2006年08月03日

◆ ボルト


 流水プールの事故に関して言うと、「ボルトで止める」という方法が根源的におかしい。なぜなら、ボルトは可逆的なものであるからだ。締めたあとで、弛むことがある。この意味で、今回の事故は、必然的だった、と言える。 ──

 これは一般的な問題ともなる。なぜなら、ボルトというものは、たいていの機械や器具に使われているからだ。そのほとんどは、「弛んではずれる」という危険と隣り合わせだ。この危険性を理解しておく必要がある。十分に。

 ──

 なお、この問題を解決するには、次の二通りがある。

 (1) 塑性域ボルト
 「塑性域ボルト」というのを使って、「締めることはできるが、緩めることはできない」というふうにする。(方法では「塑性域角度法」という方法。)
 普通のボルトは右に回して締めて、左に回して緩める。これは可逆的だ。しかし、いったん締めると、もはや緩めることができない、というボルトがある。それが、塑性域ボルトだ。詳しくは、ネットなどで調べるといい。
( ※ 単純に言うと、特殊なネジ山をしているので、強い力で締めることができて、そのせいで、締め付けたあと、ボルトが歪んでしまう。歪んだボルトは、もはや元の形状とは異なる形状となり、たどってきた経路をたどれなくなる。かくて、不可逆的になる。── 「延びすぎたゴムやバネは元の形には戻らない」というのと同様。)
( ※ 絶対に、はずれないことになる。だが、これはある意味で不便だ。「二度と開かない金庫」のようなものである。用途が限られる。)

 (2) 幾何学形状
 ボルトのかわりに、「幾何学的な形状で、はめる」というふうにすることもできる。これがお勧め。広い意味では、知恵の輪のようなものだ。
 基本的には「蓋をはめる」という目的のためには、ボルトを使う必要はなく、何らかの幾何学的な構造が使える。
 最も単純なのは、「パチンとはめる」という方法である。「ねじ回し式」の蓋のかわりに、「パチンとはめる」という蓋がある。
 もうちょっと凝ったのでは、「寄せ木細工」ふうの蓋がある。一枚の蓋ではなくて、蓋本体と、ストッパーとが、複雑に組み合わされる。ネジはない。

 ──

 一般に、「ネジ」というのはポピュラーだが、実は、用途が限定される。
 「何度も何度も、開けたり締めたりする」
 「弱い力で済む」
 この二つの条件を満たす必要がある。たとえば、歯磨きのチューブのキャップ。

 一方、この二つの条件を満たさない場合には、「ネジ」というのは、やめた方がいい。特に、流水プールは、上記の条件をどちらも満たさない。こういう場合には、ネジ(ボルト)は、やめた方がいいのである。
 にもかかわらず、現実には、ネジが多様に使われている。このままだと、同じような事故は数限りなく発生するだろう。

  【 追記 】
 前項のコメントで紹介されていたJSTの失敗学サイトで、「ボルト ゆるみ」を検索すると、次の事例が紹介されていた。
  → 検索結果

 この検索結果を見ても「塑性域ボルト」とか「塑性域角度法」とかの言葉は出てこないようだ。念のため、「塑性域」という言葉で検索してみたら、検索結果はゼロである。
 要するに、単に事故の事例を列挙しているだけで、原因も本質もつかめていない。単に事例を並べているだけで、分析がゼロ同然。その件限りの個別的な表面的な原因ならば分析されているが、あくまで個別事例になっている。何も学んでいないわけだ。

 データベースというのは、「過去から学ぶ」ために必要なのだが、今のところはまだまだその水準になっていないようだ。……要するに、何の意味もないデータベースになっている。「覚えるだけで知恵のないコンピュータ」という見本ですかね。IT時代というのは、IdioT 時代のことですかね。

( ※ JSTの悪口が書けました。情報提供、ありがとうございました。  (^^); )
posted by 管理人 at 00:43| Comment(3) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いまさらですが、ネジは、ネジの山と谷の接触面の摩擦力でとまります。
ですから、硬くて緩まないネジには、オイルを吹き付けたり、ボルトの頭を強くたたいて、ネジ山と谷の喰い付きを離して、摩擦を弱くしてやるわけです。
緩める事ができる所こそがネジの価値で、問題の格子も、点検や清掃で取り外す必要があればこそ、ボルト止めにしてあったのでしょう。

報道では、ボルトの代わりに針金を使っていたのが悪いというような論調ですが、
(ボルトと針金の違いはバカでもわかりますから、アピールしやすいですしねぇ)
固定すると言う機能においては、ボルトも針金も基本的に差はありませんし、材質次第では、錆び方だって同じ。

本当の欠陥は、
ネジは緩むもの、鉄は錆びるもの、コンクリートは割れるもの、ついでに、人はネジを見ると回したがるもの、
と言う前提で管理体制を作らなかった・・・と言うより、せいぜい資産管理上の耐用年数しか頭になく、施設、設備の劣化など考えてもいない・・・管理者側のおつむ「ソフト」面にあります。

全国の公共施設の多くが、箱物を作ったら後の管理は外注業者に丸投げ、状態にあるようですが、
箱を作る金は出しても、後々、ちゃんと維持して使えるようにする金も手間もケチるやつこそが元凶です。

P.S.
JSTの失敗学サイトを覗いてみましたが、
これはデータベースとは言わないんじゃ・・・?
最初からフィルターがかかりすぎ、まとめすぎのように思いますが・・・。
Posted by 兼業主夫 at 2006年08月04日 08:13
ひゃ〜、JSTの失敗学サイトはデータベースではなかったのですね。これは失礼いたしました。以前に利用したときは事例だけを追っていたので、対策までは吟味しませんでした。まぁ事例だけのデータベースということでご勘弁下さい(謝るのも変ですが)。
次回は垂れ流しではなく、まともなものを紹介できるよう充分に吟味いたします(無理だろうなぁ^_^;)。
Posted by hokano at 2006年08月08日 01:02
ステンレス枠と鉄のボルトナット(あるいは鉄の針金)のような組み合わせで、
異種金属間の電位差の発生による腐食、さらにプールの場合は、塩素系消毒薬の添加でイオンが増え、
その現象が加速されるので、意外に早くボルトや針金が細くなり破断すると、
今朝聞いたラジオで指摘されていました。
昔からこの種の事故は時々発生していますね。
Posted by 東方逆 at 2006年08月10日 21:24
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