2006年11月15日

◆ 燃料電池の死2

  
 先に「燃料電池の死」と題して、燃料電池に否定的な見解を示した。そこでは「ガスタービン(やディーゼル)の方が熱効率が高いから」というふうに述べた。
 一方、燃料面(つまり水素)についても、燃料電池に否定的な見解が出る。要するに、燃料電池がいくら「燃料は水素なので炭酸ガスを出さない」と主張しても、水素を作るのには、(現状では)炭素を燃やすしかないから、かえって炭酸ガスが増えてしまうのだ。 ── 

 このことに気づかないのが朝日新聞で、たとえば、BMWの「水素自動車」の紹介で、「水素を燃やすから炭酸ガスを出さないクリーンな自動車だ」という宣伝を丸写ししている。(朝刊・経済面 2006-11-14 )

 しかし、もうちょっとまともな記者なら、水素生産のときに炭酸ガスを排出する、ということを知っている。
 「水素も現在のように天然ガスから作る限り、燃料生産から走行までの全体の CO2 排出量がガソリンより多くなる」( → 該当記事。 )
 これは「(フランクフルト 時事)」と書いてあるように、ドイツ在住の時事通信社の記者の書いたもの。このくらいが専門記者の常識であろう。

 さて。以上のことは、前フリだ。上の話は、いきなり書いたものだが、それ以前に、以下のことを書いておいた。

 話題は、燃料電池。燃料電池についても、同趣旨のことが当てはまる。つまり、水素を作るのには、(現状では)炭素を燃やすしかないから、燃料電池車を普及させても、炭酸ガスが増えてしまうのだ。

 これを解決するには、水素の製造に、太陽電池か原子力発電かバイオ燃料が必要となる。しかるに、現実には、その問題が解決されていない。燃料の問題を解決しないまま、自動車会社が勝手に先走って、水素を燃料とする自動車を作っても、まったく意味がないのだ。

 では、どうするべきか? 現実的に考えよう。次の三つからの選択だ。
  ・ 太陽電池   …… 技術的にはまだ未完成。まだまだ先。
  ・ 原子力発電 …… 技術的には可能だが、立地が問題。
  ・ バイオ燃料  …… 下記の問題。

 バイオ燃料には、問題がある。バイオ燃料そのものの問題ではない。これをわざわざ水素に改質することの問題だ。エタノールなどのバイオ燃料をそのまま燃焼させるのであれば、問題はない。しかるに、これを水素に改質してから、液体水素などにして自動車に搭載するのでは、えらく遠回りをすることになる。非常に非効率だ。無駄なエネルギーも使う。最終段階では、水素自動車も、燃料電池も、バイオ・ディーゼルよりも熱効率が悪い。……だったら、最初からバイオ・ディーゼルで液体燃料を燃やす方が、ずっと効率的だ。つまり、炭酸ガスの排出量が少ない。

 「水素燃料がいい」という発想は、「自動車本体からは炭酸ガスが出ない」ということを意味するだけで、「水素生産からは炭酸ガスが出る」ということを見失っている。これを一言で言えば、「頭隠して尻隠さず」である。頭だけ隠して、炭酸ガスを口から吐かないでいるつもりだが、実は、尻から炭酸ガスが漏れているのだ。たくさんね。(臭い話で済みません。   (^^); )

 とにかく、燃料電池車が炭素を排出しないというのは、狭い場所だけのことだ。地球規模で見れば同じことだ。炭酸ガスはどんどん出る。

 以上のことからすると、炭酸ガス削減のベストの方法は、水素燃料を使うかわりに液体バイオ燃料を使うコジェネだろう。家庭用ガスタービンでコジェネにして、自動車は電気自動車にする。これなら、熱効率は倍になる。燃費が半分になるのと同じ。
 似たようでも、家庭用燃料電池は、バイオ燃料を使わないのであれば、水素生産に無駄があるので、お勧めできない。通常の燃料電池礼賛は、水素燃料の生産にかかる無駄を忘れている。また、バイオ燃料を使ったとしても、ガスタービンより効率が低い。
 自動車搭載型の燃料電池は、熱効率があまりにも低すぎて、無駄。単体でもガスタービンやディーゼルに負けるし、コジェネ式の電気自動車に比べれば完敗だ。

 水素を使う燃料電池のメリットは、(現状では)何もない。あるとすれば、太陽電池か原子力発電で水素を生産した場合に限られる。その見通しは、まったく立たない。燃料電池の技術開発をするよりは、太陽電池か原子力発電の整備の方が、先に解決されるべき問題だ。(これが解決されれば、ひとまず、水素自動車が可能となる。)

 とにかく、解決の順序を間違えないようにしよう。どうせ燃料電池をやるにしても、一段目が、水素生産。二段目が、燃料電池。これを逆にして、燃料電池だけを技術開発しても、砂上の楼閣にすぎない。「水素がないままの燃料電池」となる。ガソリンのないガソリンエンジン車と同じ。
 こんなのを考えるのは、脳のない人間と同じ。   (^^);

 ──

  【 追記 】
 「太陽電池か原子力発電の整備の方が、先に解決されるべき問題だ。」とすぐ上で述べた。
 ただし、太陽電池や原子力発電が整備されたなら、いちいち「電気を水素に転換して電気に戻す」という無駄手間をかけるより、最初から電気のまま蓄電した方がずっと利口である。
 ゆえに、水素生産の方法として、「太陽電池か原子力発電」というのはありえない。
 一方、石油やバイオ燃料を使うのであれば、(水素に改質しないで)液体のままディーゼルやガスタービンで燃焼させる方がずっと良い。(改質の手間もかからないし、熱効率も高い。)
 結局、どの方法で水素を生産するにしても、燃料電池は勝ち目がない。燃料電池が便利だと思えるのは、「水素を燃料とする」というふうに漠然と考えているだけだからだ。どういう形で運用するかを具体的に考えれば、燃料電池は駄目だとはっきり判明するのだ。
( ※ 技術者は、自分の開発中の燃料電池のことばかり考えているから、そのまわりの水素生産のことが眼中にない。頭がタコツボ化しているので、全体像が見えなくなっている。)

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  【 補足 】

 あとで思い直したことがある。
 まず、上記では、こう述べた。
 「家庭用ガスタービンでコジェネにして、自動車は電気自動車にする。これなら、熱効率は倍になる。燃費が半分になるのと同じ。」

 しかし、燃費が半分になるのなら、ハイブリッドでも可能だ。ハイブリッドで燃費が半分になるのは、熱効率がいいからではなくて、減速時のエネルギーを回収して使うからだ。(ただし正確には、熱効率の良さもある。アトキンソン・サイクルを使うので。トヨタの場合には、だが。)

 以上をかんがみると、「バイオ燃料とハイブリッド」という組み合わせでも、同等の効果が得られることになる。だったら、コジェネやら電気自動車やらを使わなくても、同じことかもしれない。

 ハイブリッドというのは、案外、長期にわたって有望かもしれない。燃料電池やガスタービンをしのいで、ハイブリッド(バイオ燃料を使うタイプ)が長期にわたって覇権を取りそうだ。(最初はガソリン車タイプ。次いでディーゼル。)
 


 【 関連項目 】
  → 燃料電池車の休眠
  → 燃料電池の死
  → 燃料電池の死3
posted by 管理人 at 19:26 | Comment(1) | エネルギー・環境1 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
企業ががインフラを待たずに先走って製品を出すのはよくあることです。出さなければ他社に一番乗りという印象を持ってかれますから。言うなれば市場経済の業です。そこら辺は技術の更新とトレードオフでしょう。

さて、回生に限って言えば、ハイブリッドでデッドウェイト(この場合はエンジンの方)を抱え込むよりも電気自動車が効率的ですよ。重ければ慣性が増えるよりタイヤの変形等で転がり抵抗がより増えますから同等にはなり得ません。

まあ今のところ電気自動車は自家用車レベルしか作れないので、ハイブリッドの方が全体では効果的でしょう。あとは長距離輸送時の回生ブレーキの使用頻度ですかね。
最近は蓄圧式が鳴かず飛ばずで少し残念ですね。
Posted by 名忘 at 2006年11月16日 01:13
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