2006年11月24日

◆ ビッグプロジェクト

 地球シミュレータ2ともいうべきもの(現在の地球シミュレータの後継機)を開発する予定だという。現在の 250倍の性能。予算は 1100億円規模。この金を目当てに、各地で誘致合戦がなされているという。しかしながら、あまりにも性能が高望みすぎで、実現可能かどうかおぼつかないという。(朝日・朝刊・特集 2006-11-24 ) ──

 この問題の根源は、次のことだ。
 「金をかければ技術開発ができる、という発想は成立するか?」……(*)

 これが成立するのであれば、莫大な金を投入することで、技術開発ができる。そのためには、普段はあまり技術開発に金をかけないで、せっせと金を貯めていればいい。そして、十年に一度ぐらいの割で、大金を一挙に投入する。すると、その時点で、最高レベルの技術開発が可能になる。……というわけ。
 ま、研究開発が公共事業であれば、この発想は成立する。たとえば、大きな橋を建設するには、金を貯め込む必要がある。毎年少しずつ、小さな橋をたくさん造っても、大きな橋は建設できない。大きな橋を造るには、金を貯めることが大事だ。……ビッグ・プロジェクト。

 しかし、ビッグプロジェクトの概念が成立するには、上記の命題(*)が成立する必要がある。本当に成立するのか? 
 仮に、成立するのであれば、スパコンの技術者をみんな解雇してしまえばいい。そして、ビッグプロジェクトを実行するときに限って、スパコンの技術者を他の分野から雇用すればいい。たとえば、パソコン開発の技術者から転用すればいい。では、それは、可能か?
 もちろん、不可能だ。
  ・ パソコン技術とスパコン技術はまったく異なるので、原理的に無理。
  ・ パソコン技術者そのものが存在しない。CPU は日本ではなく米国で
   作っている。技術者もまた米国人である。日本には技術者がいない。
   (これはちょっと誇張表現だが。)

 上で「誇張表現」と述べたとおり、日本に技術者がまったくいないわけではない。その証拠に、地球シミュレータを開発した技術者はいた。スパコン技術者はいた。
 問題は、その規模だ。スパコン技術者が継続的に存在しているのであれば、スパコン技術は継承されて発展する。
 しかしながら、「ビッグプロジェクト方式」を取ると、数年にいっぺんのビッグプロジェクトの間には、技術開発が停滞する。その間に、進歩は止まってしまう。

 要するに、技術開発には、継続性(中断しないこと)が不可欠だ。橋で言えば、橋の建設そのものは数年おきでもいいが、橋の技術開発は継続的にする必要がある。しかしながら、ビッグプロジェクト方式をとると、技術開発が停滞するので、橋の建設が不可能になる。

 ただし、通常の橋ならば、新規の技術開発は必要ないから、ビッグプロジェクト方式で十分に足りる。一方、スパコンでは、新規の技術開発の固まりであるから、ビッグプロジェクト方式(つまり技術開発を継続しない方式)では根源的に駄目である。技術開発の中断は、技術開発の後れをもたらす。

 結語。
 スパコン開発のために、「ビッグプロジェクト」方式を取ることは、技術開発や研究の実態を知らない阿呆のやることだ。
 金をかければできる、というものではない。金よりも、継続性が大事だ。継続性なしに、金だけをかけても、金の多くは無駄になる。子供に千億円を与えても、子供はスパコンを開発できない。子供がスパコンを開発できるようにするには、何十年か継続的に教育を続けるしかない。必要なのは、金ではなくて、知恵(脳)なのだ。
 スパコン開発のためには、「ビッグプロジェクト」方式を取るべきではない。むしろ、一定の金をかけるという範囲内で、毎年または隔年ごとに、着実に少しずつ技術を開発することだ。「普段は金をケチって、たまに一挙に大盤振る舞い」というのは、その金の大部分を無駄にすることになる。
 子供を成長させるには、毎日少しずつ食物を与えるべきだ。普段は餓死寸前にして、ときどき大量に食物を与える、というのでは、子供は成長できない。
 ビッグプロジェクト方式は、その発想が根源的に間違っている。子供や研究は、成長するものであるから、公共事業(橋の建設など)とは根本的に異なる。
 研究開発を公共事業の一環として行なうのは、国の金を食いつぶそうとする関連業界のエゴによるものである。それは技術開発とは正反対の発想だ。

 【 参考 】
 米国のスパコン開発の記事。
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0611/24/news012.html
posted by 管理人 at 19:57 | Comment(5) | コンピュータ_01 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
えっとなんて書いたらいいんだろう
ビッグプロジェクト方式というものに対して大変な
誤解をしておられるようで
スパコン開発のビッグプロジェクト方式というのは
技術開発「をする」ためのものではなく
技術開発「のスピードを上げる」ためのものです
このことを端的に人間的に言った同僚の
言葉があります
曰く
「札束積んでくれ、そしたらもっとやる気が出る」
分かりやすい言葉だわ

大体、南堂さんは
「本州四国連絡橋」とか「明石海峡大橋」を
知らないのだろうか?

誤読じゃないからね
ちゃんと
>>しかしながら、「ビッグプロジェクト方式」
>>を取ると、数年にいっぺんのビッグプロジェクト
>>の間には、技術開発が停滞する。その間に、
>>進歩は止まってしまう。
と明記してあるからね
Posted by ふーちゃん at 2006年11月25日 13:50
やっぱり誤読だと思いますよ。

私は「お金をかけるな」と述べているのではなくて、「お金をかけるのなら、ときどき大金を払うのではなくて、毎年払え」と言っているんです。

> 「札束積んでくれ、そしたらもっとやる気が出る」

 という人に対しては、「札束を積まないぞ」と言っているのではなくて、「毎年お金をもらえる方がいいでしょ」と言っているんです。

 その人には、こう言ってあげてください。
 「三十年後に、一億円の札束を積みます。ただし、それまでは、毎年、たったの百円しか給料を払えません。その間は、自己資金で、スパコンを研究してください。では、三十年後を期待します。やる気を出してくださいね」
Posted by 管理人 at 2006年11月25日 15:41
>> という人に対しては、「札束を積まないぞ」と
>>言っているのではなくて、「毎年お金をもらえる
>>方がいいでしょ」と言っているんです。
南堂さんは常識的判断というものがかけてますね
>「札束積んでくれ、そしたらもっとやる気が出る」
は当然目の前に積めといっているんです
そういえば「沈黙の艦隊」にそんなシーンがありますよね
>>「三十年後に、一億円の札束を積みます。ただ
>>し、それまでは、毎年、たったの百円しか給料を
>>払えません。その間は、自己資金で、スパコンを
>>研究してください。では、三十年後を期待しま
>>す。やる気を出してくださいね」
そんな空約束誰が信じるの?
>>私は「お金をかけるな」と述べているのではなく
>>て、「お金をかけるのなら、ときどき大金を払う
>>のではなくて、毎年払え」と言っているんです。
ほう研究費の補助金化ですか
あんたはスーパーコンピュータ産業をだめにする
つもりですか?
補助金付けにした結果、国際競争力をまったく
失った産業があるのに
Posted by ふーちゃん at 2006年11月26日 19:26
人件費もそうだけどこの場合、
金は設備投資の方が割合は大きいんでないの?

一枚10万円のCPUを10000枚買えばそれだけで
10億円だし、メモリや基盤、データセンター造るのだって
馬鹿にならない金が数年に一度必要になるわけで。

毎年予算を消化しなければならないのに
微妙に余る予算を継続的に投下されたって困るだけです。
あまりに世間知らずでなんかびっくりしますね。
Posted by Boeing774 at 2006年11月27日 11:56
>>Boeing774さん
南堂さんは世間知らずというよりは
自分の知識不足からくるトンでも説を
垂れ流す人だと思いますよ
前に北朝鮮は日本が生んだという
トンでも説を書いていましたが
あれは、近代世界史と大戦時のことを
もう少し詳しく勉強していれば
避けられた誤解ですし
Posted by ふーちゃん at 2006年11月27日 14:38
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