2005年09月09日

◆ 字形の変更とは

 「字形の変更」を唱えた南堂説について、「同じことを考えた人は、南堂以外にも、たくさんいるだろう」という見解が出た。しかしそこには、勘違いがある。 ──

 なるほど、「南堂だけではあるまい」と思う人も、けっこういるだろう。そこで、これについて解説しよう。

 ここでは「字形の変更」という案を、勘違いしているのだ。
 「字形の変更」という案は、単に「字形の変更をする」という案のことではない。その方式自体は、昔からずっと知られていたことだ。ただし、「それは駄目だ」というのが、世評だったのである。(その理由は、誰もが思いつくとおり。)

 一方、私が話題にしているのは、次のことだ。
 「字形の変更をしても、大丈夫」
 つまり、やるかやらないかではなくて、「やっても大丈夫」ということだ。

 歴史的に説明しよう。
 「字形の変更」は、「文字の追加」と、対比される。後者は、新文字を新コードポイントに追加することだ。一方、前者では、コードポイントの追加・変更がない。(字形だけが変更される。) 
 この二つを対比して、「文字の追加」の方がいい、という解釈が、常識だった。その理由は、こうだ。
 「字形の変更には、トラブルがつきまとう」
 そして、この見解が、今日でも世間にひろく出回っている。それこそ、今回の話題となった問題だ。

 さて。この件について、私は、次のように示した。
 「たしかに、混乱はある。それは略字の人にとって困る混乱だ。しかし、その混乱は、5という量にすぎない。一方で、正字の人にとっては、等量の改善がある。略字の姓名の人が正字に変更されて改悪されるのと同じ分、正字の人が略字から正字に変更されて改善される。両者は、トントンである。だから、特に状況が悪化するわけではない。改悪される人と、改善される人とが、入れ替わるだけだ。全体量では、混乱の総量は変動しない。」
 右手と左手、という概念を使おう。これまでは、左手が得で、右手が損。これからは、左手が損で、右手が得。……このとき、左手だけを見ると、「左手が損する」と大騒ぎする。しかし同時に右手を見ると、「右手が得する」という状況がある。両者の総和は変わらない。とすれば、「左手が損だ、損だ」と大騒ぎするのは、正しくないのだ。
 ここでは、5の損と5の得とが、同時に発生している。差し引きして、チャラである。

 さらに、左手と右手とは別に、「他の部分」という量もある。それは、「氏名以外の普通の日本語表現」という部分だ。その量は、90である。この部分は、全面的に改善される。

 以上をまとめると、こうだ。
  ・ 略字の姓名の人 …… 5の損
  ・ 正字の姓名の人 …… 5の得
  ・ それ以外の一般 …… 90の得
 ───────────────────
 合計           5の損と95の得


 こうして、帳尻が示された。
 そして、この帳尻を示すのが、南堂説である。それは、「字形の変更をする」という案ではなくて、「字形の変更をしても大丈夫。若干の損はあるが、大幅な得がある」という評価だ。この評価ゆえに、
 「字形の変更をするべきだ」
 という提案が生じる。これが南堂の提案だ。
 そして、このことがまさしく、2004 JIS をめぐる混乱 のページで説明されたことだ。

 ──

 ここまで理解すれば、わかるだろう。仮に、
 「南堂の提案は、誰にもすぐに思いつくことだ」
 というのであれば、今回、世間における大騒ぎはなかったはずだ。私がいちいち長たらしい文書を書かなくても、誰でもすぐに理解できるのだから、「ああ、なるほど。2004JISにして、良くなったんだな」と、すぐに納得できたはずだ。
 しかし、誰もが、納得できなかった。また、例の文書における説明と同様の説明を、誰もしなかった。一般人がしなかっただけでなく、国語審議会も、JISの規格委員会も、マイクロソフトも、マスコミも、誰もが、「95対5」という話をしなかった。彼らはほぼ全員が、「5の混乱」だけを指摘して、「95の改善」との差し引きを示さなかった。左手の損だけを指摘して、右手の得や、他の全身の得を、示さなかった。

 だからこそ、私が指摘したのである。つまり、「物事の一部だけを見ずに、物事の全体を見よ」と。
 ただし、その説明を聞いたあとの反応は、大方、3通りに分かれる。
  (1) 「なるほど。よくわかった。これで問題がすっきり納得できた。」
  (2) 「そんなこと、言われなくても、誰だってわかることさ。」
  (3) 「南堂はJISの委員ではないぞ。」

 1番目は、普通の発想。
 2番目は、「コロンブスの卵」。自分では正解を知らないくせに、他人から正解を教えられたあとで、「そんなことは最初から知っていたさ」と言い張る。
 3番目は、論点を逸らした、便所の落書き。

 さて。あなたの反応は、どれでしたか?
posted by 管理人 at 12:48 | Comment(4) | TrackBack(6) |  文字規格 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Posted by 管理人 at 2005年09月09日 17:25
お手数お掛けし恐縮ですが、冒頭見解を示していた文書へのリンクを提示頂けますでしょうか。
Posted by かえで(yfi) at 2005年09月09日 18:48
当サイトの方針として、個人攻撃になるような形の批判は、なるべく避けたいので、提示を控えます。
 なお、該当サイトでは、特別な話が記述してあるわけではありません。「他の人も思いついただろう」という感想があるだけです。詳しい批判や説明があるわけではありません。感想が一言だけ。読んでも、何も新たな情報は得られません。
Posted by 管理人 at 2005年09月09日 19:42

 結局、今回の騒動では、南堂に対するまともな批判は、一つしかなかった。その批判の紹介と、批判への解答は、8月19日に示した。あらためてその文書のリンクを示すと、次の通り。(小泉の波立ちの一部。)
http://www005.upp.so-net.ne.jp/greentree/koizumi/99o_news.htm#11

 一方、ただの悪口なら、たくさんあったが、いずれもただの短い落書きみたいな感想であり、理屈は何も書いていなかった。

 他方、「字形の変更は駄目だ」という単純な意見(南堂説への批判ではなく、南堂説の扱った疑問そのもの)なら、たくさんあったようだ。ただし、それは、昔からずっとあったものである。
 「略字の辻さんが困る」
 という話。ただそれだけである。「5の人が困る」というだけの話。残りの95についてはまったく無視した話である。

 さらに、それとは別に、「正字なんかたたきつぶせ」という略字派の意見もあった。これは「90の正字をたたきつぶせ」という漢字テロである。ただし、敗北が決定的となった以上、まともに論じることはなかったようだ。「犬の遠吠え」みたいなのがいくつかあっただけである。(例:南堂の悪口をあちこちに書き散らした人。)

 結局、まともな批判は一つだけで、それも私が解答することで、しっかりと納得してもらえた。
 他には、単なる悪口と、犬の遠吠えだけ。結局、「南堂批判」は、理論としては一つもなかったことになる。下品な悪口だけ、やたらとあったが。
Posted by 管理人 at 2005年09月09日 22:21
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