2008年01月29日

◇[補説] ミツバチの利他的行動 6

 ミツバチの利他的行動で、「不妊」という形質について補足する。 ──
    ( ※ 本項の実際の掲載日は 2013-06-14 です。)

 
 ミツバチの利他的行動については、すでにいろいろと述べてきた。
  ミツバチの利他的行動 1ミツバチの利他的行動 5
 
 その趣旨は、おおむね、次の通りだ。

 (1) 血縁淘汰説は正しくない。つまり、「ミツバチが妹育てをするのは、自分の遺伝子を多く残すためだ」という説は正しくない。
 (2) ミツバチは、妹育てをすることによって、妹経由で姪に自分の遺伝子を残す。その割合は、 37.5% だ。これは、自分の子の場合の 50% よりも少ない。
 (3) ゆえに、「(自分の)遺伝子を多く残すため」という目的のためには、妹育ては適さない。
 (4) ではなぜ、妹育てをするか? 「(自分の)遺伝子を多く残すため」ではなく、「絶滅を免れるため」である。「数を増やすこと」よりも、「絶滅を免れること」の方が大切である。下記の図を見ればわかる。


縦軸は対数表示


 ──

 さて。本項では新たに、次のことを指摘しよう。

 絶滅を免れるためには、「集団の団結」が必要だ。(1匹ではスズメバチの小集団に対抗できないとしても、自分を犠牲にする大集団があれば、ミツバチの集団はスズメバチに対抗できる。)

 では、どうやって「集団の団結」を得るか? それには、「妊娠する1匹のために、他の全員が犠牲になる」という方式が有利だ。
 そこで、そのために、女王バチになる1匹以外は、すべて不妊になった。
 不妊の働きバチは、自分の子がないので、自分の子を守るかわりに、自分の姪を守ろうとする。
 ここでは、1匹の姪に対して、莫大な数の働きバチ(姪にとっての叔母)がいる。
 通常、子の数は親の数よりも多い。つまり、親の数は子の数よりも少ない。ゆえに、「たくさんの母親が少数の子を守る」ということはありえない。
 しかるに、ミツバチの場合には、「たくさんの叔母がたった1匹を守る」ふうになる。たった1匹を守るために、莫大な数の働きバチが自らを犠牲にしようとする。
 こうして、1匹を守るための強大な軍事集団が形成されたことになる。このような強大な軍事集団を形成することが、ミツバチに「不妊」という形質が備わったことの理由だ。

 ──

 以上の本質を一言でいえば、次のことだ。
 「妊娠可能な1匹(女王バチの親子)と、不妊の多数(働きバチ」


 図式的に言えば、次の二つだ。
  ・ 妊娠 …… 女王バチの親子
  ・ 不妊 …… たくさんの働きバチ


 この二つが並立する。そのことで、コロニーの全体としては強力な軍事集団を形成する。ここに注意。
 
 以前の項目では、働きバチの「不妊」ということばかりに着目した。しかし、それは不正確な認識だった。たしかに、働きバチの「不妊」という形質は本質的に重要だ。しかし、それは、二つの柱の一方にすぎなかったのだ。もう一つ、「妊娠する女王バチの親子」という柱もあるのだ。
 そして、この二つの柱が並置することで、コロニー全体としては強大な軍事集団を形成できるのである。

 ──

 初めの質問に戻ろう。初めの質問は、こうだった。
 「ミツバチはなぜ利他的行動をするか?」

 これに対して、ハミルトンやドーキンスは、次のように答えた。
 「ミツバチは利他的行動をしているのではない。利己的行動をしているのだ。妹育てをするのは、その方が遺伝子を多く残せるからだ」

 これについて、私はその認識を否定した。次のように。
 「妹を育てても、自分の遺伝子を多く残すことにはならない。次世代を見れば、かえって自分の遺伝子の割合は減ってしまう。つまり、ハミルトンやドーキンスの説は、不成立」

 かわりに、次のように答えた。
 「ミツバチの妹育ては、自分の遺伝子を残すという意味では、不利である。しかし、(全体の)絶滅を免れるという意味では、有利である」
 「絶滅を免れるには、強大な軍事集団を形成することが必要だ。そのためには、次世代の1匹を守るための多数の兵士集団をもつことが大切だ。そのために、多数の兵士集団となる働きバチは、不妊という形質をもった」
 「この不妊という形質をもった集団は、強大な軍事集団を形成したので、絶滅を免れた。一方、この不妊という形質をもたなかった集団は、的が来たときに自分の子を守ることばかりに熱中して、自分を犠牲にして戦おうとはしなかったので、あっさり絶滅した。……かくて、不妊という形質をもった集団のみが、適者生存の形で生き残った」
 「ここでは、単に自然淘汰だけがあった。『自分の遺伝子をたくさん残すものが増えた』ということは成立しなかった。大切なのは、増えることではなく、絶滅しないことだった」
 「ミツバチの本質は、働きバチが不妊であることではない。妊娠する女王バチ親子と、不妊である働きバチとが、ともに並置することだ」
 「ミツバチの本質を見るときには、働きバチが妹育てをすることを説明しても、不十分である。つまり、働きバチが不妊であることを説明しても、不十分である。大切なのは、働きバチの行動ではなくて、働きバチと女王バチとのセットである。ここには二つの柱がある。この二つの柱をともに認識すること(セットを認識すること)が、ミツバチの本質を理解するということだ」

 以上によって、ミツバチの利他的行動については、完全に説明できたと言えるだろう。
 ミツバチの利他的行動を説明するには、「なぜミツバチは妹育てをするのか?」に答えるだけでは足りないのである。なぜなら、それでは二つの柱のうちの、一方だけしか見ていないからだ。
 ミツバチの妹育てを理解するには、あくまで女王バチとセットで考える必要があるのだ。
posted by 管理人 at 22:55| Comment(0) |  生命とは何か | 更新情報をチェックする
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