2007年02月04日

◆ 漏れた 23字の用例


 JIS2004 で正字に修正されていない文字 23字を、前項では示した。
 再掲すると、次の通り。
    廠 鱈 唳 堋 捩 梛 湮 甄 硼 箙 粐 綛
    綮 綟 芍 荵 蟒 褊 諞 譁 邉 扈 鮗

 これらの文字の用例を示す。
 ほったらかしにされているが、これらの文字は重要だ、と示すため。 ──

    廠 …… 兵器廠(へいきしょう)
    鱈 …… 鱈ちり ,鱈子(たらこ)
    唳 …… 鶴唳(かくれい)
    堋 …… あずち
    捩 …… ねじる
    梛 …… なぎ
    湮 …… 湮滅(いんめつ)
    甄 …… 甄別(けんべつ)
    硼 …… 硼酸(ほうさん)
    箙 …… えびら
    粐 …… 粐蒔沢(ぬかまきざわ):地名:粐薪沢は誤記。《 国字 》
    綛 …… 綛糸(かせいと)
    綮 …… 肯綮(こうけい)
    綟 …… 綟り織(もじりおり)
    芍 …… 芍薬(しゃくやく):立てば芍薬 座れば牡丹
    荵 …… 荵冬(にんとう)
    蟒 …… 蟒蛇(うわばみ)
    褊 …… 褊す(さみす)
    諞 ……  − (漢語以外、用例がほとんどなし)
    譁 …… 諠譁(けんか=喧嘩)《 字体差を無視する立場もあり 》
    邉 …… 「邊」の異体字
    扈 …… 跋扈(ばっこ)
    鮗 …… このしろ

 ──

 【 解説 】

 これらの 23字は、なぜ JIS2004 で漏れたか? それは、国語審議会の「印刷標準字体」で漏れていたからだ。
 では、なぜ「印刷標準字体」で漏れていたかというと、印刷会社の漢字の使用頻度を見て、「使用頻度があまり高くない」と見なされたからだ。

 しかし、本当にそうか? 実は、使用頻度が高いかどうかと言うのは、相対的なものでしかない。なるほど、他のものよりは、使用頻度が高くないのだろう。しかしそれは、国語審議会の調査対象が狭すぎた、というだけのことだ。
 たとえば、調査対象をうんと狭くすれば、小学校で学ぶ「教育漢字」だけでいい、というふうになる。もうちょっと広げると、「常用漢字」(二千字程度)。もっと広げると、「第一水準」(三千字程度)。もっと広げると、「第二水準」(六千字程度)。もっと広げると、「小型の漢和字典」(1万字程度)。

 で、国語審議会の調査は、そのうちのどのへんかというと、三千字程度であったようだ。(常用漢字以外の一千字、ということ。)
 これでは、第一水準と同程度である。とすると、その調査から漏れた文字にも、重要な文字がかなりあるはずだ。しかも、調査対象は、「パソコン略字」であるから、第一水準そのものである。同じく三千字程度だとしても、JISの三千字と国語審議会の三千字とでは、ズレが生じる。
 もちろん、そんなことは、最初からわかっている。このズレをなくすには、JISの第一水準の略字全体について調べればいい。逆に言えば、JISの第一水準の略字全体について調べなければ、ズレが生じる。そのズレを見出しのが、前項だ。( 23字がズレである。)

 この 23字は、国語審議会の調査対象には入っていないが、JIS第一水準には入っている。当然ながら、用例はかなり見られるはずだ。で、その用例を、上に示したわけだ。
 で、上の用例を見るとわかるとおり、「諞」以外には実際に使われる場が多いはずだ。

 ──

 【 結論 】
 こういうふうに、重要な用例が見つかった。(1字は例外だが、22字については。)
 というわけで、(「諞」以外の) 22字については、重要な文字だと見なせるし、それゆえ、ちゃんと略字から正字に修正するべきなのだ。デザイン差に近いものもあるが、デザイン差の修正であってもいいから、とにかく修正するべきだ。

( ※ なお、異論が出る余地もあるので、漢字研究者の意見を尊重する必要もあるだろう。余談だが、文字コードの専門家を「漢字研究者」と見なすのは、妥当でない。「漢字研究者」というのは、文字コードのことなんか考えないで、漢字のことだけを考えている人のことを言う。比喩的に言えば、自動車のユーザーと自動車の製造者は違う。製造者は、ユーザーの声を聞くべきであって、製造者の言い分をゴリ押しするべきではない。……当然ながら、南堂自身も、「漢字研究者」ではないので、ゴリ押しするつもりはない。)

 ────────

 [ 余談 ]

 「粐」は国字。前項に記したとおり。

 「諞」について。
 この文字の用例は、誤用と見られる例は、いくつか見つかったが、無視する。
 この文字は、Yahoo の検索で、次の一例のみが見つかった。
     「氏政は足利尊氏に属して、諞の一字を賜った。」
 しかしながら漢和字典によると、この文字の意味は次の通り。
     「{動詞}たくみにことばをあやつる。ぺらぺらとうまくしゃべる。」
 悪い意味みたいですね。上記の「諞の一字を賜った」は不自然に思える。
 ま、南堂がこの字を賜るのならば、意味的に不自然ではないが。
 私は今度から、諞諞庵と名乗ることにしようかな。さもないと、グーグルの用例がなくて、可哀想だ。私が使えば、用例ができる。
posted by 管理人 at 17:49| Comment(2) |  文字規格 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
> 文字コードの専門家を「漢字研究者」と見なすのは、妥当でない

 と書いたが、それを裏付ける話があった。引用すると、次の通り。

 ──

 》JIS幽霊漢字概説
 JIS第1・第2水準にありながら、読みも意味もわからないと、多くの辞書に書かれていた漢字のこと。
 JIS漢字のうち何文字かは、選定ミスにより選定されるべきでなかった字が採用されているが、多くはきちんと調査すれば、出自の分かる文字であったのである。
 ただ、その中には、JISで選定しようとしたものではなく、他典拠の文字も含まれる。
 「椦」は、私が中国の『一切経音義』の中から見つけたものが、典拠の一つとして載っているが、JISの選定においては、「木偏に勝」の字を誤ったものとされているといった具合である。
http://jitenfeti3.jugem.jp/?cid=11

【椦】 『玄應一切經音義』に「[村−寸+卷]律文作椦非體」とある。『字鏡鈔』に「ちきり」とある。
http://www5a.biglobe.ne.jp/~jiten/ongij3.html

 ──

 「椦」を「木偏に勝」(IBM機種依存文字の一つ)の書き誤りだと見なしたのは、JISの委員で、国字の調査研究で精力的だと有名な某氏であるが、いくら努力が精力的でも、肝心の漢字知識が弱いと、あっさり間違えてしまうわけだ。
 つまり、漢字の知識のない人がどんなに努力したってダメだ、ということ。「おれは文字コードの専門家だ。文字コードを知らない漢字研究者は黙っていろ。文句を言うなら、JISの規格票を読んでからにしろ」といくら威張っても、間違えてしまえば何にもならないわけだ。
 人間、謙虚さが大事。私? もちろん漢字知識は全然ありません。五千字も知らないな。文字コードオタクなんて、漢字知識はろくにない、とわきまえています。 文字コードの知識があるなんて、全然、威張れたものじゃない。文字コードなんて、ただの道具ですからね。文字コード研究者なんて、ただの下層職人です。はい。私もそうです。最下級カーストです。
Posted by 管理人 at 2007年02月04日 22:51
「 諞 」については、ネットを検索したら、次の用例があった。(23字目に 諞 がある。)

 ──

 伊藤銀月「日本警察語史」

事の鵬、瓣都を討ずる事の螺、盗驟を諞ずる事の姆、これ等の堀朔以上、最も多く武人をして、勢力を得せしむるの動機を作りたるは僧侶の横暴にして、なかんずく、山法師が切実に皇室の信頼を武人を与うるの媒介を為したるものと云うことを得べし。
http://www6.atwiki.jp/amizako/pages/58.html
Posted by 管理人 at 2007年02月05日 21:12
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