2006年04月23日

◆ Winny は崩壊しない


高木浩光氏のサイトを先に紹介した。
http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20060416.html
ここでは、氏は「 Winny が崩壊する」というシナリオを二通り示している。
しかし、私は、このシナリオは甘すぎる、と思う。
これはいわば、「エイズは崩壊して消滅する」というような甘いシナリオだ。とうていありえない。エイズは、自然に崩壊するのを待つべきものではないのだ。──

 以下、二通りのシナリオごとに示す。

 シナリオ(A)
メールソフトやWebブラウザの脆弱性を突く 0-day攻撃で、何の落ち度もない人達に感染するウイルスが登場する。自称進歩的識者達がこの被害に遭う。自分の身に降りかかった痛みを知ってようやくWinnyネットワークの存在自体の危険に目を向けることとなる。トンチキが目を覚まし、「やっぱりWinnyを止めよう」ということになり、Winnyネットワークはようやく縮小の方向に向かう。
 ここでは、次の図式が示される。
   一般人の被害 → 一般人の反対論 → 使用者の自粛
 最初の矢印は成立するが、二番目の矢印は成立しない。一般人が被害にあっても、Winny 使用者は「ふん、知ったことか」と思うだろう。また、自分自身が被害に遭うことがあるとしても、実際に被害に遭うまでは、やめようと思わないだろう。(現状を見ればわかる。)
 上記のシナリオが成立するのは、使用者が善人であるか利口である場合だけだ。悪人であり馬鹿でもある使用者(つまりほとんどの使用者)は、やめるはずがない。
 かくて、シナリオは成立しない。

 シナリオ(B)
DOM(ダウンロードするだけの行為)を推奨する。DOMが増大し、DOMだけとなり、Winnyネットワークは消滅する
 これもありえない。なぜなら、これが前提とするのは、次のことだからだ。
 「人は誰しも、自己の利益のために、最善の行動を取る」
 これは自由放任の思想だが、そんなのは夢想にすぎない。
 そもそも、Winny では、多くの人々はなぜ、ファイルをアップロードするのか? そんなことをやっても、自分はまったく利益を得ない。自分の利益を求めるのであれば、そんなことをする必要はないはずだ。
 実は、このことは、ミツバチの行動からもわかる。ミツバチが「ハチの一刺し」をして、死んでしまうのは、なぜか? なぜ自分の利益にならないことをするのか? 
 それは、「そういう集団の方が生き残るから」である。ハチの一刺しをする集団と、ハチの一刺しをしない集団を比べれば、前者の方が生き残る。だから、そういう集団が生き残るのだ。つまり、エゴを基準としない集団の方が。
 Winny の場合も同様だ。DOM の集団があれば、それはたしかに崩壊して自滅する。自滅すれば、存在しないのだから、無視してよい。一方、DOM をやらない人々の集団も別に存在する。その集団は、自滅したDOM を尻目に、いつまでも存続し続ける。結局、Winny が生き残り、DOM だけが消滅する。
(ただしその前提には、Winny と DOM が交わらないことが前提となる。一方、両者が交わったら? Winny の規模が縮小するだけだろう。やはり、悪意の利用者は以前と同じく、せっせとファイルを公開し続けるだろう。)

 ──

 さて。以上では、シナリオを否定した。しかし、高木氏に反論することが、本項の目的ではない。肝心の話は、このあとだ。
 高木氏の発想には、根源的に欠落している点がある。次のことだ。
 「 Winny は、人間の悪意を前提として咲いた、悪の花である」
 人間はエゴだけで生きる生物ではない。人間には悪意がある。それは、「バレなければ他人のものを盗んで、いい思いをしよう」という悪意だ。
 たとえば、たいていの人は泥棒をしないが、「絶対にバレない」とわかっていれば、多くの人が泥棒をやるだろう。「お天道様が見ているから、悪いことはやらない」という人ばかりではないのだ。(ついでだが、私だって、道に落ちているお金を猫ババしたことがあります。50円ぐらい。)
 ともあれ、Winny の本質は、「人間の悪意を利用している」ということであり、「その悪意を持った人間たちの集団によってシステムが稼働する」ということだ。
 この本質を理解しない限り、Winny の対策も無効となるだろう。「人間は合理的に行動するはずだから、Winny はいつか自滅するはずだ」というのは、楽観的すぎる。むしろ、「世の中には、悪意に染まった愚かな人々がたくさんいるんだから、Winny は容易なことでは消滅しない」と理解するべきだ。
 その点では、さまざまな病原菌がなかなか消滅しないのと、同様である。「放置すれば自動的に最適化するはずだ」という甘い楽観論を、私は取らない。人間の強い意思がない限り、社会を病気から救うことはできないのだ。

[ 付記 ]
 ついでに、オマケ。
 ファイル配布の匿名性という問題は、IP アドレスを隠さない、ということだけで片付く、と私は思う。
 一般人のファイル配布であれば、普通の(匿名でない)P2P で実行すればいい。たとえば、「花子は素敵だ」と書いたファイルを配布する。
 犯罪者のファイル配布であれば、匿名の)P2P で実行する必要がある。たとえば、「花子をレイプしてやれ。この時間にここで襲え」と書いたファイルを配布する。これは犯罪だ。犯罪だから匿名でやる必要がある。IP アドレスが知られればまずい。

 要するに、IPアドレスが知られるとまずいか否かは、犯罪性の有無だけにかかわる。犯罪性のある場合にのみ、裁判所の令状を取って、警察が犯罪者を摘発する。それ以外の場合には、何の影響もない。
 だから、IPアドレスさえ判明すれば、それでほとんど解決が付くのだ。判明したところで、普通の人は誰も被害を受けない。犯罪者だけが被害を受ける。
 つまり、「IPアドレスを隠せ」と主張しているのは、犯罪者の味方だけなのだ。

 なお、独裁者の国では、これがちょっと問題となる。ただし、それは、「犯罪」の定義が勝手に変更されているからだ。それはそれで、別の問題である。独裁国家の問題は、別の問題となるので、ここでは論じない。
posted by 管理人 at 00:22| Comment(3) | コンピュータ_01 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
言わずもがなのことだが、補足しておく。

 「人間の強い意思がない限り、社会を病気から救うことはできないのだ。」
 という最後の結論は、
 「高木氏は間違っているぞ。考えが甘すぎ」
 と批判しているのではなくて、
 「強い意思をもつ高木氏がさらに強い意思をもつべし」
 とけしかけているわけだ。だいたい、強い意思をもつ人なんて、高木氏のほかにいないじゃないですか。
 というわけで、本項は、批判ではなく、エールである。
Posted by 管理人 at 2006年04月22日 23:13
「波立ち」のほうの記事ですがUSENは20日の後場に2600円ぐらいから15%近く急落してるんっスよ。
明らかにインサイダー。この会社もやばいっす。
いちデイトレーダーより。
Posted by kal at 2006年04月23日 01:54
雑談を少々。

Winny 論議をめぐる高木氏(と私)の言論を見ると、懐かしい感じがする。
世間の多くが「進歩派」ぶって、「自由な世界を」なんて口に出しながら、社会を崩壊させようとしているときに、孤軍奮闘で、社会を崩壊から救おうとする。

これは、文字コードのときと、同様だ。あのときは、ほら貝の加藤弘一氏と私が孤軍奮闘という感じであった。今回も似た感じだ。

とはいえ、最終的には、文字コードでは孤軍奮闘の少数派が逆転勝利を得た。Winny 論議でも「正義は勝つ」というふうになってもらいたいものだ。

文字コードのときは私が技術的なことを担当したが、Winny では高木氏が技術的なことを担当している。その役割は非常に大きい。高木氏には大いに期待したい。彼なくしては社会を崩壊から救うことは困難だろう。
Posted by 管理人 at 2006年04月23日 11:25
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