一点しんにょうと二点しんにょうの「辻」や「樋」ならば、子供でもすぐにわかる。しかし、略字と正字には、そういう簡単なものばかりがあるわけではない。次の例がある。
唖 逢 飴 溢 鰯 淫 迂 噂 餌 焔 襖 鴎 迦 晦 葛 鞄 翰 翫 徽 侠 卿 僅 躯 屑 祁 繋 倦 捲 鹸 諺 巷 麹 甑 榊 鯖 錆 屡 繍 酋 薯 藷 哨 廠 蒋 醤 鞘 蝕 逗 摺 蝉 撰 煽 詮 噌 遜 騨 腿 辿 樽 箪 瀦 捗 槌 鎚 掴 鄭 擢 溺 填 顛 堵 屠 賭 涜 瀞 遁 謎 灘 楢 禰 嚢 牌 這 秤 剥 箸 溌 醗 挽 樋 稗 逼 謬 廟 瀕 蔽 瞥 娩 庖 蓬 頬 鱒 迄 麺 儲 餅 籾 鑓 愈 猷 莱 漣 煉 榔 兔 嘲 屏 攅
これらについて、略字と正字との違いが、わかるだろうか? たいていの人は、すぐにはわかるまい。半分ぐらいならわかるかもしれないが、その正字をちゃんと思い浮かべることのできる人は、少ないだろう。
「ちゃんと差を理解しなくても、たいして問題はないよ」
と思うかもしれない。しかし、それが成立するのは、
「両者のコードポイントが同じである」
という場合に限られる。そして、「両者のコードポイントが同じである」というのは、「字形の変更」をした場合に限られる。
一方、「新しい文字を追加」というふうにした場合には、略字と正字とで、別のコードポイントが付くことになる。とすれば、略字と正字を、明白に区別することが必要となる。
たとえば、「詮索する」という単語を漢字変換したとき、「詮」に二種類の文字が出ることになる。その二つを区別する必要がある。さもないと、一つの文字に二つの文字が混在することになる。ここでは、同一の単語に対して、「字形が混在する」のではなくて、「コードポイントが混在する」のだ。……もちろん、ひどい混乱が起こる。
要するに、「字形の混在」か、「コードポイントの混在」か、どちらかが起こる。そして、「コードポイントの混在」の方が、はるかに混乱は大きいのだ。
たとえば、「鯖江市」という地名がある。「字形の変更」がなされていれば、あなたは何も対処しなくていい。単に今まで通り「鯖江市」というコードポイントを使っていればいい。しかし、新たに別の「鯖」という漢字を別のコードポイントで導入したら、二つのコードポイントが混在するから、非常に面倒になるのだ。いちいち区別する必要がある。
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大切なのは、「規格の統一」だ。そして、その統一の方法には、二通りがある。
(1) 一つの文字に対しては、一つのコードポイントにする。(現状派)
(2) 一つの規格内では、一つの字体に統一する。(略字派)
前者ならば、一つの文字に対しては一つのコードポイントだから、大きな混乱は生じない。ただし、規格内では二つの字体が混在するので、人間の記憶の負担は増える。
後者ならば、規格内では一つ字体(略字)に統一されるので、人間の記憶の負担は軽くなる。しかし、パソコンについては、一つの規格内で一つの字体に統一されるが、パソコンの規格のほかに、書籍という規格(?)もあるから、二つの規格が共存することになり、混乱が生じる。
かつて、「パソコンの字体を略字にすれば、世間の文字は略字に統一される」と夢想した人々がいた。その結果は、「二つの字体の混在」という、途方もない混乱だった。その失敗を二度重ねるべきではあるまい。
