2007年06月21日

◆ 公的情報の電子化


 年金のミスが大量に発覚して、大問題となっている。
 そこで、対策として、年金情報の電子化という根本対策を取ることで、解決しようという方向にある。
 しかし、公的情報の電子化ならば、もともと提案されていた。そして、それを、当時は拒否したのである。
 とすれば、今回の問題は、起こるべくして起こった問題だと言える。 ──

 年金のミスが大量に発覚して、大問題となっているのは、周知の通り。
 簡単にまとめると、記録漏れがあるせいで、国民はお金を払っているのに「払っていない」と記録されている、という問題だ。同じ企業にずっと勤めている人ならば問題はないようだが、途中で転職したりすると、記録漏れが起こる。その間、お金を払っていても、払っていなかったことにされる。結果的に、払った分の年金をもらえなくなる。年間で数万円から数十万円の損になることもあるようだ。
 その他、「一括納付」をしたのに「してない」と記録されている、というような問題も発覚している。
 ま、国家による泥棒みたいなものだ。

 この問題に対して、個別に対応していたら、電話が殺到して、社会保険庁の電話がパンクしてしまった、ということも報道された。

 そこで、最新の情報では、「年金情報の電子化」という案が出た。新聞記事を引用すると、次の通り。
社会保険庁は公的年金の記録漏れを解消するため、コンピューターシステム上にあるすべての年金記録2億7000万件の入力ミスを調べ、間違った記録を訂正する方針を固めた。手書き台帳を写したマイクロフィルムの内容を新たに電子データ化し、システム上の全記録と突き合わせてミスを修正する。10年はかかるといわれてきた修正が1年程度で終わる可能性が出てくる。
 → 日本経済新聞

 社会保険庁は21日、年金記録漏れ問題への対策として、市町村や同庁が管理する手書きやマイクロフィルムの形で残る原本の記録を手作業でコンピューターに再入力し、データベースを作り直す方向で検討に入った。
 こうした記録は、すでに現行のデータベースに入力されているが、多数の入力ミスがあると指摘されており、「信頼できる」新データベースを再構築し、照合作業を進める。約5000万件の該当者不明記録のうち、入力ミスが原因であるものは、大半がミス解消につながると期待されている。
 現行データベース内の照合で不明な記録については、政府は当初、現行データベース内の記録と、手書きの記録などを1件ずつ目視で突き合わせる作業を想定していたが、「情報処理の世界では、コンピューターに再入力して照合する方が、時間もコストもかからないというのが常識だ」(自民党筋)ということで方針を転換する。
 社保庁は現在、オンライン上で約3億件の年金記録を管理している。かつてはすべて手書きの紙台帳で記録を管理してきたが、1980年から順次オンライン化が進められ、次第に紙台帳は使用されなくなった。 再入力が可能なのは、紙台帳やそれを写したマイクロフィルムだけで、廃棄されたものは入力できない。
 → 読売新聞
もともと記録されてない分は、この方法でもダメだが、単純な記入ミスは、これで解決しそうだ。

 ──

 以上は、年金についての話。ただし、眼目は、そのことではない。
 話をひろげてみよう。この問題は、「年金情報の電子化」から、「公的情報の電子化」というふうに、話をひろげることができる。
 すると、問題は、年金だけではない、とわかるはずだ。

 たとえば、次のような記載ミスが考えられる。
  ・ 紙の処方箋を電子化するときの問題。
  ・ 所得税のさまざまな控除などを記録するときの問題。

 前者は、「処方箋を電子化せよ」という話題で、前に「泉の波立ち」で述べたことがある。
  → 第2章3月31日d3月19日
 当時の情報からすると、すでに実現していていいはずなのだが、なかなか実現しないで、いまだに手作業でやっている。紙に印刷して、それを人間が再入力する、という原始的な方法。情けないですね。

 所得税にしても、あちこちで控除があったり、領収証の問題があったりして、記載漏れが発生しやすい。個人サラリーマンならばともかく、会社組織だと、記載漏れで脱税をやりやすくなる。脱税者にとってお得、というふうになる。その分、真面目な納税者は損をする。

 ──

 そこで、こういう問題をすべて一挙に解決するのが、「国民総背番号制」であった。ところが、これが、ちっとも実現しない。
 その理由というのが情けなくて、「政府に情報をつかまれるのは怖いから」というもの。電子リテラシーがないですねえ。電子化されていようとされていまいと、政府には情報をつかまれている。問題は、「間違った情報をつかまれるか、正しい情報をつかまれるか」である。で、「いやだ、いやだ」といっているうちに、間違った情報をつかまされて、結果的に、今回のような問題が起こることになる。自業自得。

 ──

 では、正しくは? 次のことだ。

 (1) 政府(等)が情報を全部握らないように、「情報の壁」を設けて、やたらと勝手に個人情報にアクセスできないようにする。たとえば、どこかの村役場の職位が、興味を感じて、タレントのA子さんの個人情報を盗み見る、なんていうことができないようにする。

 (2) 情報の漏洩が起こりやすいひどい状況を改める。この件は、「高木浩光のサイト」でたびたび指摘されてきたとおり。

 ──

 ともあれ、なすべきことと、なしてはならないこととを、ちゃんと理解するべきだ。「国民の情報を握りたい」と思っている政府と、「政府に情報を握られたくない」と思っている国民とが、対立ばかりしていると、双方が喧嘩して、傷つくばかりだ。
 政府と国民は、本来、対立するべきものではないはずだ。何のために政府があるのかを、よく考えた方がいい。「アンチ政府」とか「政府びいき」とか、そういう馬鹿げた対立ばかり考えていると、国が滅びる。
 そういう愚かさの見本が、今回の事件である。



  【 追記 】
 本項で述べた「公的情報の電子化」は、政府でも気づいているらしく、実現の方向にあるようだ。 (朝日・朝刊 2007-06-23 )
社会保障番号「国民カード」導入検討 住基ネットと連携

 政府・与党は22日、年金や医療保険、介護保険の個人情報を一元的に管理する「社会保障番号」を11〜12年度をめどに導入し、ICチップ入りの「国民サービスカード」(仮称)を全国民に1人1枚ずつ配布する方向で本格的な検討を始めた。
 計画によると、現在は別々になっている公的年金、医療、介護の各保険の加入者情報を一元化した共同データベースを構築、各制度共通の国民サービス番号(社会保障番号)を導入する。国民には年金手帳、健康保険証、介護保険証を一本化した国民サービスカードを配る。
 個人情報の漏洩(ろうえい)を防ぐため、ICチップを搭載。カードをパソコンの端末に差し込み、暗証番号や生体認証などで本人確認ができれば、年金の加入履歴や給付の見込み額、健康診断や治療を受けた際の検査結果、請求書(レセプト)などが常時、閲覧・保存・印刷できる。医療機関や介護業者の窓口でカードを示せばすぐに本人確認ができ、複数の医療機関で同じ検査を受けたり、余分な薬をもらったりすることもなくなり、医療費の抑制につながるという。
 社会保障番号の付け方については、現在20歳以上の人が持っている基礎年金番号を国民全員に拡大する案と、住基ネットの住民票コードを用いる案がある。国民サービスカードについても、独自のカードを発行するか、住基カードとの一体型にするか今後検討する。
http://www.asahi.com/life/update/0623/TKY200706220439.html
上記はネットの記事だが、新聞の記事では「どんなに管理を厳しくしても、情報漏洩の恐れはある」(だから情報一元化なんか駄目だ)という趣旨の主観的なコメントが記事にまぎれこませてある。

 しかし、これは筋違いだ。次の比喩を見ればわかる。
 「どんなに防犯システムを整えても、泥棒が入る可能性はゼロにはならない」(だから立派な家または防犯システムなんか、不要である)

 「どうせ泥棒が入る可能性があるから、立派な家に住むのはやめよう」と思うのであれば、その人はさっさと浮浪者生活を始めればいい。朝日の記者もね。
 「どうせ泥棒が入る可能性があるから、防犯システムなんかやめよう」と思ったのは、多くの欧州美術館だ。おざなりの警報システムだけを設置したが、誤作動ばかりするから、誰も気にしなくなった。それを見て、警備員の交替時間を見計らって、堂々と美術品を盗んだ泥棒がいる。現代のルパンといわれたそうだが、解答でも何でもなくて、単に美術品をコートの下に隠して持ち運んだだけ。結果として、莫大な美術品(有名なバロック美術)が盗まれたあげく、最後には証拠湮滅のために半分が萌えて捨てられてしまった。人類の富の喪失。(2007-06-22 の夕刊。朝日か読売)
 この泥棒は、「泥棒対策の防犯システムを整えない方が悪い。盗み放題にしている方が悪い」とうそぶいていたが、まったくその通り。
 で、それと同じことを言っているのが、朝日新聞だ。「情報漏洩の恐れがあるから、情報システムを構築しなければいい」だって。馬鹿じゃないの? 原始人の生活に戻りますか? そうすれば、交通事故もなくなるし、過労死もなくなるし、大気汚染も地球温暖化もなくなるし、文明の弊害はすべて消える。文明の弊害をなくすために、文明そのものを破壊してしまえばいい、という発想。
posted by 管理人 at 21:02 | Comment(1) | コンピュータ_01 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
氏名・住所・生年月日で名寄せという説明がもっぱらのようですが、結婚改姓はどう処理してるんでしょうね。せめて1世代前旧姓がないとやりようがないはずですが、不思議です。
Posted by えむ at 2007年06月30日 15:38
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