2005年09月14日

◆ 南堂の役割

 「誰が正字優先案を決めたのか?」
 という疑問に、さらに詳しく答えるなら、次のようになります。 ──

 基本的に言えば、工業技術院が決めたのですが、どうしてそうなったかというと、根源に、次のことがあります。
 「JIS委員会が自力で規格を決めることができなかった」
 2000JIS は、JIS委員会でちゃんと決めるはずだったのですが、最終的には座礁しました。すなわち、次の形で決着しました。
  ・ 文字集合は、略字派の主張を取り入れて、略字優先の文字集合とする。
  ・ ただしそれを実現させないため、文字にはコードポイントを与えない。
 
 2000JIS は、本当の意味の規格ではありません。なぜなら、文字にコードポイントが与えられていないからです。提案ではコードポイントが与えられましたが、「実装不能」とするために、決定ではコードポイントを削除されました。
 なぜ? 「こんな規格は絶対に認められない」という、正字派の意見が通ったからです。両者の意見は対立しましたが、「ここまで努力した略字派の顔を立てなくちゃ、略字派の委員長がかわいそうだ」という、技術者にはふさわしくない情実の主張(特に国内系のF社)があって、略字派の規格が採用されました。しかし、「そんなのは駄目だ」という正字派の抗議・反対で、「実装不能」という形になったのです。

 その意味は何か? 「規格が座礁した」ということです。こういうことは、普通、めったにありません。(小泉みたいな)強力な独裁者タイプの委員長が主導する規格は、通常、必ず実現します。今回も、規格決定の2年前の時点では、この規格の実現に疑いを挟む人は、ほとんどいませんでした。(特に、朝日新聞に至っては、略字派の擁護のために、「今度決まるJISはすばらしい規格だ」という提灯持ちの記事を、何度も掲載しました。)
 しかし、「ほら貝」というサイトが、批判のキャンペーンを張りました。これに同調して、私も、技術面からJIS批判の技術的な論拠を次々と提示しました。それが「文字講堂」のサイトです。

 そのときまでのJIS委員会は、「技術のことを知らない素人が、何を言っている」というふうに鼻でくくった態度でしたが、文字講堂のサイトで、2000JISの技術的な欠陥を次々と暴露されて、JIS委員会の略字派はおおあわて。技術的な話を読めば、どう考えても文字講堂の言う通りであり、JIS委員会の間違いです。2000JISは欠陥規格です。……こうなると、良心的な技術者が、目を覚ましました。「長いものに巻かれろ」とばかり、独裁者の委員長に従っていましたが、大声でひどい悪口を言う南堂の言葉を聞いて、「おれたちも少しは抗議をしたっていいんじゃないかな」と思ったのかもしれません。こうして、公然と、略字派に反発する人々が出てきました。(特に外資系のI社の技術者や、独立的な研究者。)

 かくて、最終的には、2000JIS の規格案は、流れてしまいました。座礁です。
 こうして、「JISの委員会は、自力では何も決められない」という失態をさらしました。そこで、「両勢力が拮抗して、自力では決められない」という状況に政府が介入して、片方に軍配を挙げたわけです。その軍配は、もちろん、国語審議会の推奨する「正字派」の方に掲げられました。
 このとき、同時に、「字形の変更」も決まりました。

 結局、南堂のやったことで、最も大きな影響は、どこに及んだか? それは、「正字優先」ということそれ自体ではなくて、「略字優先の規格(2000JIS)をたたきつぶしたこと」です。当初はつぶすことなど不可能に思えた略字派の規格を、ほとんど完成した時点で、「駄目」という形にたたきつぶしました。
 その実行部隊は、JIS委員の正字派です。ただし、その理論的総本山が、南堂の「文字講堂」だったわけです。
 それまで、略字派の委員長は、豊富な文字コードの知識をもっていて、正字派の主張をことごとく押しつぶしていました。「そんなことも読んでいないのか。読んでいないくせに、文句を言うな」という形で、やたらと批判を抑圧しました。(今回、南堂批判をするJIS委員も、そっくりの論調を取ります。)……ここで、「そんなこと」というのが、誰もが知っている基礎知識であるならともかく、自分のお手製の資料でした。自分の作った些末な資料を「読むのが当然だ」という形で相手に強制して、「読んでいないなら文句を言うな」という形で批判を封殺したのです。
 こういう連中には我慢がならないのが、変人たる南堂です。彼らの理論的な論拠の欠陥を、次々と暴き立てて、論破しました。結果的に、略字派の主張は穴だらけであることが明らかになりました。「完璧な文字コード案」と思えた2000JIS規格案は、あちこちに大きな穴のある、とんだ欠陥規格です。ここまで欠陥を暴露された規格は、採用するに値する立派なものではないので、正字派の人々は勢いに乗って、略字派を批判しました。
 かくて、2000JIS は最終的に座礁したわけです。

 南堂の最大の成果は、「正字優先案の決定」に直接的に関与したというよりは、政府が「正字優先案の決定」を採用決定せざるをえなくなるように、2000JIS を座礁させたことにあります。正字優先案を決定したというよりは、略字優先案を破壊したことにあります。
 正字優先案の決定それ自体は、(略字優先案の座礁のあとで、)国語審議会の影響が最大だったでしょう。

( ※ 当然ながら、南堂は略字派に恨まれています。その恨んでいる連中のうちの一人が、あちこちで下品な悪口を書き散らしているわけです。うっぷん晴らし。)

 ──

  【 追記 】
 南堂の役割は、略字優先の規格をつぶしたことですが、これは南堂一人がやったことではなく、多くの人の力が合わさってなされたことです。その点は、誤解なきように願います。
 基本的には、文藝家協会の「漢字を守れ」という声明のように、「正字優先」の声が世間では多数でした。しかし、それらの声は、JISの規格委員会の場では、鼻でくくったようなあしらいを受けました。「文字コードのことを知らない連中が何を言っている。素人は黙っていろ」という調子で、正字優先の声は、略字派によってまったく無視されました。
 こういうJIS委員会の状況に危機感をいだいて、キャンペーンを広げたのが、「ほら貝」(by 加藤弘一)です。これを受けて、私もこの戦線に参加しました。最終的には、実質的に、この二人だけだったようです。(正字優先を理解しても、黙っている人ならば、無数にいましたが。)
 こうして二人の正字派が、残る大多数の略字派と戦うことになりました。この戦いは、多勢に無勢で、まったく勝利の見通しはありませんでした。私自身、勝つ見込みは、ほとんどゼロだと思っていました。たった二人の民間人が、政府系の団体と対決して勝てるなんて、ほとんどありえないことだからです。それでも、たとえ負けるとわかっていても、何もしないよりはマシです。わずかに勝てる可能性(ゼロに近い可能性)に賭けて、必死に力を尽くしました。
 すると、その二人の力がだんだん世間に浸潤し、JIS委員会の場にも浸潤しました。特に、技術面では、「素人は黙っていろ」と口にしていた略字派こそ、文字コードもの面ではさまざまな点で素人同然である、というふうに、南堂が暴露しました。彼らの主張の欠点を、ことごとく論破したのです。
 こういう流れを経て、「略字派の支配 → 略字派と正字派の拮抗」というふうに、状況が変化しました。それでもまだ、正字派が優勢になったわけではありません。だとしても、最終的には、「痛み分け」「相打ち」の形で、略字派の規格(2000JIS)を実質的に葬ることができたのです。──それは、当初の「略字派の圧倒的な優勢」という状況からは、とても予想のできない結果でした。

 まとめて言えば、こうです。
 南堂は決して一人で「正字の優勢」という状況を作り上げたわけではない。そこには多くの人々の力が関与した。ただし、「文字コードの技術面」という関ヶ原の分野では、略字派が圧倒的に優位であったがゆえに、略字優先の規格が決まるはずだった。ところが、である。そこに参入して、この関ヶ原において「略字派の優勢」と戦った勢力の参謀が、南堂であった。もし南堂がいなければ、どうだったか? 正字派の兵たちは、参謀がいないまま、右往左往して、略字派にことごとく打破されただろう。あげく、略字派の求める規格が決まっただろう。その場合、今日の 2004JIS は存在しえず、かわりに、2000JIS が正式な規格となってたはずである。……そして、そうならなかったのは、最終的には両者の力がほぼ拮抗したからである。それは当初には、予想もできない結果であった。

 だから、南堂の悪口を言っているのは、「2000JIS の復活」を願っている略字派です。彼は、南堂の悪口を言うこと自体が目的なのではなくて、本当は「略字の支配」を確立したいのです。そのために、正字派のボスである南堂を非難しているわけです。……というわけで、彼が南堂を非難すればするほど、南堂の重要性を明らかにするでしょう。「目の上のたんこぶ」かな。

 p.s.
 ともあれ、今回の中傷問題でも、次のことがわかったでしょう。
 「略字派は、いまだに強い権力を握って、正字派をたたきつぶそうとしている。非難中傷などをして、正字派を排除したがっている」
 「正字派は、非常に微力である。南堂ただ一人を除いては、ともに戦ってくれる人は、ほとんどいない。南堂の孤軍奮闘。黙って共感する観客はいっぱいいるが、ともに戦う正字派は皆無に近い」
 今日でもそうだし、過去でもそうでした。それでもともかく、正字のある規格が実現したのです。
posted by 管理人 at 00:53| Comment(1) | TrackBack(0) |  文字規格 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
本項の後半に、「追記」を加筆しました。
時刻は、下記。 ↓
Posted by 管理人 at 2005年09月14日 11:48
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