに東大の実験で実証された。下記項目を参照。
→ 人工細胞/生命の起源
【 参考 】 ( 2009-05-12 )
内陸南極氷河の下で、微生物が発見された。光合成なしで、硫黄と鉄化合物のエネルギーを利用して、過去150万年間存在していたという。下記に引用しておこう。
外からの栄養供給や光、酸素がないという過酷な南極の氷河下の湖で、微生物が鉄分などを使って150万年以上も生き延びた仕組みを米ハーバード大などが解明した。このことは、生物の誕生に関して示唆的だ。このような環境が古細菌の生存に適している。これまでは深海の熱水噴出孔が例示されていたが、それだけでないわけだ。
東南極のテイラー氷河の末端では「血の滝」と呼ばれる鉄分の多い赤茶けた水が漏出している。水源は、4キロ離れた厚さ400メートルの氷の下にある湖。以前は海だったが、150万〜400万年前に拡大してきた氷河がふたとなって密室状態を作った。光は当たらず水中に酸素はない。塩分濃度は海水の3倍、水温は氷点下5度と厳しい環境だが、複数の微生物が見つかり、なぜ長期間生存できたのかが謎だった。
研究チームが微生物の遺伝情報などに基づき分析したところ、岩盤中の鉄や水中の硫黄分を使う独自の代謝方法で生命活動に必要なエネルギーを得て、150万年以上の生存を支えてきたと結論づけた。
( → 毎日新聞 2009年4月17日 )
こういう環境では、ウイルスもまた出現しやすいだろう。特に、ウイルス以前のアミノ酸(ヌクレオチド)も生成されやすいだろう。
思い出すと、オパーリンの実験も、似たような環境にあった。コルセアベートは、前生物であるウイルスの誕生の母体となったかもしれない。
【 関連情報 】
本サイト以外でも、関連情報を得られる。「生命の起源」「生物の起源」という用語で、ネットを検索するといいだろう。
私もこの問題は最大の関心事で、いろいろと調べたり読んだりしました。しかし、どの本も、私から見れば重要なところをスルーして逃げています。本稿もその一つでしょう。
RNAはヌクレオチドを単位とし、ヌクレオチドは、塩基(A,G,C,T)、糖、リン酸か化学的に結合したものです。これら塩基類の分子構造、まあ複雑な構造をしています。RNAが生成されるためには、まずこれらの前駆物質(多分)が自然に合成され、更にA,G,C,Tが自然に合成され、かつ多分大量もしくは高濃度に存在しなくてはならない。
糖、これも自然に無機的に合成されかつ大量に存在しなくてはならない。リン酸も同じ。さらにこれらが、同じ場所で同じ時間に(少々ずれてもいいですが)存在する必要がある。
そこで初めてヌクレオチド生成の条件が揃うわけです。そして、これらのプロセスについて、さらにRNAの生成プロセスについては、誰もまじめに論じようとはしていない。
わかりやすくマッピングしてみます。アミノ酸スープ(まあ、いいでしょう)を1として(0ではない)、生命の誕生(細胞膜と核酸をもつ生物ができる)を1000(単位は概念的)とする。そうすると、前生命、もしくはRNAワールドという論議は997とか998とかいうレベルの話です。細かなところをごちゃごちゃやっている(これも大事ですが)に過ぎない。ヌクレオチド構成要素の自然合成プロセスの証明が300-600ぐらいに位置し、ヌクレオチド生成が800位でしょうか。アミノ酸スープとRNAの生成までに、まさに途方も無い距離があり、ここが生命の起源問題での最大のポイントと考えています。
古細菌の誕生は35億年前だ、という推定があります。
http://www.bioportal.jp/columns/02/
これからすると、地球の誕生(冷却)から古細菌の誕生までにはあまり時間がかかっていません。
それよりは、真核生物の誕生や多細胞生物の誕生の方に多くの時間がかかっているようです。
ヌクレオチドは比較的簡単な化学構造をもつので、何らかの触媒によってできてしまうことは、それほど難しくはない、という気がします。触媒があれば分子がくっついたり離れたりすることはしばしばあります。だから比較的短期間のうちに、古細菌の誕生まで進んだのでしょう。
たしかにDNAやRNAの形成は簡単ではなさそうですが、それは人類が正解を知らないから複雑に見えるだけ。推理小説みたいなもので、正解がわかってみれば、「何だ、そんなに簡単なことだったのか」と膝を打ちそうです。
アミノ酸スープだって、わかってしまえば簡単に見えますが、それ以前の人々には、途方もない謎だと思えていたはずです。
http://www2.tba.t-com.ne.jp/nakada/takashi/origlife.html
だけど、このあたりは生物というよりは、化学の世界だ。
私としてはあまり興味はありません。勝手に(理論上で)合成してください。いくら合成しても、それはまだ生物ではないので、私の関心にはあらず。
(はっきり言って、化学って大嫌い。化学反応も嫌い。 (^^); )
最初からウィルスが現在の形であったという保証はどこにもありません。ウィルスだって何億年もの間に進化してきたはずです。
私が言うのは、現代の形のウィルスがどこから来たかではなくて、生物以前にウィルスが存在したか否かです。
現代の形(生物に依存するタイプ)のウィルスがどこから来たかというのであれば、生物が誕生したあとでしょう。しかしそれは、本項の話題とは関係ありません。
A.生物以前に存在したRNAかDNAだけのもの=このサイトではウィルスと呼んでいる。
B.現在、細胞を利用して複製しているもの=このサイトではウィルスと呼んでいる。
どちらとも正しいと思っていますが、細かく言えば、Aは進化の過程のひとつであり、Bは「他の細胞の構造と機能の機微をよく心得てたくみに利用している点で、生物が進化して利口になった1つの極端な形と考えるのが妥当である。」ということかと思います。
ええと。よく覚えていないが、脂質か何かの同一分子がたくさん集まって、自動的に膜状の物質が形成されるそうだ。
|||||||||||||||||||||
のような感じで、 | という分子がたくさん横並びになってから、全体が湾曲して、円弧状になり、さらに円環状になり、球状になる。
なるほどね。
なお、同誌によると、タンパク質と RNA の共存、というような話もある。その点では、本項に合致する。
→ ウイルスとバクテリアの中間「ミミウイルス」
http://j.mp/VnTodf
→ ウイルス界のガリバー ミミウイルス
http://j.mp/XhxYxZ
→ [書評]新しいウイルス入門
http://j.mp/XhgNur
第1章 生命の起源
第2章 絶滅と再生
第3章 人類の旅路
第4章 文明の盛衰
第5章 輪廻する宇宙
インターネットよりパソコンや ipad に呼び込みたい場合には、
インターネット「 ipadzine 」(検索)
ipadzineのホームページ、検索欄に「小山 啓天」(検索)
(小山と啓天のあいだに全角でスペースです)
ご笑読ください。