2006年09月30日

◆ Y染色体・補足

 前項の補足。

 前項では、「Y染色体の継承」という主張の馬鹿らしさを指摘した。
 ただし、同じことを指摘するにしても、間違った論拠で指摘するべきではない。──このことが、前項において重要なことだ。
(結論は正しくても、間違った根拠による結論では駄目だ、ということ。) ──

 比較対象(間違った根拠による正しい結論を出したもの)として、たとえば、立花隆の主張がある。こうだ。
 「神武天皇がたった二人の子孫だけを残し、その後の世代も各代二人の子孫しか残さなかったとしても、神武天皇の子孫は今、2の100乗人いるということである。」
 「神武天皇のY染色体を受け継ぐ人々が、今の日本にゴロゴロいるはず」
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/051130_tennou/index4.html
 これは間違いだ。
 仮にこの主張が正しければ、当時、Y染色体の持主が百万種類あったとして、上記の「2の100乗」の、そのまた百万倍の数の男性が現代日本にいる、ということになる。それはありえない。

 なぜか? 実を言うと、Y染色体がネズミ算で増えるということはない。
 比喩的に説明しよう。
 ミジンコが海に一匹いる。その一匹がネズミ算で増えていけば、「2の100乗」に増えることはあるかもしれない。
 一方、ミジンコが一滴の水のなかに一匹いる。その一匹がネズミ算で増えていけば、「2の100乗」に増えることはあるか? もちろん、ない。ミジンコの増える量には、「一滴の水の範囲内」という上限がある。上限の範囲内でしか、増えることはできない。上限に達したら? 全滅するかもしれない。全滅しないとしても、一定量(たとえば千匹)で頭打ちになる。そのなかで、ネズミ算で増えていけば、一匹が増えて一匹が死ぬだけだ。つまり、個体の交替が起こるだけだ。総数がネズミ算で増えていくわけではない。

 立花隆の計算をする場合にも、天皇の子孫の数を「2の100乗」というふうに計算することはありえない。なぜなら、途中で絶滅する家系が無数にあるからだ。仮に、子孫を二人生むとして、そのうちの二人が女ならば、その家系では男系は絶滅する。これは重要だ。このことは、ミトコンドリア・イブの学説を理解しているなら、誰でも知っていることだ。
 要するに、立花隆は、ミトコンドリア・イブという学説をまともに知らないので、荒唐無稽な机上の計算を主張しているのだ。

 では、正しくは? 「はっきりしない」である。
 「百代前の天皇のY染色体を、現代までずっと引き継ぐ子孫はどのくらいいるか?」という疑問に対しては、「非常に多数の人が引き継いでいる可能性もある」が、その一方で、「ほとんど絶滅してしまった」という可能性もある。どちらの可能性もあるのであって、「はっきりしない」というのが正解だ。

 ただ、理論上でははっきりしないとしても、現実には、天皇の子孫は富裕だったので、多くの子孫が継続している可能性が高い。実際、かなり多くの系図・系統がわかっているようだ。実を言うと、立花隆も、天皇家の末裔である可能性が高いようだ。
 「私の本名のほうの家名は橘だが、系図によると、橘家は敏達天皇(推古天皇の兄)からでたことになっている。ということは、系図を信ずれば、私の血にも神武天皇のY染色体が流れているということなのである。」
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/051130_tennou/index5.html
 こういうふうに、天皇家の末裔は、現在でもかなり多く残っている可能性が高い。
 ただし、その数は、立花隆の述べるように、「その辺にゴロゴロ」というほどではない。せいぜい、数十人であり、多めに見ても、数百人であろう。数千人もいるということは、まずありえない。なぜなら、ほとんどの子孫は、(女子しか産まれなかったというような理由で)男系は絶えてしまっているはずだからだ。
 このことは別に不思議ではない。現代だって、子供二人を産めば、4夫婦に1夫婦は女子二人なので、男系は絶える。家系を残すためには、婿養子を迎えるしかない。
 天皇家の末裔が現在も続いているとしても、そのうちの多くは、途中で婿養子を迎えたりして、他の男系に交替しているはずだ。そして、それは、別に不思議でも何でもないのだ。

 天皇家の末裔が「その辺にゴロゴロ」というようなことはない。それが間違った机上の計算に基づく主張だ。間違った主張を根拠として、「Y染色体の継承は無意味だ」と結論しても、その結論は正当でない。その結論は、結論自体は正しいとしても、論拠が正しくないのだ。
 それゆえ、前項のように、正しい論拠を示す必要がある。
 (さもないと、Y染色体維持論者に、論理の穴を突かれて、あっさり撃破される。)
posted by 管理人 at 09:45| Comment(2) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
社会的制度に科学的な根拠をもちだすのは全くのナンセンスだと思いますよ。
科学的に間違っていようが制度としては問題になりません。
たとえば脳死臓器移植がらみの死の定義問題でも,「生物学的な死」とは無関係にさまざまな利害関係で政治的に「制度的な死」が定義されます。
制度は言ってみれば好みの問題ですから流行り病みたいなものでしょう。
Posted by 良寛 at 2006年09月30日 10:52
万世一系については、かなり前( 2005-12-07 )も述べたことがある。イギリスの王系との比較。

http://www005.upp.so-net.ne.jp/greentree/koizumi/99s_news.htm#tenno8


【 追記 】 の (3) から引用すると、次の通り。

>──
 英国女王ヴィクトリアは、正当な嫡子ではなく、また、英国王の血統に属するわけでもなく、まったく外部の「ケント公の妻 + その間男」の子であったらしい。それが血友病から露見したわけだ。
>──

 結論。
 一般に、ある家系に「万世一系」があっても、その実態はいつのまにか「間男系」に乗り換えられてしまった可能性が十分にある。英国の王系では、そうであることはほとんど確実だ。(血友病の遺伝子からわかる。)

 Y染色体はときどき壊れて、子が産まれにくくなることがある。その場合、家系断絶(お家断絶)の危機が生じる。この危機を避けるために、妻にあえて不倫をさせて黙認する、ということは十分に考えられる。その例が、英国の王系だ。
Posted by 管理人 at 2006年10月17日 19:33
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