2007年05月12日

◆ 安全確保の方法

 ジェットコースターで人身事故があった。金属疲労による車軸破断が原因。他にも、事故が多い。(飛行機で車輪が降りなかったり、エレベーターが壊れたり。)
 このように安全確保ができていない状況を改善するには、どうすればいいか? ──

 事件はときどきあるが、それに対して、どう対策するべきか? 
 政府がやったのは、「(個々の事件について)同種の事件をなくす」というものだった。次のように。
  ・ 飛行機の車輪の事故   → 全国の飛行機の車輪のチェック
  ・ エレベーターの事故    → 全国のエレベーターのチェック
  ・ ジェットコースターの事故 → 全国のジェットコースターのチェック

 これに対して、「あらゆる事故をすべて減らせ」という立場もある。では、どんな?

 ──

 ここで、朝日新聞の小林慶一郎が自説を展開している。(朝日・朝刊・声 主張面 2007-05-12 )
  ・ 市場経済を過度に重視するからだ、という主張が一部にある。
   (利益重視で安全策がおろそかになった、というわけだ。)
  ・ しかしこれは、日本型経済システムの変化のせいだろう。
  ・ かつては終身雇用制度で、労働者は会社に忠誠を尽くした。
   (だから会社のために安全策を十分に取った。)
  ・ これからは、労働者がプロとしての自覚をもてるようにすればよい。

   (会社のためでなく個人の自覚ゆえに仕事の質を高める。)

 ──

 以上のような理屈であるが、いかにも古典派経済学者丸出しである。
 まずは、社会全体の問題としてとらえる。(日本型経済システム)
 しかるに、結局は、個人レベルの意識の問題に還元する。(一人一人が努力すれば社会は改善する……市場経済の原理)

 しかしながら、このような個人に還元する発想は、もはや、経営でも経済でもない。ただの精神論である。
 比喩的に言えば、「戦争に勝つには個人の精神力を高めればいい」というようなものだ。こんな発想では戦いに勝てない。
 戦争であれ、スポーツの試合であれ、精神力だけでは決まらないのだ。そして、精神力を越えた真実を見出すことこそ、まともな頭のある人間のやることだ。

( ※ 例で言うと、サッカーのラモス監督がいる。たいていの監督が技術論で勝利に導こうとするのに、ラモス監督は昔から「精神力」ばかりを主張してきた。そのあげく、現在はどうか? 記録的な敗戦を続けて、退任を迫られている。……ま、野球でもそうだが、無能な監督ほど、「選手の精神力」を主張するものだ。)
( ※ なお、ここでは、サッカー監督の話をしたいわけではない。小林のような発想はどこにも見られる、ということを示したいだけだ。)

 ──

 では、まともな頭があるなら、どうするべきか? 単なる精神主義を越えて、社会に安全策をもたらすには、どういう実効的な方法を取ればいいか? 

 直接的な回答としては、理系の発想から、技術論議の回答が出る。つまり、「安全学」の確立である。逆に言えば、「危険学」によって、危険を研究する。これは「失敗学」とも言える。
   → 危険学
   http://openblog.meblog.biz/article/37762.html
   → 安全の失敗学
   http://openblog.meblog.biz/article/32484.html

 ここまでは、理系の学問だ。研究者が研究すればいい。

 ──

 ただし、より根源的な問題がある。──「研究者がいる」というふうに、システムを整備することだ。そもそも、研究者がいなくては話にならない。そのためには、研究予算がないと話にならない。

 ここで、社会システムの問題となる。
 「安全学(危険学・失敗学)を社会的に整備すること」

 である。
 しかも、である。これは、個々の企業に任せるだけではダメで、社会が意図的に「企業が推進する」というふうに、社会が(政府が)仕向けなくてはならない。

 つまり、こうだ。
 「安全性を高めるには、個人の意識に任せるだけではダメだ。また、企業の意識に任せるだけでもダメだ。国が政策として、企業の意識を高めさせる。そこから、企業が個人の意識を高めさせる」

 というふうにする。
 これは、「個人任せ」という古典派の発想とは異なり、マクロ経済学の発想である。
(比喩的に言えば、ラモス監督の発想ではなく、野村のような知性監督の発想である。選手任せで何もしないのではなく、チームのシステムそのものを改善する。個別の指導はコーチに任せるが、システムそのものを変えるのは監督の役割だ。)

 ──

 では、マクロ経済学の発想からは、どういうシステムを構築するべきか? 次のように言える。
  ・ 企業が安全対策を怠るのは、その方が儲かるからである。
   (安全のための整備費を削減できるから)
  ・ ゆえに、「安全対策を怠ると損をする」というシステムを構築する。


 たとえば、飛行機の車軸の金属疲労やら、エレベータやジェットコースターの事故やら、そういう安全対策を怠った例を見出したら、巨額の罰金を科する。その巨額の罰金から、被害者への保証を(上積みして)支払う。残りは、国庫に入れる。
 たとえば、現状なら、被害者に1億円ぐらいを払って、それでおしまいだ。確率的に言えば、安全対策など、やらない方が安上がりだ。全国で5年にいっぺん死者が一人出るとしても、それで1億円。一方、全国で企業がみんな安全対策をやったら、莫大な金額の出費が必要となる。……ゆえに、損得勘定で言えば、安全対策なんかしないのが一番利口である。
 仮に、私が経営者だとしたら? 良心があれば、安全対策をやる。良心がなければ、(損得勘定で)安全対策をしない。もし労働者が個人的に安全対策を推進しようとすれば、そんな労働者は会社の方針に反するので、解雇するか左遷する。「小林の言うことを聞きます」という社員は、押しつぶす。それが(利益重視の)経営方針というものだ。

 では、どうすればいいか? 「損得過剰で、安全対策をしないよりも、安全対策をする方が、儲かる」というふうにすればいい。つまり、「事故がいっぺん起こったら、巨額の罰金が科されて、会社が存亡の危機にさらされる」というふうにすればいい。今回の10億円ぐらいの罰金。そのくらいでないと、見せしめとしての抑圧の効果がない。100億円だと、会社がつぶれてしまうかもしれないが。
( ※ ただし、会社がつぶれたっていいですけどね。それで困るのは株主だけだ。会社をいったん破産させたあとで、倒産した会社を第三者が買収して再建すればいい。損失のすべては、「株価が紙切れになる」という形で、株主にのしかかる。安全無視の経営者を放置していた付けだから、仕方ない。……というわけで、会社をつぶすぐらいの巨額の罰金の方が、効果的かもしれない。経営体制を根本的に刷新するために。)

 ──

 以上のことから、政府のなすべきこともわかる。「事故に対して、巨額の罰金を科する」という制度の構築だ。これは、「個々の技術者が努力すればいい」という個人レベルのものではなくて、経済的・社会的なシステムだ。……こういうことを考察するのが、知性というものだ。ラモス監督じゃないんだから。

 ──

 ※ ただし、現実には、これは困難だ。なぜか? 政府が企業に買収されているからだ。つまり、「巨額の罰金を科する」という正道を構築しようとすると、経団連が反対する。何しろ、トヨタだって、やたらと欠陥車を突くっているんだから。リコール対象となった欠陥の事故で死者が出たときに、巨額の罰金を払うとなると、トヨタがいやがる。どの企業もいやがる。
 どの企業だって、安全策なんか取りたくないのだ。……ここが原因である。
 ※ 先の「私だったらこうする」という話を読んで、「こいつは守銭奴だな」と思う人もいるかもしれないが、とんでもない勘違いだ。守銭奴は、あらゆる人間である。そこのところを勘違いしてはいけない。
 ※ もちろん、「一人一人の自覚を高める」なんて、無意味である。何しろ日本中の人間が、「金こそ大事」だと思っているんだから。「安全対策のために、賃金をいくらか減らします」と経営者が言ったら、たいていの人は反対するだろう。……それが証拠に、ガメツイ社長が選ばれているし、ガメツイ政党(自民党)が選ばれている。人間は誰しも、「他人の命よりは自分の金」なのである。……こういう現実を直視するのが先だろう。
( ※ 皮肉じゃないので、念のため。その証拠に、本項の提案は、決して実行されない。社会そのものが、安全推進を拒否しているからだ。安全よりも金なのである。これが根源だ。……つまり、過度な市場原理ではなくて、人々の欲こそが、根源なのである。

posted by 管理人 at 09:59| Comment(3) | 安全・事故 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
結果は同じかもしれませんが、事故が起きた場合のコストについて客離れの影響も考慮した方がいいと思います。
Posted by stkg at 2007年05月12日 14:53
“安全よりも金なのである”という論理が通用するならば、犠牲者の遺族はそれがしの金になるのだから(労せずして金になる。あぶく銭)、金を支払えばそれでいいじゃないかってことになりかねません。これはとんでもない暴言だと思います。危険な発想です。
Posted by 匿名希望 at 2007年05月14日 12:13
本題には関係ありませんが、ヘッダの画像、あんまりお上品じゃありませんね。あえてセレクトされたのか入れ替えられたのか。はて?
Posted by えむ at 2007年05月14日 16:12
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