2006年12月13日

◆ Winny 判決

 Winny に判決が下った。有罪。罰金 150万円という罰金刑。
 これに対して被告は「新しい技術を開発することが、どうして罪になるんだ」と不満を表明した。( → asahi.com ──

 「新しい技術を開発することが、どうして罪になるんだ」と被告は問う。呆れた。
 この被告の頭は、とても変ですね。巷では「天才プログラマー」という評価がつくが、バカとしか思えない。判決を読む能力が欠落している。文章読解力がゼロ。
 なぜ? 判決では「新しい技術を開発することが罪になるのだ」とは書いておらず、あえてそれを書かずにいる。(つまり否定している、と見なせる。)
 判決が書いているのは、新技術の開発ではなくて、このソフトをバラまいたことだ。それも、匿名にしていることからして、悪質性を自分で自覚していることが歴然としている。

 被告は「こんなことだと、新技術を開発する意欲が失せる」とほざいているが、どうしようもない阿呆ですね。ちなみに、たいていの技術者は、この判決が出ていても、何も悪影響を受けない。私だってソフトを開発して無償公開しているが、ちっとも悪影響を受けない。開発したいときには開発するし、必要ないときには開発しない。それだけのことだ。社会にとって明らかに善になるプログラムだけを開発しているのだから、今回の判決にはまったく影響されないのだ。

 ちなみに、ほとんどのプログラマーは、社会にとって善になるプログラムだけを開発している。そして、開発したものは、匿名ではなく明瞭な形で公開する。……こういう技術開発は、影響を受けない。
 ただし、ごく一部のプログラマーは、社会にとって悪になるプログラム(ウィルスなど)を開発する。そして、開発したものは、匿名でこっそりとばらまく。……こういう技術開発は、影響を受ける。「やばいな」と思って、開発を中止するだろう。そして、それは、かえって好ましいことなのだ。ウィルス技術について、「新技術の開発がストップする」というのは、好ましいことなのだ。「新技術ならば何でもいい」と思っている被告は、頭がイカレているとしか思えない。マッド・サイエンティスト。

 ──

 なお、「包丁を禁止するのと同じだ」という馬鹿げた擁護論があるが、こういう馬鹿げた詭弁については、先に批判しておいた。
    → 泉の波立ち 5月12日b
 要するに、 Winny というのは、包丁じゃなくて、サリンなのだ。サリンを実験室でこっそりと開発するのは、特に悪ではないのだろうが、開発したサリンを、公の場に匿名で設置して、「誰でもご勝手にお取り下さい」というふうにしたならば、それは大いなる犯罪なのである。
 そのサリンを使って殺人行為をした人は、確かに殺人の実行犯だが、同時に、サリンを開発して設置した人も、より悪質な首謀者と見なされる。
 オウムの事件で言えば、実際にサリンをばらまいた下っ端の実行犯も悪質だが、サリンを開発してたくさん生産した優秀な科学者こそ、よりいっそう悪質な主犯なのだ。で、もちろん、その開発を命じた麻原も、ひどく悪質である。(一方、史上初めてサリンを技術開発した化学研究者は、罪に問われない。)

 今回の Winny の開発者は、麻原と科学者との双方を兼ねている。非常に悪質だと言えるだろう。開発初期はともかくとして、著作権侵害がはっきりしたあとも公開状態を続けた(放置した)ことは、明白に犯罪性がある。
 したがって、有罪は当然であろう。

( ※ ついでだが、実害を比べてみるといい。包丁による殺人事件は、一年間にほとんどない。その一方で、包丁による料理の利益は、莫大だ。したがって包丁を禁じるのは馬鹿げている。一方、サリンによる被害は、起これば莫大だが、サリンによる利益は、ゼロ同然だ。……では、winny は? 利益は少しはあるのかもしれないが、他の公開方法もあるので、別になくても構わない。その一方で、著作権侵害による被害は、莫大である。)
( ※ 私のこの理屈について、「とんでもない」と怒る人もいるだろう。そこで、その人に対して、新技術によってサイバーテロをけしかけて、数十億円の損害をもたらしてやればいい。その人は、自分が被害にあって初めて、他人の痛みを知るだろう。)

 ──

 ついでに、刑の大小について。
 罰金 150万円という罰金刑は、私としてはちょっと軽すぎるという気がしなくもない。というのは、実際にファイル交換で著作権侵害をした利用者は、懲役1年で、執行猶予付き、という判決だからだ。首謀者は実行犯よりも罪が重くて当然だ、と思う。
 私としては、「著作権損害による被害の半額程度を、著作権の損害を受けた人に賠償すること」を条件として、上記の罰金刑を許容する。一方、損害に賠償しないのであれば、数百億円の損害をもたらした大泥棒の幇助(もしくは破壊活動)として、懲役十年ぐらいの実刑が相当であろう。

 裁判所は、罰金刑に留めた理由として、「著作権法違反を積極的に企図したとは言えないから」と述べている。しかし、そんな屁理屈が成立するなら、次のことはどうか? 
 「ペスト菌を試験管に入れて、街中に大量に放置する。悪意のある人がそれを使うと、社会にペスト菌が蔓延するが、実際にそういう悪意のある人がいるかどうかは、わからないので、結果はなりゆき任せ」
 生物系のマッド・サイエンティストだ。この人の場合、「ペスト蔓延を積極的に企図したとは言えないから」という理由で、罰金刑で済むことになるだろう。患者が数百万人出て、死者が十万人ぐらい出るとしても、それでも、その犯罪はたかが罰金 150万円で済むわけだ。お安い殺人。殺人は安上がり。
 それでいいのだろうか?

 [ 付記 ]
 いいのかどうかと言えば、普通に考えれば「よくない」と答えるだろう。しかし、今の日本では、これはこれで、いいのかもしれない。
 つまり、史上最悪の大量殺人事件については、ごく軽い罰を与える。一方、ライブドア事件では、ごく小さな罪(帳簿の記載の方法の罪)について、六千億円の損害をもたらしたり、自殺者を出したり、日本中で大騒ぎしたりする。
 これでは、正反対だ。そして、これはこれで、理屈が通っている。すなわち、「狂気の社会には、狂気の原則を」というわけだ。
 狂人は狂人で、それなりに理屈は通っているのだ。きれいはきたない、きたないはきれい。(シェークスピアの台詞。) かくて、小悪は重罰、巨悪は軽罰。



 【 後日記 】 ( 2009-01-20 )
 高木浩光氏が次の趣旨の話を述べている。
 「Winnyの問題で作者を罪に問おうとしたことが社会に残した禍根」
  → http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20090118.html#p01
 やはり判決を誤読しているようだ。
 本項のコメント欄では(itmediaから)判決を一部引用しているが、それを見てもわかるとおり、罪に問おうとしているのは、「作者」ではなくて、「ばらまいた人」である。容疑は「作成したこと」ではなく「ばらまいたこと」である。
 違法性の理由を誤解してはならない。



 【 関連項目 】
  → Winny 関係の項目
posted by 管理人 at 19:21 | Comment(7) | コンピュータ_01 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ITmediaの記事を読まれましたか?
asahi.comの短い記事では今回の判決の問題点がしっかりと見えてきませんよ。
Posted by 名忘 at 2006年12月13日 20:20
判決に対する批判の全てが間違いではなく、良心的なものに
「自分が開発したものが自分では思いも寄らないファクターが原因で犯罪に利用された場合、その責任を問われる恐れがある」
というのがあるのではないかと思います。

個人的にはWinnyの作者は裁かれてしかるべきだと思いますが(問題が明らかになった時点でもバージョンアップを行っている以上、分かっていて著作権侵害を助長していると受け取らざるを得ない)、判決に欠陥があり悪しき前例となることは好ましくないと思います。
重箱の隅をつつくような使われ方をされるのが怖いです。
判決文はまだ読んでいないのですが、揚げ足を取られるようなものでなければよいのですが。
Posted by 社会不適合者 at 2006年12月15日 11:38
上記本文では「判決が書いているのは、……このソフトをバラまいたことだ。」と述べた。

これに関して同趣旨の説明がある。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/17/news002_2.html
 ──以下、引用──
裁判所の認定では、「侵害事件」のころ、すでに(a'')「Winnyが不特定多数者によって著作権者が有する公衆送信権を侵害する情報の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら」(b'')「その状況を容認し、あえてWinnyの最新版であるWinny2……を……ホームページ上に公開し……ダウンロードさせて提供し」たことが幇助に該当すると判断している。
 ──以上、引用──

 しかし、このサイトを書いた人は相当頭が悪いらしく、次のようにまとめている。
「Winnyが違法コピーに広く使われているってこと、知ってたでしょ。それにもかかわらず、Winnyの改良をしたでしょ。だから幇助」

 相当、頭悪いですね。裁判所は「改良したから」でなくて「バラまいた」ことを罪だとしている、と自分で引用しているくせに、それを理解できない。

 ちなみに、この人の書いた文章をネット上で検索してみたら、メチャクチャな文章で、意味が理解できなかった。日本語になっていない感じだ。

 ま、こういう人だから、本人の書いた文章は他人には理解されず、他人の書いた文章は本人に理解されないわけだ。

 こういう人は、何を論じるにせよ、著作物についてだけは論じないでほしいですね。意見の良し悪し以前の問題。音楽を理解できない人が音楽評論家になるようなもの。
Posted by 管理人 at 2006年12月17日 19:27
> 「Winnyが違法コピーに広く使われているってこと、知ってたでしょ。それにもかかわらず、Winnyの改良をしたでしょ。だから幇助」

そのまとめは私も不適切だと思います。(非難されて当然でしょう)
ですが後半にしっかり判決に対する問題点が書かれています。

>  (α)の点について。
> 〜省略〜
> ということを開発者が気にしなければならないとするなら、これまで企業にすら法的に要求されていない責任を個人の技術者が追わなければならないことを意味しないか。

といってもこちらも不適切な表現でしたが……。(つд`)
"改良"というのを"改良してリリース、もしくは既存バージョンのリリース継続"と読み替えてあげてください。
そうしたら普通に問題点が浮かんできます。

著者(=白田秀彰)さんは多分「その後の改良"など"」で表現できたつもりになってたんでしょうね……。

なので取り上げるならば重箱の隅(=不適切な表現部分)をつっついてないで、主文に対して何か意見してあげてください。
名忘さんが最初に述べた"問題点"は、この辺り(と+α)ではないかと思います。
Posted by pochi-p at 2006年12月27日 23:14
最後に 【 追記 】 を記しました。

 ──

 ずいぶん時間がたちましたが、最後のコメント(pochi-p)について返信しておきます。

 リンク先を見ればわかるように、itmedia の記事は次の通り。

「どんな風に使われているかな?」「どんな社会的効果があるかな?」ということを開発者が気にしなければならないとするなら、これまで企業にすら法的に要求されていない責任を個人の技術者が追わなければならないことを意味しないか。

 こんなことを書く人は判決を誤読しています。そのソフトが社会にどう使われているかを開発者が気にする必要はあるか? ありません。たとえそれがウィルスであろうと何であろうと、好き勝手に開発していいのです。
 ただし、それを公開・頒布する人は、そのソフトが社会にどう使われているかを気にする必要があります。社会に害悪をもたらすとわかっていて、それでも公開するのであれば、罰されて当然でしょう。
 ウィルスを開発することと、ウィルスをばらまくこととは、全然別のことです。混同しないようにして下さい。
 (それが本文の趣旨。本文をちゃんと読んでくださいね。)
Posted by 管理人 at 2009年01月20日 23:08
なお、改良行為が問題となるのは、
 「改良という技術開発自体が問題となる」
 のではなくて、
 「改良版を次々と公開することで、公開というバラマキ行為が多重的に継続していることが問題となる。犯行の多重性を指摘している」
 からでしょう。逆に言えば、
 「初期の初版だけを公開して、その後は(公開はしても)放置しておいただけだ。犯行は1回だけだ」
 という1回性を否定しているわけです。
 たった1回だけの悪ならばお目こぼしを受けるかもしれないが、何度も繰り返してバラマキ(≠ 開発)をしているのだとすれば、悪質性が高い、ということです。
 改良版の開発自体が悪であるわけではありません。
 被告がなすべきだったのは、次のことです。
 「改良版を次々と自宅で開発して、技術向上に努める。ただし、著作権侵害をするソフト自体は、一般公開しない。(ばらまかない。公開停止する。)」
 こうすれば、逮捕されることもなかったはずです。
Posted by 管理人 at 2009年01月20日 23:36
>「改良という技術開発自体が問題となる」
> のではなくて、
> 「改良版を次々と公開することで、公開というバラマキ行為が多重的に継続していることが問題となる。犯行の多重性を指摘している」
 
同じことですよ。どうでもいい。
Posted by at 2009年01月21日 03:35
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