2007年07月08日

◆ ITの国際競争力


 IT分野における日本の国際競争力を強めるには、どうすればいいか?
  ・ 補助金を出す
  ・ 競争原理を導入する
 というのが提唱されているが、そんな安直なことで済むのか? ──

 この問題は、朝日新聞週末版 be の青色版の2面コラムで議論されている。そちらを読んでもらうのが手っ取り早い。ネットで読みたい場合には、朝日新聞の「アスパラクラブ」というのに加入すれば、読める。(会員になるのは無料だが、10分間ぐらいの手間がかかる。)

 ネットにあるのだから、そっくりそのままコピーすることもできるのだが、それでは著作権上の問題が生じるから、丸写しはできない。だから、部分引用して、要旨を述べておこう。
競争力を養えるのか
       町田徹(ジャーナリスト)

 菅義偉総務相は6月18日、ICT国際競争力会議(総務相の懇談会)の第1回会合を開いた。
 「次世代の固定通信網、携帯電話、デジタル放送といったICT(情報通信技術)分野での日本企業の国際競争力を強化する」
 だが、……手法で目立つのも「08年度予算要求など必要な政策支援措置を講じる」と、古典的な予算バラマキだ。
 日本の現状を「閉鎖系内で特有の種が繁栄しているガラパゴス諸島のような様相」と指摘した。日本では、世界に通用しない独自の製品が幅を利かせているという意味だ。
 (敗北の)原因は、はっきりしている。NTTドコモやKDDIが示す仕様に応じ、高価格・高品質の電話機を少量生産するビジネスに安住して……たからだ。
 第3世代のCDMA方式の基本特許を押さえたクアルコムに「1台につき数千円の特許料を支払わされた悪夢が、第4世代でも繰り返されかねない」
 要するに、趣旨は次の通り。
 「日本のITは、お寒い状況である。それというのも、自分の殻に閉じこもって、世界市場に打って出ないからだ。こんな状況で補助金を出しても、無駄である。」

 ここに書いてあることは、まったくその通り。かくて、
 「補助金を出す」
 という政府の方針は、否定される。

 ──

 では、どうすればいいのか? 批判するのは簡単だが、対策としては、どうすればいいのか? 
 「競争原理を導入する」
 というのが、古典派経済学者の提唱だ。つまり、
 「日本が独自規格で閉じこもるのをやめて、世界市場と共通規格にして、競争を高めればいい。そうすれば、競争を通じて、日本企業の競争力も高まる。自由な競争こそ、競争力を高める方法である」

 ありがちな主張だが、これはまったくの間違いだ。そのことは、進化論の場合と、同様である。
 「魚が陸に上がっても、魚に足は生えない。魚が干からびるだけだ」
 「猿が草原に出ても、猿の脳は発達しない。猿が肉食獣に食い殺されるだけだ」

 日本のIT企業も同様である。十分な競争力を持たないまま、むやみやたらと国際市場に出れば、日本企業が進化するのではなくて、日本企業が食い殺されるだけだ。
 要するに、日本企業が「ガラパゴスのような環境で生きる」というのは、決して間違ったことではない。バカが生きるには、バカ専用の環境が必要だ。「バカを利口と競争させると、バカが利口になる」と思うのは、思い違いも甚だしい。

 要するに、古典派経済学者の言うように、「国際市場に出ればいい」「独自市場を開放すればいい」というような、単純な話では済まないのだ。

 ──

 では、どうすればいいか? そのことは、私の進化論を理解すれば、簡単にわかる。
 進化の理由は、「突然変異と自然淘汰」ではない。進化をもたらす根源的な理由が必要だ。
 つまり、「偶然と環境」によって優者が誕生するのではない。「偶然と環境」によって劣者が滅びることはあるが、劣者が滅びることと優者が誕生することとは別のことである。優者が誕生するためには、そのための別の条件が必要だ。
 そして、いったん優者が誕生したら、そのとき初めて、「環境による淘汰」が意味をもつ。逆に、優者が誕生しないまま、単に「環境による淘汰」だけを推進すれば、すべてが弱者となって滅びてしまう。

 ──

 大事なのは、次のことだ。
 「劣者を滅ぼす自然淘汰と、優者を誕生させる原理とは、別のことである」

 こう理解すれば、「競争を進めよう」という方針がいかにナンセンスかがわかるだろう。いくら競争を進めたところで、それによって弱者が滅びるだけであって、優者が誕生することはないのだ。
 まったく見当違いのことをめざしている限り、狙いの目的は達成されない。

 ──

 こうして、狙うべきものについての、勘違いが判明した。
 そして、勘違いが判明すれば、何をなすべきかもわかる。すなわち、「優者を誕生させること」である。

 しかしながら、優者というものは、誕生した時点では、脆弱である。それはいわば、赤ん坊のようなものだ。松坂やイチローのような強力な選手でさえ、赤ん坊のことはとても弱い。これを嵐のただなかに出せば、食い殺されてしまうだろう。

 以上のことから、なすべきことは、次の二点だとわかる。
  ・ 優者が誕生する環境を整えること。
  ・ 優者は、誕生した時点では弱者なので、保護してあげること。


 簡単にまとめれば、こうなる。
 「最先端の研究開発者を優遇すること。研究開発の途上では、まだ収益が上がらないで、脆弱なので、競争力がない。そういうふうに競争力の低い研究者を保護して、立派な研究成果を出せるまで、援助すること」


 要するに、こうだ。
 「IT企業に補助金を出すのではなくて、研究者や研究組織に金を出す」

 ただし、注意。このことをなすのは、政府ではなくて、各企業である。つまり、企業が、自社の研究者や研究組織に対して、十分な研究支援をすればいいのだ。

 しかるに、現実には、どうか? こうなっている。
 「研究開発費は、なるべく値切る。研究者への給与も、なるべく値切る。残業しても、まともに残業手当を出さない。成果を出しても、成果のほとんどは企業が独り占めして、研究者には成果をろくに還元しない。」

 つまり、研究支援は、最低レベルである。「研究者は企業の奴隷となれ」という体制だ。こんなことでは、まともな研究ができるはずがない。

 そして、これこそが、日本のIT企業の競争力がないことの理由だ。競争しないから非力なのではなくて、もともと阿呆でボンクラだから非力なだけだ。阿呆でぼんくらなものについて、「競争をすれば優秀になるだろう」と思うのは、進化論学者と同様の、勘違いである。

 ──

 企業はしばしば、「画期的な技術開発のできる独創的な人材を求める」と学生に呼びかける。バカじゃなかろうか? こんなことを主張する企業は、バカ企業だから、こんな企業に入ってはいけない。
 こういう企業は、「画期的な技術開発のできる独創的な人材がいるならば、わが社に入社させてやる」と威張っている。何を勘違いしているんだか。画期的な技術開発のできる独創的な人材がいるならば、「入れてやる」のではなくて、「入ってください」と頼むのが筋だろう。「初任給として年収千万円にしますし、研究開発の成果には相応の還元をします。十億でも百億でも還元します」と頼むのが筋だろう。しかし、それとは逆に、「年収400万円で雇用してやるから、ありがたく思え」と言い張る。そのくせ、「成果が百億円になったら、その成果は全部会社がいただくよ」とほざく。バカも休み休みにしろ、と言いたいね。

 で、その結果は? 画期的な技術開発をする才能をもつ学生がいれば、日本の企業なんかに入らないで、アメリカのベンチャーに入る。そこで、十分な開発をして、成果に見合う報酬を得る。そのベンチャー会社は、優秀な日本人その他を雇用して、成果が出たら、その成果によって、日本の企業から莫大な特許料をいただく。

 ──

 まとめて言おう。
 日本の企業の国際競争力がないのは、市場競争が不足しているからではなくて、もともと水準が低いからだ。そして、水準が低いわけは、もともと人材が集まらないからだ。そして、人材が集まらない理由は、もともと優秀な社員を冷遇する仕組みを備えているからだ。
 つまり、自業自得である。自分自身が、「会社の技術水準を低めよう」とするシステムをもっている。だから、その当然の結果として、会社の技術水準は低くなる。
 こういう状況で、「補助金を出す」とか、「市場競争を強める」とか、見当違いのことをしても、無効か逆効果になるだけだ。
 なすべきことは、優秀な人材を招いて、ちゃんと研究開発体制を組んで、成果が出たら十分に還元することだ。ところが、現実には、そのどれもやっていない。だからこそ、競争力は低い。
 この本質を見失ってはならない。



 【 参考 】
 本項で述べたことは、他の項目とも関連する。

◆ 孤立経済とエネルギー消費
    http://openblog.meblog.biz/article/97135.html
 …… ここでは「孤立経済」の話をした。それにちょっと似ていて、「孤立市場」というものが考えられる。それが本項の話の一部。「日本のITは孤立市場だから駄目だ」という説は、しばしばあちこちで見出される。

◆ 「トカゲの二足歩行」
    http://openblog.meblog.biz/article/92485.html
◆ 「人類の直立歩行:樹上説」
    http://openblog.meblog.biz/article/86436.html
 …… この二項目では、「環境が進化をもたらすのではない」という話をした。

◆ 企業とメセナ
    http://openblog.meblog.biz/article/98655.html
 …… 目先の金儲けばかりを狙っていると、自社が下賤になって、自社そのものの体質が弱体化する、という話。これも関連する。社外の若手音楽家を支援することと、社内の若手研究者を支援することは、どちらも似た発想である。前者ができれば、後者もできるだろう。前者ができなければ、後者もできないだろう。目先の金儲けばかりを考える卑しい精神からは、独創的な研究開発など生まれるはずがないのだ。
(ちなみに、Google では、「自由に研究すること」というのが社内で公認されている。こういう研究推進体制があればこそ、技術開発もどんどんなされる。日本企業とは正反対ですね。)
posted by 管理人 at 20:25| Comment(3) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
優秀で実績のある研究者には、たっぷりと分け
前を与える。当然ですね。
 しかし、独立心旺盛ならスピンアウトして
起業するでしょう。まぁ、起業して自分で
獲物を狩るのは嫌だという人は
企業に残る
 若く実績のない馬の骨みたいな研究者にも
年俸1千万円を保証しますが、馬の骨に一千万
円はとてもリスクが高いので3年以内(これは重要)に給料以上の稼ぎを生まなければ首にします。
こんな感じで良いでしょうか?
 
 私が思うに、誰がリスクを背負うかは重要だと思います
株主、債権者でしょう。研究者は特権階級
でノーリスクで分け前だけもらうというのは
リスクを引き受ける人は納得しないでしょうね。
当然彼らにも充分な分け前を与える必要があり
ます。特にファンド株主、VCは強欲です
Posted by mugu at 2007年07月09日 19:06
> リスクを引き受ける人

配分を決めるのは、リスクを引き受ける人です。
研究者への成功報酬を、0%にするか、10%にするか、90%にするか、それは、リスクを引き受ける人(出資者)がすべて決めます。経営者を通じて。

なお、通常は、成功報酬はほぼ0%です。……日本では。というか、日本だけは。
Posted by 管理人 at 2007年07月09日 19:34
南堂さん、
結局は分配率が問題です。
金の卵を産むガチョウである研究者に成功報酬
ゼロでは、みすみすガチョウを逃がしてしまい
ます。
 しかし、ガチョウが金の卵を産むまでの間
期待リターンだけでエサを与える投資家は報われなくてはいけません(ベンチャーへの投資は報われないことが多いようですが)
 青色LEDの発明者が世間の顰蹙を買ったのは
ノーリスクハイリターンだと世間が考えたからです。
 強欲はいけません。身を滅ぼします。
Posted by mugu at 2007年07月09日 20:59
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